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目の前にある皿にミルクが注がれている。犬や猫じゃああるまいしとは思うのだが、注いだのは自分。つまりこうしたのは気分だ。別にコップでもとっくりにおちょこでも、飲み終えたペットボトルでも良かったのだが、今の気分は自分でもよくわからないが皿がしっくり来た。

このミルクには、毒が入っている。私が詐欺にでも引っかかっていなければ、致死量には充分な程の毒が入っているはずだ。匂いを嗅いでみるが、違いは分からない。飲みやすいようにわかりづらくしてある可能性もある。

何でこんな事をしているかと言うと、死にたくなったからだ。じゃあなんで死にたくなったのか。理由は一つでは無かった。色々な事が積もり積もって、私が死を覚悟するのに、選択をするのに十分なだけの、負の感情が溢れ出したのだ。

だったらすぐに死ねばいいじゃないかとは自分でも思うのだが、いざ死ぬとなると死んだことも無いくせにどうにも恐怖心が湧いてくる。痛いんじゃないか。苦しいんじゃないか。もう死ぬ事は決まっているのに、死ぬ事は選べても苦痛はどうやら嫌らしい。これを乗り越えないと死には辿り着けないのだが、何もかもが嫌になって死を選んだ人間になおも努力を強いて来るとは、なかなかに死も随分とサディスティックな存在のようだ。

もう皿に注がれたミルクを前に、一時間もこうしている。もがき苦しむ自分の姿が頭をよぎる。怖い。でも死にたい。どうして俺がこんな思いをしなければならないのかと、場違いな怒りが頭を掠めたが、そうしようと思ったのは自分じゃないかと、自分自身が可笑しくて笑ってしまう。

皿とミルクと笑い声。何ともシュールな絵なんだろうなあと、再三想像したように私自身の姿を想いながら、それでもやはり死を選ぶ気持ちは強いらしく、この場所からは動けず、止める事なんて到底出来ないと考えていた。

誰にもこの事は伝えていないし、邪魔が入る事は無い。後はこれを飲み干すだけだ。さあ、ぐぐぐいっと。飲め。飲むんだ。そうすればこの辛い辛い世界からおさらば出来るんだ。苦痛なんて一瞬じゃないか。頑張れ、頑張れ。

自分を奮い立たせてみるも、なかなか手が動かない。やっとのことで少しづつ手を持ち上げる。やった。テーブルの上まで来た。何故だろう。物凄く冷や汗をかいている。呼吸も荒い。怖いんだ。

そして震える手で一気に皿を持ち上げると、出来るだけすぐに死ねるように、一気に喉へとミルクを注ぎ込んだ。
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1987/01/14
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自己紹介:
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