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完全フィクション
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私は犬である。名前はジョン。

どういう意味かはわからないが、ご主人たちが笑顔でそう呼ぶのでそれが私の名前のようだ。

私が住まわせてもらっているご主人の家はとても広くて、敷地内で走り回って遊ぶ事も出来る。家の中にも特に苦労無く自由に出入りする事も許されている。犬の身分でありがたい事だ。

とはいえご主人は私の事を家族だと言ってくれる。それが私にはとても心地良かったし、私も僭越ながらご主人たちを家族だと思うようにしている。何しろ物心つく前からお世話になっているのだ。人間と犬の主従関係とは言えど、これほど光栄な事は無い。何の仕事もせずにいる私を養ってくれている事に、私は常日頃から感謝しているのだ。

ご主人には奥さんと娘が二人いる。彼女たちも私のご主人だ。でも時折何やら相談事を私に話したりする事もある。私は犬なので人間の言葉で受け答えする事は出来ない。が、彼女たちは何やら私の言いたい事を読み取ってくれているようで、私にひとしきり相談事を話した後、満足気な笑顔になる。微力ながら力に慣れているのなら、私も嬉しい。

ご主人の家には年に一度、ホームスティと言う…異国の地の子供たちを受け入れたりしている。私はその子供たちがやってくれば、家族と同じように接し、いたずらされたりする事もあるが、微笑ましく思っている。なかなか出来る事じゃ無い。私も微力ながらペットと言う名の家族として、力に慣れればと協力する事にしている。

日本と言う国から二人の子供たちがやってきた。おとなしそうな男の子と、身体のでかい男の子だ。また今年も彼らと同じ屋根の下過ごす事になる。彼らとも挨拶を交わし、一時の家族として彼らを迎え入れた。私がご主人にそうしてもらっているようにだ。

身体のでかい子供は言った。日本にはこんな大きな犬を飼うような広い家はなかなか無いらしい。彼はとても私を気に入ったようで、一緒にテレビを見たり、散歩に連れて行ってもらったりもした。

彼は下の娘と仲が良かった。良く二人でいたが、とても楽しそうでいた。それを私は微笑ましく見ていたし、家族と仲良くしてくれている事が嬉しかった。

彼は家族の前で私に毛布を巻き付けて言った。それほど寒くも無いのだが…なんて思っていると、一言『ホットドッグ!』。おいおい。そりゃあ安直過ぎやしないかね。

彼らは会話が達者な訳では無かったようなので、きっと彼なりの一生懸命なコミュニケーションを取ろうとする努力だったのだろう。私は彼が去るであろう日には、彼に腹を見せた。

そう、あなたも私のご主人だよ。家族を楽しませてくれてありがとう。
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色々な事を吸収し続けると、いつかは自分から何かを発信したい時が来る。

筆を取る、と言えば聞こえは良いが、今の時代キーボードをカタカタと打てば文章が出来上がって行くのだ。思い付くままに色々な事を文章にして行った。

私はそれ程絵心が無いから、文章で表現するのが一番やりやすいと思った。それはもしかしたら読む人にとって遠回りなのかもしれないけれど、それが私には一番性に合っていた。





しばらく書き続けて行くと、いつの間にか文章は少しずつ溜まって行った。他人の評価なんかよりも、自分が積み重ねているのだと言うその事実が、私をほくそ笑ませるのだった。

それはまるでコレクションを集めているかのような喜びに満ちていた。駄文と言えども可愛い子供たちだ。私はそれらを眺めているだけで幸せな時間を過ごす事が出来た。

思い付いては書き上げて。しばらく書かない時もあれば、急に連続して思い付く事もある。書き溜める事もままあったが、実に気まぐれ。特にペースやクオリティなどもそこまで考慮せずに、ただひたすら自分の湧き出て来る言葉を文章として書き留めて行った。

ふと思えば何かをきっかけに、連想ゲームのように言葉は溢れて来る。それが例えば無意味なものだったとしても。気が付けばそうして言葉を紡いで行く事のコツのようなものを掴めるようになった。

こうなって来るとさらに生み出すのは気まぐれになって来る。思い付けば書けるのだから、いつ書いても良いし、書かなくても良い。文章の世界において、私は自由だ。誰に邪魔される事も無い。何一つ気兼ねする事など無いのだ。他人の評価を気にして変えてしまう事は、私の純度を下げる事に値する。そんな濁った作品は、私では無い。別段、至極どうでも良い事ではあるのだけれど。

