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私は今日、小旅行に出かける事にした。
憧れの文豪の足跡を辿るためだ。
もちろん既にその文豪はこの世にはいらっしゃらないし、
文献からしか彼の人生を窺い知る事は出来ない。

だけどね、恋は盲目。好きになってしまったのだから仕方が無い。
私は彼の人生を辿るべく、支度を済ませて、家を飛び出した。

彼が生まれたのは田舎も田舎、大自然にぽつんと家があるような所。
文豪と言うと貧乏かセレブか・・・両極端にあるイメージが個人的に
偏見として脳内にあるのだけれど、平々凡々とした彼に
(下世話ではあるけれど)好感を持てた。

彼の通った学校は廃校になっていた。彼はどんな夢を描き、
どんな恋をして、青春時代を過ごしたのだろうか。想いを馳せる。

彼の修行・・・と言うか文章の鍛錬をしていたアパートにも訪れた。
働きながら書き続けていたらしく、人並みの生活は出来ていたようだ。

彼は二度結婚して、離婚している。彼の著作にもその辺の所は
書いてあるのでここでは詳しい説明を省くけれど、恋をしている私にとって、
彼と別の女(ひと)が暮らしていた家を訪れるのは少し辛かった。

だけど、どうしても、彼の人生を辿りたくなったのだ。
私は彼と同じ人生を歩めなかった。だからこそ、後を辿り
同じ道を歩く事で、自己満足を満たそうとした。我ながら
それはストーカーにも似た異常な執着愛でもあったのだと思う。

晩年、彼は一人で過ごした。彼が住んでいた一軒家に訪れた。

彼は、寂しかったのだろうか。辛かったのだろうか。
それとも、一人で悠々と作品に没頭できる事が幸せだったのだろうか。
彼を想い、涙を流した。それが、どういう感情だったか、その時はわからなかった。

そして、今。彼に会いに行く。何故か鼓動が早くなる。嬉しい気持ちと
悲しい気持ちが入り混じる、自分でも説明出来ない気持ちに、いらだちを覚えた。

バスが目的の停留所に着く。はやる気持ちを抑える。もうすぐ彼に会える。
彼の為に花束と線香を買って、住職さんに彼の居場所を教えてもらった。



線香を上げる。彼の好物だった和菓子と、先ほど買った
花束を供えて、彼に手を合わせて挨拶をした。

「今日、あなたの人生を追体験して来ました。気持ち悪いと
思われるかもしれません。けれど、私はあなたへの恋慕を
止めることが出来なかったのです。お許し下さい。」



返事は返って来ない。



彼とはもう、永遠に会えないのだと思い知った。





こうして、私の初恋は失恋として終わりを告げた。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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