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完全フィクション
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何を考えてこんな季節に、しかもこんな天候の中で雪国なんかに来てしまったんだろう。

冬の雪国へは行くべきじゃ無い。並大抵の覚悟ではえらい目に遭うのはあまりにもデメリットがデカすぎるからだ。どう考えても割に合わないが、約束してしまったのだから仕方のない事なのだろうとは思う。

単純な話、人に会いに来た。そして俺は冬の雪国を舐めていた。何度も電車が立ち往生を喰らい、降りた目的地…実際にはまだ続きがあるのだが…には、大雪が降り積もっていた。

都会生まれの都会育ちな自分には、そんなものすごい雪を見たのは数えるほどしか無くて。スキーにでも来ていれば別であるが、ただ人に会いに来たと言うだけなのにこのありさま。前日には高速道路が全面封鎖されたと言う。おかしな早朝に着いてしまったものだから、誰もいない雪景色の駅前商店街で立ち尽くすのみ。バスの時間までは数時間。待つしかない。ただただ雪が降り積もるのを眺めながら、強行した自分の馬鹿さ加減に呆れ続ける事しか出来なかった。

バスに乗ってしまえば一時間も掛からないのだけれど。幸い、電車が暖を取れるように止まってくれているので、駅に戻る事にした。

とりあえずどうにかならないかと辺りを散策したのが失敗だった。普段から履き慣れた運動靴にはしっかりと雪から水分を吸い取ってびしょ濡れだ。地元に戻ったら買い替えなければなるまい。放っておくと、靴底がベロンと剥けたりするからな。

足に水溜まりのような感触を味わいながら、ふと見ると除雪車が車道の雪を除けている。おじさんが様子を窺いながら除雪車を自由自在、縦横無尽に走り回らせていた。降り積もる雪の量を見ると、焼け石に水とも思えなくも無いが。

そんな光景は都会ではめったに見られないので、除雪車にスマートフォンのカメラを向けた。するとおじさんがこちらに気付いたのか、大きく手を振ってくれる。何とはなしにこちらも振り返してみる。子供の頃、歩道橋の上から電車の運転士に向かって手を振るとちゃんと振り返してくれた、あのワクワク感がよみがえる。

心は暖まったから、どうにもならない状況も楽しみながら、待つとするかな。

電車に戻れば、意外と人が待っていた。里帰りか旅行なのかは知らないが、この大雪にご苦労なこって。

自動販売機で買ったホット缶コーヒーで手を温めてから、喉の奥へと流し込む。冷え切った身体にホットコーヒーも悪くない。そんな気持ちで待ち続けた。
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「あなたは細くて美人だから良いじゃない。」

「褒めてくれてありがとう。自分では自覚無いんだけどね。私、結構異性で痛い目見てるし。」

「そうなのかあ。」

「あなただって背が高くて、ガッチリしていて頼もしいじゃない。」

「バレーボールだけで生きて行けたらそれでも良かったんだけどね…。恋、しちゃったから。」

好きな人に異性として見てもらえない。たったそれだけの事だけど。それまで大して気にもならなかった自分の隠れたコンプレックスが、私の中で大きくはじけてしまったみたい。

目の前にいる女神の様な、女優の様な美しさを持つ彼女とは初対面だ。話を聴けば、バレエをやっているらしい。そんな彼女と私は、崖に脚を投げ出して、まるで昔からの親友を見つけたかのように、眼下に広がる谷底を眺めながら話をしていた。

彼女は彼女で技術が伸び悩み、プライベートでは異性に騙され続けて、悲観して、それはいつしか絶望に変わり、ここに飛び降りに、死にに来たと言う。

私もそうだった。まともな人間として自分の好きな人に認めてもらえない事が何よりも悲しくて、絶望して、ここに飛び降りに、死にに来た。

偶然とか運命とか信じる方では無いけれど。同時刻のタイミングで彼女と鉢合わせ顔を合わせて、おおよそこの場にそぐわない話をしているのは、もしかしたらそう言った類の事なのかもしれないと思っていた。

