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完全フィクション
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日課となっている耳掃除を、三日ほどしないで
耳の穴に耳かきを突っ込んでみた。

すると奥の方で聴こえるガサっと言う音。
押し込まない様に慎重に、中心から掻き出す。

案の定、大漁豊作だ。何度も慎重に同じ作業を
繰り返す。ヤバイ。普段毎日何度も掘っている
だけに、数日置いただけでこんなになるとは。

奥の方で一周。少しずつガサガサは取れていく。
指で浅い所を確認。手前に結構細かいのが
貼り付いてるな…。少しずつあたりをつけて
細やかに耳かきを動かしていく。

へらに次々と耳垢が乗る。これはたまらん。
痒い所も掻いてみると耳垢が。これ全体に
耳垢があるんじゃないか。ある程度やったら
綿棒でも細かいのを取った方が良いかも。

奥の方で一周、中間で一周、浅い所を一周。
何度でも耳かきで掻き出して、それでも
なかなか無くならない。湧いてるんじゃないか。

これだから止められ無いんだよな。耳垢が取れて、
痒い所に耳かきが届いて、掻き出す快感。

小一時間の格闘の末、耳垢がたんまり除去出来た。
念の為にと違和感ある所を掘ると、まだ取れる。

よく耳かきを使い過ぎて耳垢が無くなったなんて
話も聴いた事があるが、毎日掘っても無くならない
この耳は異常なんだろうか。しかしながら人より
奥まで耳かきを突っ込んでいるというのに、
血が出たりはしない。長年の刺激で皮膚が厚いのか。

いやしかし何度やっても気持ちいい。綺麗に出来て、
快感。何と言う素晴らしい作業なのだろうか。

思考を巡らせながら、満足するまで堪能した。
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椅子に座ると、彼女が横に椅子を並べて、
同じ方向を向いて座る。

「それじゃあお願いします。」

「うん…。」

俺は耳かきが好きだ。そして彼女は好きじゃない。
だけど俺と彼女は愛し合っていて、彼女は俺の為に
好きでも無い耳かきに挑戦してくれるのだ。

こういう耳かきと言えば、膝枕かも知れないが、
あいにく椅子があるだけにここはそんなことが
出来る場所ではないし、耳かきをし慣れていない
彼女にとっては、やりづらいかも知れない。

耳垢が落ちる可能性だってあるからね。
俺は前を向いたまま、横から彼女が
耳かきをしてくれる。意外とこれが
医者なんかでもやってもらえる体勢な
だけあって、充分に気持ちいいのだ。

やり慣れていないからか、浅めの所を
首側の方から回転させるように耳かき。

耳には敏感な場所があって、穴の顔側
から頭側にかけてそうだったりする。

彼女は完璧を期するあまり、敏感な部分を
他の部分で耳かきする時に同じ力の為に
俺がビクつくのが嫌なようだ。それも
感覚の反射だからしかたがないのだが。

俺にとって大事なのは、彼女が好きでもない
耳かきを俺の為にやってくれることが
嬉しく、感謝しているのであって、快感や
耳垢がどれだけ取れたかなんて二の次。

やる範囲が浅く、俺があらかた綺麗にした
後にやってもらう事が多いから、それほど
取れないであろう事も予測していたし。

短い時間ではあれど、その時間は全神経を
集中して、彼女からの献身的作業を堪能する。

膝枕なんて相手の脚を痺れさせるだけだろうし。
そんなことしなくたって、俺の耳は充分に気持ちいいのだ。
何を思ったのか、彼は蛸を買って来た。それも、丸々一匹。

私は今日、機嫌が悪かった。仕事で上手く行かなかったり、
勤め先の人間関係が上手く回っていなかったりして、
疲れていた。明らかにどんよりと表情を曇らせる
私を見ていた彼は、黙って買って来たのだ。

「えっと…その蛸、どうするの?」

彼が調理師免許を持っているのは知っているが。

「これは、君の悩みや疲れ、負の感情だ。」

素っ頓狂な事を言い出す。

「こんなもの、捨ててしまえばいい。」

ふいに彼から手渡された蛸。ど、どうすんのよ。
この状況…。彼の不可解な言動にも腹が立って、
キッチンに用意されたまな板の上に叩きつけた。

それから彼は見事な手際で、蛸の眉間に
アイスピックを突き立て、頭と脚を切り離し、
皮を剥き、頭を裏返してワタを取り除く。

ボールに投げ込まれたそれを、これでもかと
言わんばかりに塩揉みする。ぬめぬめしやがって。
こうしてやる。水洗いしてからさらに不満を
ぶちまけるように塩揉みを繰り返す。

