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完全フィクション
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辺り一面、腐食された洞窟のような場所にいる。

まるで溶け出したようなその壁、天井、地面に至るまですべてがそうなっているのだけれど、私が手で触ってみると意外にも堅い。溶岩が冷えて固まったような、そんな場所にいるのかしらと思っては見たものの、情けない事に、ここに来る前の記憶が一切無い。まるで私はここで生まれ育ったかのような…。かと言ってここで何年何十年も生きた記憶がある訳では無い。そうだなあ、時間にして一日は経っていないんじゃないかと思う。

もしかしたら何か災害に遭って、頭でも打って記憶喪失になっているのでは無いか。と想いを巡らせてはいるものの、どうにもここ数時間から十数時間ぐらいの記憶しか無く、他はいくら思い出そうとしても思い出せない。本当に今まで私はここで生まれてすぐ植物人間のまま置き去りにされて、今日初めて目覚めたかのような妙な実感がある。しかしながら私がこうして思考しているのは、言葉を学んで知っているからに他ならぬので、その実感は勘違いであるだろうと推察する。

いくら考えてもどうにでも出来ないので考えるのを止めてみる。人間と言うものは暇だとたくさん考える。もしかしたら暇だから人は思い悩み、果ては自殺したりするのかしら。自殺と言う行為は知っている。何なんだろう。

自分の衣服をまさぐっては見るもののの、何も持ち物は持っていない。身分を証明するものも無ければ、誰もいないので服を脱いで確認した所、洋服のメーカーはユニクロだ。何の変哲もないカジュアルな格好である。何のヒントにもならない。

それでは何か探してみようと歩き回ってはみるものの、まず自分の一番古いであろう記憶では既に歩いていたのだ。多分一番最初に試してみたんだと思われる。

後戻りとか先に進んでいるとか言う実感が無い。枝分かれした場所に出たりはするものの、いかんせん今私はどこのどの辺にいるのかもわからない。かと言って食べ物がある訳でも無ければ、排泄欲も湧き上がって来ない。このままだと餓死してしまうのかなあとぼんやりと考えてはみたものの、別段恐怖も感じない。

そうこうしているうちに段々と歩き疲れて来たので、適当な疲れにくそうな所を見つけて座ってみる。そして寝転んでみる。意外と居心地は良い。とりあえず今日はここで休むとしよう。

果たして私は誰なのかもわからず、この場所がどこなのかも知る由も無いが、寝そべりながらなんとなく、人生ってこんなもんだよね、と何もわからないのに思ってみたりしながら私は眠りに就いた。
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肉がね、丸見えになると血抜きすればピンクと白になる。

それは筋肉や肉がピンクで白は脂肪のコントラスト。美しいものは新鮮で芸術作品のようだ。

分解する時は関節に沿ってこうグルっと刃物で丸く切って行く。

見て良し、食べて良し。肉とは何と素晴らしいものなのだろうか。





果たしてピンクと白の色は他の物でも芸術作品として成り立つのであろうか。私はじっくりと熟考した上で別の素材を使って表現してみる事にした。

発泡スチロールを使って溶かして見る。色を塗ったり、水に浮かべてみたり。

もしも肉が腐り溶けてガスが溜まり、皮が表面張力でパンパンになった所にぷつん、とナイフや針でつつけば、皮はめくれて裏側が剥き出しになるだろう。その時、まだ肉は美しさを保ったままでいられるだろうか。

それとも醜い外見と腐臭を撒き散らして不快にさせたり、命の尊さを思い知らせてくれるのであろうか。そんな失われた命ギリギリの造詣を表現してみたくなったのだ。そうすると少し茶色がかっている場所があっても良いのかもしれないな。

発泡スチロールと炎で格闘した。思い切った思い通りの物が出来上がったと思う。出来上がった作品を眺めながら、細部を少しずつ調整する。本物とも見まごうばかりの、我ながら素晴らしいクオリティで出来た気がする。

「一人で眺めるだけで収めておくには惜しいなあ…。」





作品を展示出来るかどうかを審査してくれる調査員に、警察を呼ばれる程のクオリティで、嬉しいやら警察に説明するのがめんどくさいやら色々あったが、何とか美術展の展示へと漕ぎ着ける事が出来た。

正直言って実際の生物だったりましてや人間なんかでこんなものを作りたいとは思わない。これは芸術作品としてのフェイク、もしくは別の素材でその存在感、リアリティを持たせる事に意味があると思っている。