こんな思考の羅列でさえ、文章化してしまえば積み上げられて行く。スタイルは書き続ける程に多様化もするだろう。そして、突き詰められて極める事も出来るだろう。道は枝分かれして無限に伸びている。寄り道しても良いし、コンセプチュアルに書き上げても、連作でも良い。ただひたすらに私は私の為だけに狂ったように書き連ねる。それが何よりも楽しかった。

いつしか人間が歳を重ねて老いて行くように。いつしか死を迎える事になるように。その積み重ねは千に届く時が来るのかもしれない。そう思うだけで、胸の鼓動が速まるのを、抑える事は出来なかった。

いつか、その場所に辿り着く為に。
そこには、歴戦の勇士たちが、しのぎを削り合って切磋琢磨していた。

そこにあるのは己の実力のみ。経験しての老獪さはあれど、そこに実際の能力の差が出るわけでも無かった。

「人生と同じだよ。切られたカードでやりくりするしかない。」

少年は納得いかなかった。自分に配られるカードは、いつも何だか悪い物ばかりなような気がしていたからだ。

「でも、不公平な時もあるよ。」

少年は悔しがっていた。連敗する事に。カードが悪い事に。

「だがそれだって、人生みたいなもんなのさ。運が悪い奴だっているだろう。」

少年は本当は理解していたが、愚痴らずにはいられなかった。まるでそれが、自分の人生のようだと認めてしまうようなものだからだ。

この場所には戦いしか無かったが、会話をする事も出来たので、コミュニケーションを取る事が出来た。いつしか会話しかしない者も出て来たが、それはそれで人生のようだとも思えた。

戦わずに戦わせないようにする者もいた。それは決して平和を願うからでは無く
ただ、勝てない事への腹いせに、ただただ邪魔がしたいだけだった。

「こんなことして何になるんだろう。」

ある日、少年は思った。この場所で戦う事に意味を見出だせなくなっていた。勝ったからどうだと言うのだ。ここには何も無い。

そう。戦いを繰り返し楽しむ事以外はこの場所には何も無い。しかしながら会話する者や邪魔だけをする者もいる。要は価値観と、その人間の捉え方なのだ。もしかしたら角度を変えてみたら、何か違うものが見えるのかもしれない。

しかし少年はきっと、そんなこともやり尽くしてしまったのだろう。ふーっと一息大きなため息を吐く。勝負に一喜一憂していた事自体が懐かしい。時間帯を考えたらおかしな話だが、きっと働いて無かったりする人もいるのだろう。

随分と時間が経ってしまった。この場所でしのぎを削り、技術を磨いたからと言って、それが一体何になると言うのだ。顔も見えなければ、百歩譲って人生のようなのだと認めたとしよう。しかしここには何の意味も見出せない程、長い時間が経ってしまっていたのだ。

気が付けば、もう何年も家から出ていない。いつの間にか誰と顔を合わす事も無くなった。定期的に供給されるご飯を食べ、寝静まるのを待ってからトイレに行き、排せつするだけ。そんな毎日。

「最後のチャンスなのかもしれないな。」

外はまだ明るいと言うのに。ブラウザを閉じた私は、何年かぶりに部屋から出て来た私に驚く家族には目もくれず。陽の光輝く外の世界へと、何年かぶりに飛び出したのであった。
何を考えてこんな季節に、しかもこんな天候の中で雪国なんかに来てしまったんだろう。

冬の雪国へは行くべきじゃ無い。並大抵の覚悟ではえらい目に遭うのはあまりにもデメリットがデカすぎるからだ。どう考えても割に合わないが、約束してしまったのだから仕方のない事なのだろうとは思う。

単純な話、人に会いに来た。そして俺は冬の雪国を舐めていた。何度も電車が立ち往生を喰らい、降りた目的地…実際にはまだ続きがあるのだが…には、大雪が降り積もっていた。

都会生まれの都会育ちな自分には、そんなものすごい雪を見たのは数えるほどしか無くて。スキーにでも来ていれば別であるが、ただ人に会いに来たと言うだけなのにこのありさま。前日には高速道路が全面封鎖されたと言う。おかしな早朝に着いてしまったものだから、誰もいない雪景色の駅前商店街で立ち尽くすのみ。バスの時間までは数時間。待つしかない。ただただ雪が降り積もるのを眺めながら、強行した自分の馬鹿さ加減に呆れ続ける事しか出来なかった。

