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完全フィクション
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人間不信に陥ってからと言うものの、自分に害を為す人間を
拒否し絶縁していたら、気が付けばひとりになっていた。
必然的に両親や祖父母と密に過ごすようになり、
誕生日の夜も、あろうことか実家にて過ごしてしまった。
実家の私鉄最寄り駅のホームで、音楽を聴きながら終電を待つ。



「これからどうなるかなあ・・・。」



先に見えぬ未来と、大切なものが何も無くなった明日を想い、
冷たい透明な空気の中、白い吐息と共にため息を吐く。

自分が愛する人間に対し、何一つ役に立てずに絶望した。
長年付き合いのあった友人に裏切られ、繋がりを絶った。
新しい何かを作り上げる気にもならず。やる気も持てず。

冷め切った虚空の様なぽっかりと何も無いこの心を、
再び何かが満たしてくれるような時が来るのだろうか。

もちろんそれでも付き合いのある人間もいるのだが、
こう心が冷め切ってしまっていては、自分の人生なのに
何だか他人の人生を見つめるが如く。フィルター越しの
景色は色褪せて、まるでモノクロームに見える。

いつ死んでもおかしくはないなと自嘲気味に苦笑しつつ、
終着駅に辿り着いた訳でも無いのになかなか楽しめた人生だったと
これ以上はもう何も無いだろうな、と光の無い眼差しで虚空を見つめる。

街頭の灯りやホームの電気のせいで、この場所からは
夜空の星も見えない。その光景に自分の人生を重ねた。

死にたくても両親や祖父母の事を思うと、自分では死ねない。
いっそのこと誰か殺してはくれまいかと本気で思っていた。
小さな喜びが転がるくらいで、この道の先には何も無いのだから。



あれから数年が経ち、不思議な事に新しい出会いと繋がりが、
今の自分の境遇を幸せなものにしてくれた。諦めていた人生に
たくさんの喜びと温もりがやって来て、自分からも何かをやろうと
言うと気力が沸いて来た。こんな前向きな気持ちは久しぶりだ。

古き良き友人達と再構築した新しい居場所も出来て、夜を明かして
呑んで歌って話して笑って。まるで昔が遠い過去どころか何か
映画か夢でも見ていたんじゃないかと言うぐらいの展開を見せた。

これからの一生を共に出来る、愛する人も見つかった。
偶然の重なりと愛情の積み重ねが成し遂げた奇跡だ。

絶望を知りながら、ひとつひとつ繋ぎ合わせて、組み立てた。
それはきっと信じていないはずの神様に愛されているかのような、
日常のささやかな幸せが心を満たしてくれている。



籍を入れ、かみさんと暮らす事になりました。
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生まれ出でた時、周りの人は笑ってくれていて、
私は泣いていた。それからと言うもの、
家族と周りの人たちに愛され、一身に愛情を受けて、
健やかに育つ事が出来たと感謝している。

箱入りと言われても仕方の無いような、
時には厳しく、時には優しく。存分に色々な事を教わり、
背中を見て、自分もこうしようと生きるべき道を
決めるだけの材料は与えてもらったと思う。

もちろんそれは過保護と呼ばれても仕方の無い境遇だし、
だけどそれは誇るべき家族と周りの人たちからもらった
財産だと胸を張って言える。注がれた愛情。



『飴は甘ぇ。』



自分の意思を持ち、一人立ちとは言わないまでも、
夢を抱き、こうなりたい、ああなりたい、こう生きたいと
自分の考えだけで歩き始めて来た道程。

それはまだどうしたらいいかわからず、
夢を思い描きながらもただがむしゃらに
その目的に辿り着く事だけを信じて
ひたすら前を向いて歩き続けた日々。

それは振り返れば無駄な事だったのかも知れない。
しかしながらそれは大きな経験となり、以後様々な
場面で役立つ事となる。ただし、夢に届くには
あまりにも遠く、まるで自分が小さな蟻のように
見上げるそれをただ眺めるが如く。



『アルミ缶の上にある蜜柑。』



たくさんの挫折を知り、自分は夢に、目標に届かない
人間だと諦め、他人に裏切られ、自分が愛すべき
人間に対して何の役にも立てない。それは絶望を味わった
瞬間でもあり、自分の思い通りに行くばかりではないと
痛感した、戒めのような苦痛と悔恨の積み重ね。

失うものと得るものが交差して、混乱しつつも
生きていかざるを得なかった日々そのものであり、
もう繰り返したくは無いと、人間不信に陥っても
尚且つもがき苦しみ、涙すら失ってしまう。

