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テーブルの上でコロコロと転がすと、それは何とも気持ちが良かった。私は泣いていた。





昨日の夜から徹夜で作った。あの人の喜ぶ顔が見たくて、私は本当に、情けない話だけど今までで、人生で一番頑張ったと思う。自分で食べても、ショラティエが作ったんじゃないかって思う程美味しかった。これなら大丈夫。あの人に美味しく食べてもらえる。その時は想うだけでにやけ顔が止まらなかった。

朝からテンションが高かった。寝不足の顔を隠さなきゃって想って、一生懸命丁寧に顔を洗ったり、うっすら化粧もして。ナチュラルメイクってやつで、すっぴんに見えるように頑張った。集中出来たからかもしれなけど、思い込みでも良い。鏡を見た時の私は、今までで一番きれいだったと思う。

一日中あの人の事を考えながら、あの人の行動を追った。まるでストーカーみたいだわ、と自虐的に苦笑した。でも笑ってる場合じゃない。渡さなきゃ。あの人に好きですって。付き合って下さいって言わなきゃ。たくさん頑張って来たんだから。大丈夫。勇気を振り絞って。頑張れ私。

あの人は色んな人に好かれているから、なかなか一人になってはくれなかった。あの人に彼女がいない事はわかってる。確認してある。私を選んでくれるかはわからないけれど、せめてあの人に伝えたい。あなたが好きですって、ちゃんと自分の口から伝えるんだ。





やっとの事であの人が一人になって。都合よく人気のない建物の裏側なんか行くものだから、チャンスだと思ったの。その時確かに、私は勇気を振り絞った。

でもね、私が声を出すその直前、あの人は別の女の子にチョコレートをもらう所だったの。私は咄嗟に物陰に隠れたし、女の子もあの人も夢中で周りに気を配れなかったみたい。私がいる事は気付かれなかった。

女の子は私がとても素敵だと思っている人だった。今まで見た事が無いぐらい真っ赤になって。あの人にチョコレートを渡していた。ちゃんと告白もして、あの人からのOKももらえた、女の子は頑張った。頑張ったよ。凄く頑張った。私よりもね。

私は二人に気付かれないように静かに、泣きながら、でもとても嬉しい気持ちと悲しい気持ちに苛まれながら、その場を後にした。これで良かったんだよ。私なんてあの人につり合わないし、あの女の子は本当に素敵だから。私よりもずっとずうっと、幸せになって欲しいと思う。きっとあの人も幸せになれる。





家に帰ってたくさん泣いて。説明出来ない気持ちのまま眠りに就いて、まだ泣いてる。こんなに引きずるような女が相手じゃ無くて良かったよ。あの人を困らせるだけだもの。

私は何度も泣いては顔を洗って、笑顔を作ったりした。

でも気持ちの整理がつかなかった。

こんなにも自分の事しか考えられなかったんだな。私って。
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1987/01/14
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