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完全フィクション
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君は雪国に住んでいるので、会いに行くのは大変だ。特に雪の降り積もる冬なんて、狂気の沙汰としか思えない。

しかしながら私は何度も君の家へと足を運んだ。最後の恋のような気がしていたし、何よりも君が好きだった。だけれどもそれでも自分でも冬の雪国に向かうのは、頭がおかしいとしか思えなくて、何度も笑いが込み上げて来るのだった。

電車で向かうにしても足止めを食らう。深夜高速バスで向かうにしてもなかなかの強行軍。出発の前日に高速道路が近年稀に見る大雪になったりして、笑うしかない状況が何度もあった。

そんな朝を迎えるまで待たされて寝ずに仕事に戻ったりしながらも君との逢瀬を重ねるのは楽しかった。そして君は大学で研究をしていたので、一緒にいてもほとんど論文に時間を取られていたのだが。

そんな中で君の研究室に付き合う事があって。君の家に向かうのもおっかなびっくり。だけれども都会の雪とは違って寒いのでべしょべしょに溶けたりする事も無く、普通の靴で腰が引けながらも歩いているのであった。

研究室は君の家からそれほど遠く無い。それでも私は君のノートパソコンを持って二回ほど転んだのであった。私の事では無く、論文のデータが詰まったノートパソコンの心配する君に心の底から笑ったりして、君がやるべきことをこなすのを隣で見て、君の集めた書籍を読み漁るただそれだけだったのに、君と過ごす時間はとても楽しい時間となった。

君はこの国の人では無いから、時間が来れば祖国に帰ってしまうのを知っていたし、初めて出会った時は分かれてからさめざめとその幸せを噛み締めて涙を流したりもした。その時間は冬の雪国でも、私にとって夢のようで、こんなに寒いのに凍てついた心をゆっくりと溶かして行ってくれるだけの温かさがあった。





君と一緒になる事の出来た今となっては、あの冬の雪国に訪れる事は一生無いだろうけど、私にとってあんなに身体は冷たく、心の温かい時間は無かったのではないかと思い返す事もある。信じられない程積もった雪を目の前に途方に暮れながら、君と会える時間だけを想って待ち続ける事の出来た、とても大切な時間だったのだと痛感している。

今は都会にいて雪が降ればべしょべしょに溶けてしまうけれど、あんなに寒い中何度も足止めを喰らいながらも君に会いに行く事が出来たあの街を忘れる事は無いし、君への想いの強さを何度でも再確認出来る証拠として心に残っている街である。
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若気の至りと言ってしまえば言い訳になるのかもしれないけれど、通勤の行き帰りに私は良く叫んでいた。

パソコン関係の倉庫で働いていた。商品を選んで伝票通りにまとめてもらい出荷したり、入庫して来た品物を処理したり、倉庫内で色々な仕事をその日によって任されていた。いわゆるフリーターと言うわけだ。

まだまだ恋多き年頃、大人の異性とも言える方に惚れてみたり、仕事をこなしながら青春を謳歌していた。あまり仕事先の人たちと仲良くするタイプの人間でも無かったが、友達と一緒に勤めていた事もあって、仕事終わりに飲みに行く事もあった。

趣味の合う先輩の家に遊びに行ってみたり、その先輩と休日にプライベートで会ってみたり。仕事で一緒に働いているおじさんたちと、バンドを組んでスタジオに入り浸ったりするのも楽しかった。終わってから飲みに行って、ベロンベロンに酔っぱらってまたスタジオに入る。終電の時間までスタジオに入るのは、とても楽しかった。

ボーナスが出ると言われて頑張って働いて、なかなかボーナスが出ないなと思ったらもらったのは寸志ほどの雀の涙。そんな不満が溜まって行き、これも若気の至りと言えば良い訳になってしまうのだが、私は無断で仕事を辞める事にした。

そんな中で楽しかったのか、それとも突き上げる青い衝動を抑えきれなかったのか、帰り道、川を渡り行きつけのたこ焼き屋で醤油たこ焼きを食べに行く途中、周りは民家も無くトラックが走り回る工業地帯の中、大きな声で