思い知ると言う言葉を何度頭の中で繰り返したのか。
いっそ死んでしまおうかとすら思った。



『カレーは辛ぇ。』



再構築の中で再び色々な大切なものを取り戻し、
愛する人も、大切な友も、家族も。繋がりを取り戻した。

後は生まれた時とは真逆の最期を迎えられたら、
きっとそれは幸せな人生だったんじゃないかと思う。
周りの人は泣いてくれて、私は笑って安らかに眠りたい。

答えを見つけた今は死ぬ事すら恐怖を感じる事も無く。
ただ平等に訪れるゴールを目指して。歩く事さえままならなく
なったこの身体を支える一本のそれは、まるで私が
感じて来た全てを集約するかの如く。



『素敵なステッキ。』



振り返れば、生きて来たのはそんな人生。
幾多のヒーロー達の制止を振り切り、ここまで来た。



世界征服。



星の数ほどの悪の組織がいて、
それを目的とする奴らはいるだろうけど、
その後どうするのかを決めている奴は少ない。

世界征服とはゴールでは無い。
そして、我欲を満たす為だけの物でも無い。
本来ならばヒーロー達にご助力願いたい程だ。

まずは、砂漠まで海底パイプを繋ごうと思う。
水の無い国に、綺麗な水を安定供給する為だ。
もちろんメンテナンスの為のスペースも忘れずに。

食料も存分に、飢餓など未来永劫起こらぬ様に
全地域へ漏れなく届けられるルートを確立する。
もちろん自然を残しながらの交通機関も万全にする。

欲にまみれた政治家は全員クビだ。世界中の人々の為に
時間と努力を惜しまない人間を起用して全力を尽くす。

もちろん働かなければ一定の収入は得られぬよう配慮する。
その分病気や怪我などで働けない人間の厳密な判別と、
働けないのであれば手厚い福祉とサポートを打ち立てる。

スタッフなどに自分だけ利益を得ようなんて人間は置かない。
他人の為に自分を尽くせる人間こそが、利益を得るべきだ。

医療・科学の平和的な発展に関しては予算を惜しまない。
政府の無駄な資金が一番の悪。食事なんて弁当屋で充分。
国で誰もが美味いと思える弁当屋をチェーン展開したって良い。

学業も、誰もが一定のレベルまでは授業を受けられるように
おかしな思想の下で動かないようなまともな教師を揃えて、
生徒達の事を第一に考える教師を選別し、現場に揃える。

勉強だけではダメだ。今まで教えて来なかった、
建前などでは無い、人間にとって本当に大切な事も
大人になる前に充分に教えなければならない。

災害対応は私の一存で動いてもらい、全責任は私が取る。
治水対策も万全にしなければならない。

そして世界征服の為に尽力してくれた仲間達への
一生涯の生活保障と、見返りは充分にしてやろう。

「以上が私のビジョンだ。諸君には
命を賭けて遂行してもらう。頼んだぞ。」

『イー!』

全く。こんなこと私の様な人間が世界征服を
してまで遂行するような事でもなかろうに。

どうして今まで誰も実行してこなかったんだろうか。
やはり自分の利益が一番大切な人間が上に立っていたと言うことか。

結果的にそれが、自分の過ごしやすい
幸せな世界を作り上げる事になると言うのに。

「これから忙しくなるぞ。」

窓際で外を眺めながら、この世界の行く末を案じ
世界中の誰もが幸せになれる事を、心から祈った。
俺はキャバクラなんて行った事無かったから、先輩に無理にでも行こう、
社会勉強だからなんて言われても乗り気では無かった。

大体金を払って女性とお話に行く意味がわからない。
話したいなら話しかければいいし、騒ぎたいなら
男同士でも男女混合でも友達を誘えばいい。

実際に無理矢理連れて行かれた先で、特に面白みも無く
きらびやかに着飾った女性を、どこか冷めた目で大変だなあ
とか思いながら、ちびりちびりと美味い酒を煽っていた。

「君は素敵だねえ。僕のお家に来ないかい。」

先輩の一人が女性の一人を口説き始めた。
そのあまりの熱心な口説きっぷりに一同爆笑。
もしかしたら口説いている先輩も、口説ける訳無いと
わかっていながらも、この空間を楽しんでいるのかもしれない。

