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完全フィクション
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「さよならは、言わないよ。」

先輩に別れを告げて、車に乗り込む。振り返れば、寂しそうに見つめる先輩の姿。

本人もそうだし、家族も。金遣いが下手くそで、いつも金を貸して欲しいと無心して来たり、突然居候になったりした。本来なら怒って突っぱねる所だったが、金の事以外では楽しく話せる先輩との生活は、様々な事でへし折られていた心にはありがたい存在だった。

最初の頃は何度もおごってもらったけれど、どちらかと言うと最後にはこちらの方がおごる回数も金額も多くなっていた事だろう。

子持ちの彼女と付き合うのに掛かる金額がどれほどのものか知らないが、彼は自分のケツを自分では拭けなかった。要するにダメ人間だ。

かと言ってコミュ障と言う訳でも無く。どちらかと言えば誰もが一緒にいて楽しいと思えるような要素を持っていたと思う。それだけにもったいない。金遣いのだらなしなさで去って行った人脈も少なく無かっただろう。

きっと最後には先輩は孤独になった。それは俺が先輩に見切りを付けたからだ。冒頭のセリフは、せめてもの手向け。とは言え家も金も無くなった先輩に泊まる所と食を一晩分提供してやったし、新しく何とか泊めてもらえる施設が決まった時には、生活用品も買ってやった。

それが全て終わり、まともに一人で生きて行けるようになるまで、連絡もして来るなと伝えたのだった。

だから先輩の努力次第ではまた会う事もあるだろう。それは何年掛かるかもわからない。でもこのままじゃいけないと思った。それは先輩の為でもあるし、人生を建て直した自分にとって、先輩にも自分の力で人生を建て直して欲しいと強く願ったからだ。

これまでだってずっと先輩を助けて来た。きっと充分過ぎる程だろう。それでも先輩は自分の力で自分の人生を何とかしようとは思えなかったらしく、ホームレスにまで落ちぶれてしまったのだ。

それは先輩自身がああはなりたくないと思っていた先輩の親御さんそのものであり、あまりにも同じ末路に数奇な現実を感じずにはいられなかった。…いや、持っていた人格からこうなることは必然だったのだろうと思う。

そして当然付き合っていた子持ちの彼女からも三行半を突き付けられた。とはいえ別に結婚していた訳でも無く。そこもだらしないと言えばだらしなかったのだと思う。

先輩には危機察知能力と覚悟があまりにも足りなかったのだ。自分の人生を自分の足で歩いていなかったのだ。

願わくば、見違えるような姿で、いつか再び目の前に現れてくれる事を願う。
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「どいつもこいつも浮かれやがって。」

そんな事をぼやきながら私の友達が空き缶を蹴り飛ばした。

「何が面白いんだか俺には理解出来ないわ。」

そう言って唾を吐き捨てる。

私の友達はガラが悪い。当然の事ながら人もあまり近寄りたがらない。

私だけじゃないかな。こうして何らかの理由を付けて定期的に会ってるのって。

あまり私にも詳しくは話してくれないけど。家族とも上手く行って無いみたいで、いつも家の外にいるから、何となくそばにいる私といつも一緒にいる。

私といても、楽しくないのかな。それとも、一応あなたなりの照れ隠しだったりするのかしら。

別に私とあなたは恋仲と言う訳でも無いし、誰がどう見ても私とあなたが一緒にいる事に首を傾げられそうな…実際何度も首を傾げられた事もあるけど…そんな不揃いの二人。

不良、なんていったら何だかあなたが陳腐になってしまうような気がするけど。でもあなたはやっぱりそんな風にカテゴライズされて色眼鏡で見られてしまうんだろうね。

私は一つ、溜息を吐いた。

「お。お前も不満があるのか?(笑)」

あなたが笑う。

あなたは私があなたと同じ気持ちだって思ってくれたから笑ってくれてるのかな。

私の気持ちとあなたが一緒でいてくれたら、私はどんなに幸せになれるだろう。それはもう笑う、なんてどころじゃなくて、狂喜乱舞してもおかしくないぐらい嬉しくなれるのだろうけれど。

だけど私はあなたと一緒の気持ちでいるのか、確かめるのがとてもこわい。

だからこうして曖昧な関係のまま。ずっと一緒に毎日を過ごしているの。

あなたは気付いてる?それでいてはぐらかしているのかしら。気が付かないふりをしてくれてるのかな。

あなたもこわい?