「ちょっと怖いなあ、なんて気持ちもあったんだけどね。」

「私もよ。」

「一緒に死ぬ?」

「今日会ったばかりなのに?(笑)…でも、それも良いかもしれないわね。だって、私も怖かったもの。勇気が必要だった。」

「一緒に、死ねるかなあ。怖くなって、踏み止まってしまって、あなただけ飛び降りてしまったら申し訳ない。」

「そうしたらそれは生きたいって事だから、良いじゃない。」

「死にに来たのに?」

「一時の気の迷いなんて、誰にでもある事じゃ無いかしら。」

「だったら…二人で生きた方が良いのかな。」

「それも考えてるよ。選択肢の中に入ってる。」

「う~ん…。どうしよう。」

本音を言えば、彼女には死んでほしく無かった。私から見れば、彼女は私なんかとは違って、いつかは必ず幸せが掴める様な気がするし、何より私は会ったばかりの彼女に、命を大切にして欲しいなと思ったからだ。これから死ぬ人間が、だ(笑)。

でももしかしたら、彼女も同じ事を考えてくれているのかもしれないな。そんな事を考えたら、急に恥ずかしいと言うか、嬉しいと言うか、そんな気持ちになった。





私たちはどうする事も出来ずに、いつまでも谷底を眼下に眺めながら、脚を投げ出して語り続けた。
「かゆい。」

ボリボリと痒い場所を掻く。それは一種の快感とも言えるが、痛みを伴う事もある、紙一重の挙動。

爪とは、不思議な身体の部位だ。気が付けば伸びていて、ちょうど良く無ければ、不快だったり邪魔だったりする。

時に、女性にとってはファッションの一部となって、艶やかに彩られたりもする。それは受け取る側の感性によってはそれこそ邪魔にしかなり得ないものではあるが、どうだろう。昨今に於いては市民権を勝ち取り始めているような気もする。中にはペディキュアなんて、サンダルだかミュールでも履かない事には見えそうもない場所にまで塗りたくって飾る方法だってある。

「見えない所のおしゃれだなんて、メーカーの策略じゃ無かろうか。」

言ってはみたもののそうでしかないとしたら下着メーカーは商売あがったりだろうし、私が思うにそのどれもがニーズがあってこそのジャンルであるのだろうと一人、納得をする。





雨が降って来た。

どうにも朝から雨の匂いがするなと思えばすぐこれだ。通り雨で済んでくれればいいのだが…。とシャッターの閉まった商店街の辺りで軒先を貸してもらい雨宿り。

すると、いかにもな派手に着飾った、それでいて嫌味の無い女性が駆け込んで来た。言うなれば美人であるし、化粧映えのする顔なのだと思う。私の主観から見ても、目の保養にはなりそうな女性であった。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

「良く降りますね。」

「そうですね。」

「あっ!かたつむり!」

突然の話題転換に驚く間もなく、横にあった自動販売機に駆け寄る彼女。おいおい気を付けておくれ。そのかがみ方だと『見えないおしゃれ』が『見えるおしゃれ』になってしまうよ。

目のやり場に困りながらも彼女の手招きに近付いて行くと、確かに自動販売機を縦横無尽に這い回るかたつむりがそこにあった。

「珍しい~♪子供時代以来かも。」

少女のように目を輝かせる彼女は、可愛さも兼ね備えていると言うのか。何やら自動販売機にしがみつくように手を添えながらかたつむりを凝視する彼女の横顔は、確かに可愛らしさがあった。

「角出せ槍出せ頭~出せ~♪ふふふ♪」

ついには鼻歌まで飛び出す始末。何処まで無邪気なんだろう。厚化粧とのギャップが何とも言えずシュールだ。

その気持ち良さそうに這い回るかたつむりと、彼女のゴッテリと彩られ飾られた長めの爪がサイケでポップ。芸術作品のようにも思えた。





「お邪魔しました~。」

私に言ったのか、軒先のシャッター店に言ったのか。どちらもかもしれない。

気が付けば、雨は上がっていた。

少女のように屈託のない笑顔で手を振りながら、彼女は去って行った。

さて、私も行くとするか。
私は独りになってしまった。

もちろん子孫はいるけれども、愛するあなたがいない事が、私が独りであると言う証明に、これ以上充分過ぎる理由など存在しなかった。

毎日、事あるごとにあなたに想いを巡らせる。巡らせては、ああ、良い人生だったな、と反芻するように、思い出に浸りながら、何の変哲もない毎日を過ごしている。

死後の世界など信じちゃいないが、私にとってはもしそんな世界があるのなら、あなたと再会出来ると言う希望として信じてみたいとは思っている。

身体もさして動かない。かと言って別に動きたい用事があるわけでも無く。

ありがたい事に子孫に迷惑を掛けない程度には、自分で生活出来るレベルの動きは出来ていた。私にとってそれはとても気に病まずに済む安心であった。

毎日とは言わず、毎週、毎月、毎年とどんどん時間は過ぎて行った。あなたがいないからいつも何も変わらない。食事を摂って、睡眠を取って。あなたがいればほんの些細な事も、楽しかったり、嬉しかったりしたのだろうけど、今は特に何の感慨も沸かなかった。

