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完全フィクション
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私は父が嫌いだった。

豪快を絵に描いたような性格や、人が一生懸命セットした髪の毛をワシャワシャと撫で回して乱す無神経さ。私の大好きな優しさ溢れる母が愛して止まないと言う事実も一役買っていたのかも知れない。そんな父から早く離れたくて、大学を卒業して就職が決まってすぐ、一人暮らしをした。

私が何歳になっても父は変わらなかった。一人暮らしになってからも、こっちの都合なんて考えず電話してくるし、実家に帰れば頭をワシャワシャと撫でられた。冷たく素っ気無い態度をこちらが示しても、父は関係無くズケズケと私の間合いに踏み込んで来たのだった。

そんな父が、ある日突然亡くなった。病気だった。入院してた時期も短かったらしく、私はお見舞いにも行かなかった。知らなかったのだから仕方が無い。母も父から心配掛けないようにと、私に連絡することを止められていたらしい。私だって鬼じゃないんだから、見舞いぐらいさせろと思った。怒ったが、父は既にこの世にいないので、怒りのぶつけようがなかった。

父の墓前で手を合わせても、実感も無いせいか、特に泣くことも無かった。

そんな父が亡くなってから、数年が立ち、父とは真逆の人を好きになった。凄く優しくて、物静かで、母に似てるとすら思った。決定的だったのは、彼に懐かしい印象を覚えたからだ。何故なのかは解らなかったが。

そんな彼と結婚して、子供が生まれて。順風満帆の幸せな生活を送っていたある日。

寝室で、彼と父の話をしたことがあった。彼は煙草を吸いながら聴いてくれた。そして、父のようにではなく、優しく包み込むように頭を撫でてくれながら、彼は言った。

「お義父さんは、君のことが大好きだったんだね。」

そう言われても、何だかピンと来なかった。彼は煙草を消して、ギュッと抱きしめてくれた。

その時だった。

フラッシュバックしたように、突然気付いた。

「あなたが吸ってる煙草、父と同じだ。」

彼の吸っていた煙草の銘柄は知っていた。しかしながら、父の吸っていた煙草の銘柄を忘れていたのだ。なぜ思い出したのかは解らないが、子供の頃から見ていたはずの、煙草のパッケージを思い出したのだ。

彼に懐かしさを覚えたのも、父と同じ煙草を吸っていたからだった。

香水のようにいつも匂っている香りが、父と同じだったのだ。

涙がボロボロと流れて来た。何故?父を嫌っていたのに。亡くなっても泣かなかったのに。

その時、私は気付いてしまった。涙がボロボロと零れて、クシャクシャになった顔を上げて、彼に言った。

「私、父が好きだったんだ。」

彼は黙って微笑んで、あの日の父のように、ワシャワシャと頭を撫でてくれながら、私が泣き止んで眠りにつくまで、抱き締めてくれた。
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「ねーねー。たーくんはなんでみんなとあそばないの?」

「・・・みっちゃんか。」

「あそぼうよー。みんなとあそんだほうがおもしろいよ?」

「ぼくはひとりでいいんだ。ほっといてよ。」

たーくんはいつもそういうことをいう。
よくわからないけれど、わたしはいつもかなしくなる。

みんながわらってるよこで、たーくんはいつもわらわない。
わたしは、いつのまにかたーくんがきになるようになっていた。

「みっちゃんはどうしてみんなとあそぶの?ぼくといてもつまらないよ。」

「そんなことないよー。なにもしないからだよ。」

「なにもしないのが、ぼくはすきなんだ。」

「そっかー・・・。」

わたしはなんだかすごくかなしくなって、うしろをむいた。
たーくんにないてるのをみられたくなかったからかもしれない。

「みっちゃん。」

たーくんによばれたけど、なみだがぽろぽろこぼれてくる。
だけど、たーくんはこういったの。

「なにもしなくてもいいなら、いっしょにいようよ。」

なみだをふいて、わたしはふりむいた。

「ほんとう?」

わたしはうれしかった。たーくんといっしょにいたかったから。

「あ、ちょっとまってね。」

「?」

ふしぎそうなかおでそのばをうごかないたーくんをおいて、もうふをとりにいった。
たいくずわりですわるたーくんのよこにいっしょにすわって、もうふをかけた。

「たーくん、あったかいね。」

「・・・。」

わたしはたーくんにだきついた。たーくんのかおがあかくなる。
ちょっとあつかったかな?でもわたしはたーくんが
きもちいいから、はなれてあげない。

ほんとうはね、しってるんだ。たーくんはおとうさんがいなくて、
おかあさんがだいすきなんだけど、おかあさんにぶたれてるって。

たーくんがおきがえしたときに、いつもみんなのまえできがえないのも、
たーくんのからだがあおくなっちゃってるからなんだよね。

わたしはね。たーくんがひとりぼっちにならないようにしたいんだ。
わたしはたーくんがすきだから。たーくんにわらってほしい。
たーくんがわたしをすきじゃないかもしれないけど、
そんなのかんけいないもん。たーくんといっしょにいたい。