疲れ果てた私は、手を洗ってリビングのソファに
身を委ねる。どんな慰めだこれは…。笑いが込み上げる。



いい匂いがする。彼が料理を持って来る。
たこ焼きを主食に、刺身、唐揚げ、
湯引き、まさに蛸のフルコース。

「何だか疲れてたみたいだからさ。ごちそうだよ。」

「それで蛸料理?こんなの初めてよ。」

呆れ顔で皮肉めいた台詞を吐いてから、プッと吹き出す。
彼の顔を見ながら笑いが止まらなくなると、彼も
ニコニコしながら私を見つめていた。

「せっかくだから、食べてよ。刺身も
唐揚げも、出来立ての方が美味いでしょ。」

言われるがままに、笑いをこらえながら、
吹き出さないように頑張って口に運んだ。

「…美味しい。」

満面の笑みを浮かべる私と彼。
もう、大丈夫。彼のおかげで
私の疲れは吹き飛んでしまった。
気が付くと、私は暗闇の中を歩いていた。

怖くて、悲しくて、逃げたいから傍観者に
なっていたと言うのに、私が私の人生の
主人公以外には成れない事を痛感していた。

だってそれぞれがそれぞれの道を歩いて来た
その道程を、まざまざと見届ける事になったから。

1人、また1人と目の前からいなくなる
現実に、耐え切れないはずなのに、どこか
確信を持って私の願いを構築するに至る。

存在していた事ひとつひとつに意味があり、
私が決して無駄になんてさせない。

みんながそれぞれの願いの為に、そして
自分の為に、私の為に。生きていてくれた
事を忘れない。ここからは私の道。

ノイズのように現れては消えていった、
幻想のような現実と、信じられない惨劇を
ハッピーエンドにする為に私はここに来た。

負の感情なんて持たなくても良いんだよ。
それは自然に心から溢れ出してしまう
ものだけれど。もっと楽にして良いから。

全てに決着をつけるから。全てが元通りに
なる事は無いけれど、私が終わらせる。

繰り返し挑んで来た問題と戦い続けて
来たあなたの苦しみもこれで終わるから。

私を信じて。私に任せて。
もう、迷わないよ。

私は私の願いを叶えてみせる。

気が付けば、私は光に向かって走り始めていた。
久しぶりに会った彼は、学生時代と変わってなかった。
ピアノが弾きたいと言う。それも外国へ行って。
目標を持つ事は良い事だ。俺は応援すると励ました。

別の日にあった彼はこれまでの日々を語ってくれた。
結婚していた奥さんとは別れたらしい。子供も
いると言うのだが金ヅルにも近い扱いのようだ。
元奥さんは憎むほどだが、子供は可愛い。
彼は寂しそうに、子供にとっては他人だと言っていた。

20年近く勤めていた仕事を辞めた。身体を壊して、
自分の人生を考える機会を得たようだ。彼の人柄も
あってか、数百万の退職金と、数ヶ月の失業手当を
もらえるに至った。長年の苦労が評価されたようだった。

彼には、離婚の後に恋人がいた。しかし、仕事が忙しすぎて
別れたと言う。しかし連絡は取っている。仕事を辞めたんだから
ヨリを戻せばいいじゃないかと言ったのだが、どうやら
彼なりに無職の自分では申し訳無いと思っているらしい。
元恋人のご両親は、お金持ちなだけに顔向け出来ない、と。

彼には金と時間があった。奢って貰ったりもした。
しかしながら、そんな使い方は勿体無い、使うなら
自分の為に使ってくれと申し出たが、彼はいいんだと言った。

彼は遊んだ。ギャンブルが好きだった。パチスロに何万も
つぎ込んだ。損ばかりではなかったが、全体ではマイナスだ。

キャンプ用品も揃えてキャンプにも行った。美味しい
ものを食べた。出不精だが、新しい土地にも訪れた。
色んな人間と飲んだ。カラオケに行って歌い倒した。
ゲームを、本を、漫画を買った。映画を借りて見た。

彼はスポーツが好きだ。だからSNSのコミュニティを
利用して、スポーツも楽しんだ。バレーにフットサル。
一人でやるよりもチームプレイの方が好きだと言った。

楽しめなかった人生を謳歌するように、
時間を取り戻すように彼は楽しんだ。

株にも手を出した。大きな損はしてないが、
他に使いすぎてマイナスだ。若さゆえの
過ちも犯したし、償う為にも金を使った。

そして最近彼はしきりに、自分は死んでしまえばいいと言う。
数百万あった軍資金は、百万に減っていた。自由ももう時間が
限られている事を悟っているのだろう。使えば、無くなる。

彼はピアノを弾いていない。一度動画を見せてもらって、
素晴らしい腕だったけれども、行くはずの教室にも行かず、
パスポートは取ったが、外国にも行けていない。

俺は正しい事ばかりでは人生は生きていけないと知っているし、
借金もあれば、死にたいと思った事なんて何度もある。
だけども、時間が経てば解決する事があるのも知っている。
彼のいい所も悪い所も知っているだけに、生きて幸せになって
欲しいなと、いつも願うばかりだ。ピアノは弾いてないけれど。
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37
性別:
男性
誕生日:
1987/01/14
職業:
フリーター
趣味:
音楽鑑賞
自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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