いつ死んでもいいや。私がそう思っていたのはずっと昔。何も知らない若い頃。それからたくさん経験を積んで、色々な事を覚えて。あの頃とは意味の違うものになってはいたものの、久しぶりにそんな気持ちに毎日なっている事が少しだけおかしかった。

それをあなたがいれば伝える事も出来たし、くだらない事だなと反省する事も出来た。しかし今の私には一人で思い、自己完結する事しか出来ない。それが少しだけ、あなたがいない事が本当に、寂しかった。

子孫はどんどん大きくなって行く。経験を重ねて成長して行く。年齢を重ねて老獪になって行く。私だけが変わらない。あなたがいない私だけが。

ずっとずっと待ち望んでいた時は、気が遠くなるほど繰り返された日常の後に訪れた。

何故わかるのかは自分でもわからないが、今夜、眠りに就いたら私は二度と目覚めない気がした。そんな気持ちは初めてだった。死にたい訳では無かったが、あなたのいない世界で生きていたい訳でも無かった。

この直感があっているかどうかはわからないし、もし天に召されたとして、あなあたに会える保証は何も無いけれど。年甲斐も無く、あなたに会えるかもしれない、そう思ったらワクワクした。

少しだけ…最後に子孫に迷惑を掛けてしまうのはしのびないけれど、順番だから仕方が無い。のんびり、旅立つこととしよう。愛しいあなたの元へ。
静かに。ただ静かに。あなたは呼吸を繰り返していた。

私はただそれを見守るだけで、かと言って何が出来ると言う訳でも無く、そのある種の美しいとも言える様を眺めている事しか出来なかった。

あなたに出会ってからどれぐらいの月日が経っただろう。人は死ぬまで人生はどんなものだったかと、答えを出す事が出来ないと思ってはいるものの、私にとってあなたと過ごした人生は間違いなく幸せだったと言えるだろう。

それは今だからこそ言えるのでは無く、いつ何時どちらかが途中で挫折したとしても、私自身は幸せだったと、胸を張って言える、そんな毎日をあなたと過ごして来たのだった。

こんな日が来ることはわかっていたし、特に悲しいとも思わない、ただただ、あなたともう話が出来なくなってしまうであろう事が寂しく感じられるだけだった。それすらもただの自己満足なのだと、自分を納得させるためだったとしても、心から思える。

出来る事なら最後に聴いて見たかった事があったのだが、こうしてあなたが自然でいられる事に、そして最後を迎えられる事自体、幸せだと思わなければならないだろう。あなたは痛みも苦しみも無く、専門家である医者に言わせれば眠っているようだと繰り返し感心するばかりであった。





ある日の事。

あなたは突然目を覚ました。

「どのくらい眠っていたのかな?」

「もうずいぶんと…何か月かは眠っていたんじゃないか?」

「そう。…でも目を覚ませばこうしてあなたがそばにいてくれる。私の人生は振り返れば幸せだったのかもしれないね。」

「それは私も、今までの人生を振り返れば、とても幸せだったと、つい先ほども考えていた所だよ」

「同じ事を考えているって言うのも、夫婦だからかしら。」

「そうだとしたら、実に光栄だね。私は素晴らしいパートナーを持った。」

「おだてても何も出ないよ?(笑)」

そうひとしきり微笑んだ後、あなたはこちらにしっかりとそのまなざしを向けて、確かにこう言った。

「ありがとう。本当に幸せ。」

「こちらこそありがとう。」

そして手を繋いで目を閉じたかと思うと、あなたはまた眠りに落ちたようだ。まるでそれは夢であったのでは無いかと思えるぐらい自然な出来事で、誰にも信じてもらえないであろう体験かも知れなかった。何故ならその体験は私しか味わっていないのだから。

心電図が直線となって、『ピー』と言う音をしばらく聴いた後、我に返り、ナースコールを押した。



あなたは眠るように息を引き取った。
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