観覧者の中には、気持ち悪そうに口を押さえて通り過ぎる人もいた。それぐらいのインパクトを、心に爪痕を残せたと言う事だ。まずまず自分の中では満足出来た結果だと思う。





美術展が終わり片付けて持ち帰ると、いかにも自分が何のために作ったのか、私は狂ってしまったのでは無いかと言いようのない狂気じみた自虐的な喜びに満ち溢れていた。ワインボトルを片手に、芸術作品を眺めながら、その痛々しさすら感じさせてくれるクオリティに惚れ惚れする。





突然。





抑え込んでいた欲求が溢れ出すように湧き上がって来た。いけない。そんなことをしてはただでは済まない。止めろ。止めるんだ。

頭の中の善心とは裏腹に何かに誘われるように立ち上がった私は、鋭利なナイフを手に取った。
透明な隔たりの向こうに君がいるとして、私が触れる事は出来ない。

細胞同士がくっついている以上、隙間はあるのだが、理論上でしかなく、私自身がその隙間よりも大きければ、入る余地もある訳が無い。





君はいつも心を閉ざしている。多分家族にも。それは誰に開かれる事も無く、一人ぼっちで終わるのかもしれない。それは環境だったり経験だったり、色々なものが作用しているのだと思う。

「誰も信じられない。」

が口癖で、私を目の前にしてその言葉が言えるのはとても肝が据わっているなと、皮肉交じりに感じる。しかしながら特に距離を縮めた訳でも、親密になった覚えも無いと、私自身に自覚があるから、特にそれがどうと言う事でも無く、現状を甘んじて受け入れるに至っている。





君はモテる。高嶺の花とはよく言ったものだが、どうやら人は手に入らないとわかり切っていても、それを手に入れたいと言う一種の反骨精神のような妙な欲求に駆られるらしい。何かと縁があり、そばでそのやり取りを見守っている私にとっては、

「またか。」

と口を出してしまう程に繰り返された、不毛な、そして一方的な恋愛のアプローチを見せられることになる。勘違いして欲しくないのは、本当に心の底から。嫉妬も羨望も無く、うんざりしているだけなのだ。その様な私を、当事者たちはどう見ているのかは知らないが、正直、たまたま場に居合わせただけで、結果のわかっている劇空間の一部になっている事自体、飽き飽きしているのである。だから全てを見届ける前に帰ってしまう事が多くなった。…いや、最近はもう冒頭でおいとましているかな。





「私は君を以上のような理由で、恋愛対象としては見れない。すまないね。」

何を勘違いしたのか、君は本日、何やら勇気を振り絞って決心したような面持ちで、私に告白して来た。私には愛する妻もいるので、特に不足している事も無く。断りの言葉を入れた瞬間、目の前で君は号泣しているのだった。

こういう時人は、本能的に優しく思いやろうとするのかもしれないが、私にとっては知人に過ぎない君をどうこうしようと思う気などさらさら無く、中途半端な優しさは、却って未練を残す事になるだろうなと、淡々と応対する事にした。

そしてまた私は、全てを見届ける事無く、君の前から立ち去る。君は何か大きな勘違いをしているだけだと思うし、何より性格だけ見てもお付き合いしたいとは思えない。それだけの要素を見せびらかした自業自得だ。そしてそれについて私が咎めた事も聞き入れなかった。上手く行くとは思えない。

背中で君の号泣を一瞥し、振り返る事無くその場を去った。

君には見えなかったみたいだね。私と君の間のアクリル板。
何もかもから逃げたくなって、私はここに来た。

誰もが迷うと言われるこの森であれば、誰にも邪魔されずに、見つからずに、ゆったりのんびりと過ごせるだろうと思っていたからだ。もしかしたら自分はもう二度と戻れないのだと言う可能性も頭を掠めたが、なんて事は無い。既にもう逃げ出した時点で、色々なものを取り戻す事は不可能だろう。このまま死んでしまっても構わないし、それもまた自然に還ると言う意味では、今の自分にとってとても有意義であるように思えた。

森と言うものは、そこかしこの景色が変わらない。文明の利器なんて一つも無いし、大きな木や石がたまにあるだけで、それを目印にするには、いかんせん都会生まれの都会育ちの私には、特徴が無さ過ぎた。

もしかしたら良く言われている『同じところをグルグル回っている状態』に陥っている可能性もあるが、私には方向すらわからないし、この鬱蒼とした木々に阻まれて、陽の光すらここには届かないのではないかと思えるぐらいの暗さと涼しさがあった。

