忍者ブログ
完全フィクション
[479]  [478]  [477]  [476]  [475]  [474
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

大いなる海と言えば聞こえは良いが、人類を蹂躙する程のその大きさに私はいつも恐れをなしていた。

なんて言い方をすれば少しは格好がつくだろうか。簡単に言ってしまえばただのカナヅチである。

そんな私がなぜこんな所に辿り着いたのかと言うと、これもまたあまりにもありきたりで簡単な話なのでもしも実情を知る者がいればつまらないの怒るかあくびのひとつでもするかもしれない。要は恋人に別れを告げられた。振られたのであった。

相手に言いたい事の一つもあるのだが私は私で至らない、悪い所もあっただろう。別れを告げられた時は何となくそんな予感もしていたので別段驚く事は無かったのだが、いかんせん自分でも信じられないぐらい悲しかったらしく、相手がいなくなってからじわじわと独りであることを実感すると、何もかもが切なくなって苦手であるはずのこんな場所へ来たのだった。

「うーみーはーひろいーなーおーきーいなー・・・へへへ・・・。」

歌ってみた所でまだまだ落ち込んでいることに気付く。努めて明るく振る舞ったつもりが自分の落ち込みようを思い知ることになって、輪を掛けてどん底に悲しくなってしまった。

いつもはとても恐ろしい海も、今はその大きさに安心感を覚える。とぼとぼと波間を避けることも無くただただ深みへと歩いて行くと、この世界の悲しい寒さよりも温かく感じて心地良かった。

いよいよ足が付かなくなって来るともうどうでもいいやと言う気持ちになり、そのまま波に流される。いつもならもがき苦しみ溺れる所であろうが、何と私の身体はゆらゆらと波間に浮かんでしまうのだった。





それからしばらく流されて、元いた所もわからなくなり、海のど真ん中に放り出された。いつの間にか私は泳げるようになったようで、服を着ていてもクロールだとか平泳ぎに挑戦してみたらあっさり泳ぐことが出来るようになってしまった。今までの恐怖はなんだったのだろう。頑なに拒んでいた心を開いたおかげか、どうやら私は海と和解出来たようだ。対話した訳でも無いのにね。

結局はやらず嫌いとでも言おうか、怖がって挑戦する気が無かっただけの話だった。ここへ来て泳げるようになり、見知らぬ島に辿り着き、人生わからないものだなあと冷静に服を脱いでたき火を炊いて乾かすことにした。

ありがたいことに暖を取れそうな洞窟まで見つかってしまった。これはいよいよ神様に生きろと言われているような気さえしていた。

気が済むまでここにいよう。お腹が空いたら帰りたくなるかもしれない。

温かな岩の感触を不思議と心地良く感じながら、身体が乾くころには眠りに就いたのだった。
PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
リンク
最新コメント
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
耕助
年齢:
37
性別:
男性
誕生日:
1987/01/14
職業:
フリーター
趣味:
音楽鑑賞
自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]