「馬!」

と叫んでいた。自分でも意味がわからないが、一緒に働いていた友達が誘ってくれた競馬で走る、取り留めも無い妄想の中の馬の鳴き声として生まれた言葉だったような気がする。傍から見れば頭のおかしい奴だったのだろうけど、生憎工業地帯にはあまりそれを確認する人も少なく、心置きなく

「馬!」

と叫び続けたのであった(笑)



こんなこともあった。場外馬券場に向かう道すがら、いつものように

「馬!」

と叫んでいたら、前にいたファストフードを買って食べ歩いていた人の、両手に持っていたハンバーガーとドリンクが宙に飛んでいた。突然の

「馬!」

の叫び声に驚いたのだろう。ちゃんとキャッチしたのを見届けたから良かったものの、悪い事をした。隣で友達は爆笑していた。

いつしか歳を重ねて心も落ち着いて来て、叫ぶ事も無くなった。若気の至りではあるけれど、あの馬鹿な自分の叫びを、たまに思い出して懐かしく思う。
おもむろに夜の街に繰り出してみた。自転車に乗って。

もう真夜中なのだけれど、君と別れてから、私の心は毎日毎晩落ち着かないままでいた。

悲しいのかもしれない。その衝動が抑えきれないのかもしれない。だけれども悲しくて涙が溢れ出る程に泣き喚くわけでも無く、私は真夜中あてどもなく自転車で走り回る事を選んだ。

人も車も少なくなった車道を走り回るのは気持ちが良い。気が付けば君の家の近くまで来てしまっていたけれど、君の家はスルーして、目的地を決めずに走り回る。

それは心の整理を付ける為のなのかもしれない。君を忘れる為なのかもしれない。時に私は走り回りながら歌ったり、シャッターの閉まった商店街を眺めてみたり。お腹が空けばラーメン屋に飛び込んで食べてみたり。ちょっと自分でも何をやってるのか良くわからなかったけど、何だか楽しくなって自分が笑顔になっている事に気付いた。

いや、滑稽な自分が可笑しかっただけなのかもしれない。

知らない街に出る事もあった。寒ければ息も白くなり、それをしばらく眺めてから暖かい缶コーヒーを飲んで、公園のベンチでゆっくり君との時間を思い返してみたり。警察官に呼び止められることもあったけれど、その会話すら楽しんでいるように自分で思えた。

笑いながら涙が出て来る。ああ、やっぱり私、君と別れて悲しいのかなと思ったりするけど、もしかしたら寒さが目に染みただけなのかもしれなくて、どっちが本当なのかは自分でもわからなかった。

そんな寒い中をしばらく自転車で走り回っていると、身体の芯まで冷え切って来て、突然、帰ろうかなと思う。今私はどこにいるのかすらわからないけれど、大きな道に出れば大体の帰り道はわかるだろう。道はどこまでも繋がっているのだから。

帰り道をゆっくりと楽しんで、家へと辿り着く。朝はまだ来ない時間。家族も、そしてみんなも深く深く眠っている事だろう。草木も眠る丑三つ時なんて言うけれど、真夜中の徘徊は、私だけの時間。誰にも邪魔されないから、とても好きだった。

自分の部屋に戻ると、着替えてからシャワーを浴びたりして、それでもまだ冷え切っている身体を横たえて、布団の中へと潜り込む。布団の中は暖かいはずなのだが、毛布と掛け布団にくるまっていても、足の指先まで冷え切っているのがわかる。もちろん脳も冷え切っているので、心はスッキリとしていて、気持ち良かった。

目の冴えた自分を落ち着かせて、眠りに就く。
言葉が心に突き刺さる。

あなたのその何気ない言葉が、私の心に。



言葉が心に突き刺さる。

気が付けば人を好きになっていた。私はあの人の一言一言が、じんわりと胸に浸みて、時には痛め付けられて、一喜一憂しながら、毎日を過ごしている。



言葉が心に突き刺さる。

共感する曲の歌詞に。今の私には、強い想いがある。だからこそこんなにも切なく、涙を流したり、音楽に心を動かされているのだと思う。経験して初めて、音楽に、歌詞に、共感出来る。増えて行く。広がって行く。



言葉が心に突き刺さる。

あなたを繋ぐその言葉が。あなたの紡ぐその言葉が。私があなたを受け入れれば受け入れる程、深く深く、あなたの言葉を歓迎する。



言葉が心に突き刺さる。

時にはあなたと喧嘩する事もある。その時はきっと、あなたの本音では無いかもしれないけど。そう思うのは甘いのかな。私はあなたの言葉で深く傷つく。仲直りすれば忘れてしまうようで、たまに思い出しては、その言葉が心を苦しめる。