たーくんはめをほそくして、ゆっくりといきをしてる。
よろこんでくれたらいいな。たーくんはひとりじゃないんだよ。
わたしがいっしょにいるから。あんしんしてね。

たーくんと、いっぱいおはなししてるきもちになった。
たーくんはひとつだけ、おはなししてくれたんだ。

「ぬくい・・・。」
「この場所から抜け出して、飛び出せたら・・・どんな世界が待っているのかな。」

ふとそんな事を考えながら、目の前の鉄格子越しの窓・・・。
そう、それはこの部屋を司る唯一の素材に囲まれて、私は思った。

物心付いた時にはこの場所にいたから、どうやってこの場所に来たのかも
そしてどうしてここにいるのかの理由さえも私にはわからない。
ただ、毎日外を眺めては、遠くに見える青空に思いを馳せるばかり。

この場所はたまに少しだけ外に近づく事がある。
それは見えざる神の手・・・ではなく、ご主人様の気まぐれか、
私への思いやりかわからないけれど、少しだけ新鮮な空気を
気分転換とでも呟きながら私に与えてくれるのだ。

私は気まぐれでもいい。その時を心待ちにしながら毎日を過ごす。
ここにいれば食べることには困らないし、たまにご主人様が
私とお話をしてくれる。私の話す言葉はご主人様にはわからないけれど。

そんな贅沢な私が外の世界を夢見るのは、
もしかしたら罰当たりだったのかもしれない。
ある日突然、私の目の前にご主人様が現れなくなった。

私はとても心配した。ご主人様が好きだったからだ。
喩えご主人様がこの場所に私を閉じ込めたのだとしても、
私は今の時間も空間も幸せに感じていたのだ。

「神様。一生この場所にいても構わない。ご主人様が無事でありますように。」

しかし私の願いは神様の元へは届かなかったようだ。
私が身分もわきまえず、あの頭上に広がる空を夢見た罰なのかもしれない。

ご主人様が来なければ、私は食事にありつけることも無い。
半ば空腹にも耐えかねて生きるのを諦め始めた頃、
見知らぬ人間がやって来て、私の場所に手をかけた。

「私とご主人様の唯一の繋がりに、気安く手を触れないで!」

けたたましく私は抗議の声を上げたのだが、どうやら声は届かなかったようだ。
見知らぬ人間に扉は開かれ、私は思いがけずあの青空の下へと出る機会を得た。

最早私に喜びは無く、それでももしかしたらご主人様は
私に飽きてしまって、せめて私を自由にしようと思ったのかもしれない。

むしろ、ご主人様が無事ならそれで良い。幸せなこの場所と引き換えに、
ご主人様が無事でいてくれるなら、私はそれでも良い。

切望、哀願とも言える願いを込めて、私は鉄格子に囲まれた
ご主人様との唯一の繋がりを捨て、旅立つことにした。

「ご主人様。私はとても幸せでした。ありがとう。さようなら。」

自由とは、自己責任を伴うものである。
息子を旅に連れてきた。特別急行のグリーン車、
席に着くと息子は興奮して外を眺める。

子供の頃、狭い世界が全てだと思っていた経験のある自分が、
やはり両親に何処かへ連れて行ってもらった時も嬉しかったものだ。

妻の作った弁当を食べたり、海や街、山々などが見えては消える
外の景色を飽きもせずに子供らしく眺めながらニコニコと
目を輝かせて、その全てを頭に焼き付けているようだ。

経験を積んでしまうと、真新しいものはどんどん無くなってしまうが、
夫婦である私たちにも初体験の、行った事の無い場所に行く事にした。
そうすれば少なからず、息子と共感出来るだろうし、家族である以上
みんなで同じ経験をしたいと思うのは至極当然の流れだと思う。