無口な私は、あなたに微笑み返す事が出来ない。勇気が無い。あなたともっと心を近づける勇気が。

もし上手く行ったとしても、あなたと途中で上手く行かなくなったら、もっともっと辛くて苦しい。だって私は一生、永遠にあなたと一緒にいたいと思っているから。私はとても失敗を怖がっているの。

でももう限界かも。私の心はあなたでいっぱいで。みんなが怖がるあなたを好きで好きでたまらなくて。もう二度と離れたくないって思う程に、引き裂かれるような思いでいつも手を振ってるんだよ。

ねえ、私といて楽しい?私といたい?

「私の事、好き?」

あなたがはっとした顔をする。

しまった、口に出してしまった。

もう後戻りは出来ない。

でもね、私はもうあなたがどんな答えを出しても受け止める事にしたの。

だってあなたが好きだから。

「俺は-…」
私は犬である。名前はジョン。

どういう意味かはわからないが、ご主人たちが笑顔でそう呼ぶのでそれが私の名前のようだ。

私が住まわせてもらっているご主人の家はとても広くて、敷地内で走り回って遊ぶ事も出来る。家の中にも特に苦労無く自由に出入りする事も許されている。犬の身分でありがたい事だ。

とはいえご主人は私の事を家族だと言ってくれる。それが私にはとても心地良かったし、私も僭越ながらご主人たちを家族だと思うようにしている。何しろ物心つく前からお世話になっているのだ。人間と犬の主従関係とは言えど、これほど光栄な事は無い。何の仕事もせずにいる私を養ってくれている事に、私は常日頃から感謝しているのだ。

ご主人には奥さんと娘が二人いる。彼女たちも私のご主人だ。でも時折何やら相談事を私に話したりする事もある。私は犬なので人間の言葉で受け答えする事は出来ない。が、彼女たちは何やら私の言いたい事を読み取ってくれているようで、私にひとしきり相談事を話した後、満足気な笑顔になる。微力ながら力に慣れているのなら、私も嬉しい。

ご主人の家には年に一度、ホームスティと言う…異国の地の子供たちを受け入れたりしている。私はその子供たちがやってくれば、家族と同じように接し、いたずらされたりする事もあるが、微笑ましく思っている。なかなか出来る事じゃ無い。私も微力ながらペットと言う名の家族として、力に慣れればと協力する事にしている。

日本と言う国から二人の子供たちがやってきた。おとなしそうな男の子と、身体のでかい男の子だ。また今年も彼らと同じ屋根の下過ごす事になる。彼らとも挨拶を交わし、一時の家族として彼らを迎え入れた。私がご主人にそうしてもらっているようにだ。

身体のでかい子供は言った。日本にはこんな大きな犬を飼うような広い家はなかなか無いらしい。彼はとても私を気に入ったようで、一緒にテレビを見たり、散歩に連れて行ってもらったりもした。

彼は下の娘と仲が良かった。良く二人でいたが、とても楽しそうでいた。それを私は微笑ましく見ていたし、家族と仲良くしてくれている事が嬉しかった。

彼は家族の前で私に毛布を巻き付けて言った。それほど寒くも無いのだが…なんて思っていると、一言『ホットドッグ!』。おいおい。そりゃあ安直過ぎやしないかね。

彼らは会話が達者な訳では無かったようなので、きっと彼なりの一生懸命なコミュニケーションを取ろうとする努力だったのだろう。私は彼が去るであろう日には、彼に腹を見せた。

そう、あなたも私のご主人だよ。家族を楽しませてくれてありがとう。
色々な事を吸収し続けると、いつかは自分から何かを発信したい時が来る。

筆を取る、と言えば聞こえは良いが、今の時代キーボードをカタカタと打てば文章が出来上がって行くのだ。思い付くままに色々な事を文章にして行った。

私はそれ程絵心が無いから、文章で表現するのが一番やりやすいと思った。それはもしかしたら読む人にとって遠回りなのかもしれないけれど、それが私には一番性に合っていた。





しばらく書き続けて行くと、いつの間にか文章は少しずつ溜まって行った。他人の評価なんかよりも、自分が積み重ねているのだと言うその事実が、私をほくそ笑ませるのだった。