爆笑は何時間も続いた。腹が痛かった。笑い転げるとはこの事で、
いくら飲んでも酔わないぐらいに笑い続けた。

ベロンベロンに酔っ払った先輩方と分かれて、
今夜泊まるホテルにそれぞれ戻った。



翌朝、二日酔いになる事無く朝を迎えて、いやあ昨日は
良く笑ったなあと振り返り思い出し笑いをしていると、
昨日口説き倒していた先輩と顔を合わせた。

「いやあ、昨日は凄かったですねえ。」

「そうかい?あんまり覚えていないのだけれど。」

「みなさんで大爆笑させてもらいました。」

「そういえば、昨日の女の子の名前、なんだっけ・・・。」



絶句。そして再び爆笑。



「せ、先輩。あれだけ熱心に口説いてたのに・・・。」


「いやあ、顔も良く覚えてないんだよねえ。何言ったかなあ・・・。」

ヒーヒー言いながら同席していた先輩と、反芻するかのように
昨日の顛末の確認と、首をかしげて思い出せないと言いながら
朝飯を食べる口説き倒した先輩は、非常に面白かった。

一人、馬鹿になれる人がいれば、キャバクラも笑える場所なんだなと
不躾な事を思いながらも昨日痛くなった腹痛をぶり返しながら思った。

俺には一人で行って楽しむ事など出来ないだろうけど。
わざわざ金を使って楽しもうとは、やっぱり思えないから。

バブル時代の文化の賜物なのかな。
とにかく金を使う事を考えて、綺麗な女性をはべらせるのが
大好きな人たちと、それを食い物にする商売人と女性たちの、
前時代の遺跡のようなものなのかもしれない。

今でもガールズバーなんてのもあるとニュースでやっていたけれど
いつの時代も男って馬鹿な生き物だね。
男の俺が言うのもなんだけどさ。

男に生まれてすみません。自嘲気味に。
いつも通りの時間に起きて、いつも通りに朝食を食べる。
妻は朝早く起きて朝ご飯を作ってくれた。これもいつも通り。
娘が忙しそうにやってくる。別にこれと言って予定は無いはずだが。

「おはようパパ。」

「おはよう。何もなくてもちゃんと起きれるとは、パパより偉いな。」

娘の頭を撫でてやると、嬉しそうにえへへと笑う。
キッチンから妻の鼻歌が聞こえて来る。
私は今、幸せだ。それを象徴するかのように、
この素敵な誇るべき空間は光に包まれた。



「パパ。おひさまって何であんなに明るいの?」

「うん?・・・ああ、燃えているからだよ。信じられないぐらいの高い温度で、想像も付かないような離れた距離から、地球を照らしてくれている。」

「何で燃えてるの?」

「おひさまも生きているからだよ。」

「生きてると燃えるの?わたしも?」

「燃えてるって表現はおかしいかもしれないけど、体温があるだろ?熱。おひさまは物凄く大きいから、たくさん熱くなって燃えてるんだ。」

「ふーん。おひさまって凄いんだね。」

「そうだね。凄いね。」

自分の娘に勉強させられるとは、私も歳を取ったかな。
確かに普段忘れがちだけれど、太陽の恩恵はありがたい。

近づきすぎれば火傷どころか消滅してしまうだろう。
しかしながら適度な距離を保ちながら、この地球に
生命をもたらしてくれている。それは素晴らしい事だ。

「・・・生きてるって凄いんだなあ。」

「あなた、何言ってるの。」

幸せそうに笑う妻の大好きな顔。
昔見た光景を思い出す。



光とは、希望の象徴として私たちの記憶に焼きついている。
しかし、忘れてはならない。近づき過ぎた太陽のように、
度が過ぎればそれは刃となり、私たちを傷付ける。

それは歴史の中で何度も繰り返されてきた愚考。
神話の時代より浄化と揶揄されつつも、
確実に命を奪い続けてきた悪意の塊。



そう、今私が見ている光景は走馬灯。
度が過ぎた光によって、きらびやかに、そして皮肉にも
この幸せを彩るようで消滅させてしまう悪意がやって来た。

思い出の詰まった家族が、家が、全て吹き飛んでいく。
私も、愛娘も、愛妻も。全て。全て消えて無くなる。

たった一握りの人間の、エゴと強欲によって、
私たちだけでは無い。莫大な数の人間が、
幸せが、日常が、そして命が奪われる。

バベルの塔を打ち立てた愚かさの様に。
人間が滅びるのは、人間自身が生み出した
他人を奪う為だけの光。それは希望に程遠く。



忘れてはならない。死とは無である事を。
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