バスに乗ってしまえば一時間も掛からないのだけれど。幸い、電車が暖を取れるように止まってくれているので、駅に戻る事にした。

とりあえずどうにかならないかと辺りを散策したのが失敗だった。普段から履き慣れた運動靴にはしっかりと雪から水分を吸い取ってびしょ濡れだ。地元に戻ったら買い替えなければなるまい。放っておくと、靴底がベロンと剥けたりするからな。

足に水溜まりのような感触を味わいながら、ふと見ると除雪車が車道の雪を除けている。おじさんが様子を窺いながら除雪車を自由自在、縦横無尽に走り回らせていた。降り積もる雪の量を見ると、焼け石に水とも思えなくも無いが。

そんな光景は都会ではめったに見られないので、除雪車にスマートフォンのカメラを向けた。するとおじさんがこちらに気付いたのか、大きく手を振ってくれる。何とはなしにこちらも振り返してみる。子供の頃、歩道橋の上から電車の運転士に向かって手を振るとちゃんと振り返してくれた、あのワクワク感がよみがえる。

心は暖まったから、どうにもならない状況も楽しみながら、待つとするかな。

電車に戻れば、意外と人が待っていた。里帰りか旅行なのかは知らないが、この大雪にご苦労なこって。

自動販売機で買ったホット缶コーヒーで手を温めてから、喉の奥へと流し込む。冷え切った身体にホットコーヒーも悪くない。そんな気持ちで待ち続けた。
「あなたは細くて美人だから良いじゃない。」

「褒めてくれてありがとう。自分では自覚無いんだけどね。私、結構異性で痛い目見てるし。」

「そうなのかあ。」

「あなただって背が高くて、ガッチリしていて頼もしいじゃない。」

「バレーボールだけで生きて行けたらそれでも良かったんだけどね…。恋、しちゃったから。」

好きな人に異性として見てもらえない。たったそれだけの事だけど。それまで大して気にもならなかった自分の隠れたコンプレックスが、私の中で大きくはじけてしまったみたい。

目の前にいる女神の様な、女優の様な美しさを持つ彼女とは初対面だ。話を聴けば、バレエをやっているらしい。そんな彼女と私は、崖に脚を投げ出して、まるで昔からの親友を見つけたかのように、眼下に広がる谷底を眺めながら話をしていた。

彼女は彼女で技術が伸び悩み、プライベートでは異性に騙され続けて、悲観して、それはいつしか絶望に変わり、ここに飛び降りに、死にに来たと言う。

私もそうだった。まともな人間として自分の好きな人に認めてもらえない事が何よりも悲しくて、絶望して、ここに飛び降りに、死にに来た。

偶然とか運命とか信じる方では無いけれど。同時刻のタイミングで彼女と鉢合わせ顔を合わせて、おおよそこの場にそぐわない話をしているのは、もしかしたらそう言った類の事なのかもしれないと思っていた。

「ちょっと怖いなあ、なんて気持ちもあったんだけどね。」

「私もよ。」

「一緒に死ぬ?」

「今日会ったばかりなのに?(笑)…でも、それも良いかもしれないわね。だって、私も怖かったもの。勇気が必要だった。」

「一緒に、死ねるかなあ。怖くなって、踏み止まってしまって、あなただけ飛び降りてしまったら申し訳ない。」

「そうしたらそれは生きたいって事だから、良いじゃない。」

「死にに来たのに?」

「一時の気の迷いなんて、誰にでもある事じゃ無いかしら。」

「だったら…二人で生きた方が良いのかな。」

「それも考えてるよ。選択肢の中に入ってる。」

「う~ん…。どうしよう。」

本音を言えば、彼女には死んでほしく無かった。私から見れば、彼女は私なんかとは違って、いつかは必ず幸せが掴める様な気がするし、何より私は会ったばかりの彼女に、命を大切にして欲しいなと思ったからだ。これから死ぬ人間が、だ(笑)。

でももしかしたら、彼女も同じ事を考えてくれているのかもしれないな。そんな事を考えたら、急に恥ずかしいと言うか、嬉しいと言うか、そんな気持ちになった。





私たちはどうする事も出来ずに、いつまでも谷底を眼下に眺めながら、脚を投げ出して語り続けた。
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