隣を見れば息子を膝に乗せた妻もニコニコとこの状況を楽しんでいる。
親馬鹿ではあるが、息子の喜ぶ顔が見られる、ただそれだけで幸せなのだ。
そして愛する妻と共にこの旅行へと繰り出せた事も幸せに思う。

「トイレ。」

息子がトイレに行きたいと言い出した。息子同様ニコニコした
妻にも一応行くかどうか聴いてみると、大丈夫だと言うので
とりあえず自分が息子をトイレに連れて行くことにした。
電車の中のトイレも初体験の息子は、勝手もわからないだろう。

子供はトタトタと小さい身体を一生懸命に動かして
走り回るもので、何故そんなに急いで行動したいのか。
そうか、次に待っている何かが楽しいからなのだな、と
一人で自己完結しながら息子の後を追い掛ける。

トイレに辿り着いてドアを開けて、息子と一緒にトイレに入り
息子と一緒に用を済ませると、当たり前のように通り過ぎていた
自動ドアを振り返り、人が通りなかなか閉まらないドアを見た息子。

「あれ、閉めなくていいの~?」

自動ドアがどういう仕組みで動いているのかは理解しているはずだが、
連続してたまたま閉まらなかったドアを見て心配になったのだろう。
閉め忘れると妻に注意されているからか、自分が怒られると
思ったのかもしれない。良い子に育ってるなと親馬鹿ながら思う。

「いいんだよ。」

言った瞬間、自動ドアが閉じた。不思議そうに振り返っていた息子も
安心したのか、また楽しくて仕方が無いと言う顔に戻り、ニコニコと
私たちの席に向かって走り出した。転ばないといいのだけれど。

「あんまりはしゃいで転ぶなよ。」

聴いているのかいないのか、こっちを向いてニコッと笑う息子。
この旅が悪いものになるはずが無いと思うのだった。
色々な意味での裏切りがあって、本当に自分自身
だけの事ではない範囲で、辛く苦しい日々を過ごした。
だが、そんな毎日も遠い昔の話・・・になってしまったな。

あの頃飲んでいた甘い缶コーヒーではなく、
ブラックを口に注ぎながら、ふと振り返る仕事中の暇。

今ではもう、全てを建て直したと言っても過言では無い。
毎日毎晩、死ぬ事ばかり考えていたあの頃とは違うのだ。
やっとここまで来た。ここからがスタート。今まではマイナスの場所。

たくさんの悪い思い出ばかりが通り過ぎて消えていく。
偽善や平和ボケにはわからないであろう、本当の日常の幸せ。

これからもたくさんの壁や困難が待ち受けているだろうし、
自分の思いも寄らないトラブルだってある事だろう。
自分の為ではなく、大切な人の為に動かなければならない、
そんな時もやって来る事だろう。だけど今は幸せだ。

「・・・やっとここまで戻って来たか。」

自分を傷付けた者たちに感謝するとすれば、立ち向かうだけの
力と、苦難を乗り越える為の日々を手に入れた事だろうか。
もう二度と会う事も、会いたいと思う気持ちも無いけれども。

周りの人間を利用して自己満足の悦に入るような人間はいらない。
そんな人間は遠く、昔の日々に置いて来た。これからも必要無い。

『情』を持って接する事の出来る人間達が周りにいてくれる。
友情、愛情、感情・・・その全てが毎日感謝に値する贈り物。

言葉に出して本人達にも告げているけれど。そこには心からの
曇り一つ無い感謝の気持ちが、宿っているんだよ。

「ありがとう。」

虚しさはここには無い。黒い器に注がれていた黒い液体も空っぽだ。
もちろんそこに影は消えないけれど、それも本当の自分だから。
受け入れて前に進む事を選んだんだ。

自分と言う人間にとって必要無い事も嫌いな事もたくさんあるけれど。
今度こそ自分を見失わないように、自分の価値観を中心に進んで行こう。
あの時、教えてもらったんだ。自分は間違えてないんだって。

他人と一緒でいる必要は無いし、自分の人生は他人が決めるものではない。
大切なものを、人間にとって大事なものを、胸に抱えて進んでいくんだ。

いつか死を迎えるその時まで、俺の脚で、そして這ってでも進んでいこう。
自分の人生は自分でしか歩いていく事は出来ないのだから。

これから新しい日々が始まるよ。光は天高くこの場所へ射している。
もう誰にも邪魔はさせない。幸せ降り注ぐこの場所で、君と手を繋いで行こう。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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