言葉が心に突き刺さる。

あなたが別れ際に放った言葉に。私は大きく傷ついた。もちろんあなただって、今までずっと私の言葉で傷ついて、今は満身創痍、傷だらけなのかもしれないけど。ダメね私。自分の事しか考えられないのかもしれない。だからあなたが別れを切り出した時、悲しくて涙が溢れ出て来たけれど、勝手な私が悪いんだと、受け入れる事にした。



言葉が心に突き刺さる。

事すら懐かしく思えて。あなたの言葉のひとつひとつが、私の心に突き刺さったまま。その痛みは、あなたを思い出せるスイッチでもあり、そうする事の喜びでもあり、あなたがいない事を再確認する悲しみ、痛みでもある。心の中が空っぽになったような気持ちでいたけれど、あなたの言葉が私の心に残ったままでいる。



言葉が心に突き刺さる。

誰かの言葉は、あなたほど私に感動を与える事は無くて。もしそれが出来る人が現れたなら。あなたの言葉を超える事が出来たのなら。また一歩歩き出せるのかもしれない。何も無いような顔をして過ごすフリをしているけれど、もう少しだけ足踏みさせて。突き刺さったあなたの言葉は、じんわりと溶けて、思い出になる。



言葉が心に突き刺さる。

しばらくして、何とも思わなくなった。突き刺さっても素手で心からその言葉を引き抜いて、捨て置ける。時に心に閉まっておく。もしかしたら、物凄く痛い言葉が来るための準備をしているのかもしれない。





私の心に、





言葉が。
相変わらず何も無い繰り返す日常。

本当に私には何も無くなってしまった。好きな事や物、人。自分のせいもあるのかもしれない、何度も裏切られて何も信じられなくなってしまったら、何も楽しく感じなくなってしまった。

「死にたいな。」

空元気を出したり、愛想笑いを繰り返すたびに、そう呟いていた。限界なのかもしれない。

たった一人、夜の道を歩く。思い出すのは楽しかった出来事。だけど心は昔ほど何かを感じる事なんて無い。

きっと私は、感性が死んでしまったのだと思う。

鏡を見れば、つまらなそうな顔。いや、それは正しく無いのかもしれない。何にも興味を示す事が出来ない、ドロッとした死んだ眼を見て、私の心は死んでしまったのだなと悟った。

家族が心配しているから。知り合いが心配してくれるから。とりあえずは何事も無いように見せかけているのだけれど、きっと悟られているのだろう。私から諦観が滲み出ているのだろう。心配している表情が周りから消える事は無かった。

けれどもこればっかりは、全てを失ってしまってから何を取り戻せると言うのだろう。もう何一つ、この手のひらから零れ落ちて、残っていないと言うのに。世界は全てモノクロームに色褪せてしまった。希望と言う言葉を聴けば失笑が漏れる。こんな世界に何を期待すると言うのか。少なくとも私には、何も期待できないのだ。

いっそふさぎ込んでしまえたらどれだけ楽な事だろう。だけれども病気と言う名の精神異常を目の当たりにして、ああはなりたくないと思ったし、真似事でも出来るだけまともなままでいようと思えただけ救いがあったのかもしれない。

残された義務は先立つ家族をいつか看取る事だけだな…と淡々と毎日を過ごしていた。

幸せそうな家族を見れば、幸せそうだな、と思う。そこにひがみや嫉妬なんて無い。それが出来る人は、まだ希望があるんだなと、切に思う。何もかもが無くなってしまった今、正直私には何も望むものなんて無い。家族を思うと自殺を選択する事なんて出来ないし、死がやって来るその時までただただ待ち続けるしか無いのだ。

世界は、私の外にある。

喜怒哀楽の感情を発せている人を見て、何かしら思うのかもしれないが、私はその時、感情を棒読みで呟いているだけなんだろうと思う。そこには心の動きが何も無い。

悲しければ涙も出て来るのだろう。だけれども涙さえ枯れ果ててしまった。寂しい事なんだろうな、とぼんやり夜空を見上げて思った。
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