ともかく夜ゆっくりと過ごせる場所を探そう。穴倉ぐらいあるかもしれないし、いざとなれば下は葉っぱだらけなのだから、誰に気兼ねする事も無くそのまま寝てしまっても良いだろう。

「私は自由だ。」

そう呟いたら自然と笑いが込み上げて来た。色々なものに疲れ果ててここに来た私にとって、笑ったのは一体何年振りだろうか。考える事すら面倒なので、ひとしきり笑った後、とりあえずの落ち着く場所を探す事にした。





いかん。いかんな。

私は都会生まれの都会育ち。

いつまで経っても景色は変わらない。

どこを歩いているのかもわからないし、何より飛び回っている虫が鬱陶しい。

葉っぱの上に寝転がってみたものの、身体に蟻が這って来る。

「キモチワルイ。」

このままでは歩き回るだけになりそうだ。

ちょうど良く座れそうな石も無い。

スマホも時計も置いて来たので、どのぐらい時間が経っているのかもわからない。

太陽を見つける事が出来ないからどうにも出来ない。

私は焦っていた。

自由を求めてやって来たのに、自然に翻弄され、蹂躙され。とっくのとうに心は折れていた。

「帰りたい…。」

なんだか泣けて来た。





どのぐらい経っただろうか。遠くの方からエンジンの音が聞こえて来た。

「車だ!」

嬉々として車道があるであろう事を思い浮かべて走り出した。肩で息する程全力疾走した後、私は車道に辿り着いた。

「助かった~…。」

ひとしきり泣いた後、私は大声で笑った。

なんだ。結局は都会生まれの都会育ちである私にとって、自然と寄り添って生きて行くなんて土台無理な話だったのだ。

もう夜だ。明日、迷惑を掛けたみんなに謝って、いつもの生活に戻ろう。

嫌だったはずの日常生活が急にいとおしくなって来た。

私の居場所へ。

帰ろう。
占星術だかなんだか知らないが、他人にたかだか12星座だか13星座だか知らないがともかくそんな少ない選択肢で人生や運勢を決められたくない物である。

「何座と何座だから相性が悪い」

とか、そんなものに頼って生きて恥ずかしくないのかお前はと問いたくなる。が、しかしどうにもそういうものが好きそうな女性に限らず、男性でも好きな人間もいて、あろうことか家族専属の占い師に運勢を占ってもらったりするような人間もいる事に驚愕した。

私としてはあまり運がどうとか、不確定で見えないものに頼りたくなど無いのだが、いかんせん結構な人数、それは少なくない数の人間が信じていたりするものだから、もしかしたら実際、それが偶然だとしても救われる人間がいるとするのなら、それはそれで仕方無かったのだろうか、本人が良いのならそれで良いのかもしれないと、私なりにともかく理由を付けて納得する事にした。どうしようもない物にイライラしてもしょうがないからだ。

そんな訳で占星術に限らず占いの話になれば、私は特に信じていないがそれで救われれば良いのではないかと聞き流すようになった。聴いてもらえればその占いの効果を説明して何やら機嫌の良い表情を見て、ああ、これで良かったんだなと思えるようにもなった。





しばらくして。

とても仲良くなった女性が占い好きである事以外は自分の好みど真ん中で、占いの部分は流して上手くやっていた所に、どうにも困った事になった。

「絶対ね。占ってもらった方が良いよ。良く当たるから。」

彼女の事を愛しているし、仕方が無い、内容は聞き流して乗り切るかと腹を括って、何万回聴いたかわからないそのセリフを受け入れた。彼女としてはきっと私の事を思いやって紹介してくれることに違いないのだから、それを反故にする事もあるまい。

結果的には、誰にでも当て嵌まるようなことを言われたし、特に私の人生に問題は無いようだった。彼女はその占い師が売り出しているヒーリング音楽?のようなものを良く聴いている。このまま行けばきっと彼女ともゴールイン出来る事だろうし、それに関しては彼女との仲を深める為の材料になってくれた占い師に感謝せねばなるまい。





彼女と付き合って同棲するようになって、例の音楽を聴きながらさめざめと泣いてしまう事があるぐらいで、私達の人生は上手く行っていた。様に感じられた。

結婚する事にもなったし、占い師縁の場所で式をあげるそうだ。やれやれ。
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