それはまるでコレクションを集めているかのような喜びに満ちていた。駄文と言えども可愛い子供たちだ。私はそれらを眺めているだけで幸せな時間を過ごす事が出来た。

思い付いては書き上げて。しばらく書かない時もあれば、急に連続して思い付く事もある。書き溜める事もままあったが、実に気まぐれ。特にペースやクオリティなどもそこまで考慮せずに、ただひたすら自分の湧き出て来る言葉を文章として書き留めて行った。

ふと思えば何かをきっかけに、連想ゲームのように言葉は溢れて来る。それが例えば無意味なものだったとしても。気が付けばそうして言葉を紡いで行く事のコツのようなものを掴めるようになった。

こうなって来るとさらに生み出すのは気まぐれになって来る。思い付けば書けるのだから、いつ書いても良いし、書かなくても良い。文章の世界において、私は自由だ。誰に邪魔される事も無い。何一つ気兼ねする事など無いのだ。他人の評価を気にして変えてしまう事は、私の純度を下げる事に値する。そんな濁った作品は、私では無い。別段、至極どうでも良い事ではあるのだけれど。

こんな思考の羅列でさえ、文章化してしまえば積み上げられて行く。スタイルは書き続ける程に多様化もするだろう。そして、突き詰められて極める事も出来るだろう。道は枝分かれして無限に伸びている。寄り道しても良いし、コンセプチュアルに書き上げても、連作でも良い。ただひたすらに私は私の為だけに狂ったように書き連ねる。それが何よりも楽しかった。

いつしか人間が歳を重ねて老いて行くように。いつしか死を迎える事になるように。その積み重ねは千に届く時が来るのかもしれない。そう思うだけで、胸の鼓動が速まるのを、抑える事は出来なかった。

いつか、その場所に辿り着く為に。
そこには、歴戦の勇士たちが、しのぎを削り合って切磋琢磨していた。

そこにあるのは己の実力のみ。経験しての老獪さはあれど、そこに実際の能力の差が出るわけでも無かった。

「人生と同じだよ。切られたカードでやりくりするしかない。」

少年は納得いかなかった。自分に配られるカードは、いつも何だか悪い物ばかりなような気がしていたからだ。

「でも、不公平な時もあるよ。」

少年は悔しがっていた。連敗する事に。カードが悪い事に。

「だがそれだって、人生みたいなもんなのさ。運が悪い奴だっているだろう。」

少年は本当は理解していたが、愚痴らずにはいられなかった。まるでそれが、自分の人生のようだと認めてしまうようなものだからだ。

この場所には戦いしか無かったが、会話をする事も出来たので、コミュニケーションを取る事が出来た。いつしか会話しかしない者も出て来たが、それはそれで人生のようだとも思えた。

戦わずに戦わせないようにする者もいた。それは決して平和を願うからでは無く
ただ、勝てない事への腹いせに、ただただ邪魔がしたいだけだった。

「こんなことして何になるんだろう。」

ある日、少年は思った。この場所で戦う事に意味を見出だせなくなっていた。勝ったからどうだと言うのだ。ここには何も無い。

そう。戦いを繰り返し楽しむ事以外はこの場所には何も無い。しかしながら会話する者や邪魔だけをする者もいる。要は価値観と、その人間の捉え方なのだ。もしかしたら角度を変えてみたら、何か違うものが見えるのかもしれない。

しかし少年はきっと、そんなこともやり尽くしてしまったのだろう。ふーっと一息大きなため息を吐く。勝負に一喜一憂していた事自体が懐かしい。時間帯を考えたらおかしな話だが、きっと働いて無かったりする人もいるのだろう。

随分と時間が経ってしまった。この場所でしのぎを削り、技術を磨いたからと言って、それが一体何になると言うのだ。顔も見えなければ、百歩譲って人生のようなのだと認めたとしよう。しかしここには何の意味も見出せない程、長い時間が経ってしまっていたのだ。

気が付けば、もう何年も家から出ていない。いつの間にか誰と顔を合わす事も無くなった。定期的に供給されるご飯を食べ、寝静まるのを待ってからトイレに行き、排せつするだけ。そんな毎日。

「最後のチャンスなのかもしれないな。」

外はまだ明るいと言うのに。ブラウザを閉じた私は、何年かぶりに部屋から出て来た私に驚く家族には目もくれず。陽の光輝く外の世界へと、何年かぶりに飛び出したのであった。
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