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完全フィクション
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ボクシングを辞めて1年が経った。

解説の仕事やジムの経営もうまく行っていて、
長年寄り添ってくれていた彼女にもプロポーズを申し込んだ。
彼女は泣きながら笑顔でOKしてくれた。たくさんの迷惑を
掛けてきたと言うのに、自分の気持ちを喜んでくれた。



ボクシングを辞めて間もない頃。パンチドランカーだった自分には、
一生付き合っていかなければならない後遺症が残った。

仕事にスーツで行かなければならないのに、ボタンが上手く掛けられない。
指先が震える。まさか、自分がボクシングを始める前に逸話として
聴いていた話が自分自身に起こるとは・・・。予想していたとはいえショックだった。



ファンでも無い彼女が、ファンである友達に誘われて、怖がりながら見ていた俺の試合。
ファンである友達に声を掛けられ、激励される時に彼女に出会った。

彼女からの第一印象は、『乱暴な人』。そのままじゃねえかwと後で笑ったが、
才色兼備な彼女には至極当然の感想だったのだと、今は思う。

試合以外の俺を、本当に好きになってくれて。愛してくれて。
いつの間にか彼女は、勇気を奮い立たせて応援してくれるようになった。
チャンピオンベルトは、他の誰でも無い、彼女の為に取ったようなものだ。



ボタンを掛けられない俺を見て、彼女が代わりにボタンを掛けてくれた。
その時彼女は、俺と一生を共にする事を、心に誓ったと言う。
・・・あれ?俺の意思は?w後で聴いたら、疑って無かったそうだ。

情けなくて悔しくて涙が出たけど、そんな俺を見て頭を撫でてくれた。
恥ずかしかったが、この時、彼女と生きて行こうと思った気がする。



それからと言うもの、俺の服のボタンは全て金属のものに代えられた。

「それはボクシングじゃなくて、あなたのこれからの人生のチャンピオンベルト。
後遺症なんて対戦相手と同じよ。胸を張っていってらっしゃい。」

何よりも頼りがいのある言葉に支えられて、俺は玄関のドアを開けた。



そんな経緯があって、今に辿り着けた。いつの間にかコンプレックスだった
ボタンは、今は俺の誇りとなって、勲章として胸に輝いている。



どある番組でアナウンサーに聴かれたから、全国ネットで宣言してやった。

「ところで、いつも金属のボタンを着けてらっしゃいますよね。
何か意味があるんですか?」

「これは・・・結婚する前に、かみさんからもらったチャンピオンベルトです。
これを胸に、誇りを持って私は仕事をしています。・・・ありがとう。」
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「くるっぽー。くるっぽー。」

おじいちゃんが使っていた鳩時計。何だか最近調子が悪い。
いくら時間を直しても10分ぐらい遅れたり、進んだりする。
おじいちゃんはとっくの昔に天に召されてしまって、寂しがっているのかな。

正直言って私は別に思い入れは無い。だけど、何かと私の生活に
密着して時を刻み続けていただけに、時間が狂えばなんか気になる。

「ま、いっか。ズレてるのはわかってるから。」

そう思いながら眠りに着いた。



その晩、夢を見た。



一生懸命私の為に、死を間近に控えた鳩時計が無理してくれている。
その姿は、私の為にとわかるだけに、胸を打つものがあった。
おじいちゃんに託された私の面倒を見てくれて、見守ってくれている。



朝、目が覚めると、それは夢だと認識した。
認識したんだけど・・・。



これは私の勘違いかもしれない。でも、なんだか私自身の無意識下の
依存もあるんじゃないかって考えたりして、ひとつの儀式を行う事にした。

もしかしたら世界中にある『儀式』って、超常現象的なものに力を借りる
為じゃなくて、自分自身を納得させて区切りをつける為のひとつの
手段なんじゃないかな・・・って買い物しながら思ったりした。

大きな、卵形のケースと、小さな、鳩が時間を知らせる置時計を買った。



家に帰って、おじいちゃんの鳩時計の見えない所で卵形のケースの中に、
置時計の鳩時計を仕舞う。それをおじいちゃんの鳩時計の下に置いた。

なんとなく、涙がにじんで来た。これからやる事は、ある意味残酷な事かもしれない。
そんな考えを巡らせる私は、自分では意識していなかったけど、
充分におじいちゃんの鳩時計に思い入れを持っていたんだと、今気付いた。

何となく、おじいちゃんの鳩時計に手を合わせて、目を瞑る。



「今まで、ありがとうございました。安らかにお眠りください。」



おじいちゃんの鳩時計の下から、卵型のケースを手に取って、
置時計の鳩時計をおじいちゃんの鳩時計に見せる。



「これから、よろしくね。」



置時計の鳩時計に挨拶をして、自分の部屋の机に置いた。
新しい時を刻み始め、太陽時計なので、時間も自動調整してくれる。



自分の部屋からおじいちゃんの鳩時計のある場所へ戻った時、
おじいちゃんの鳩時計は止まっていた。
跡取りを見つけて安心したかのように事切れた。



今まで自分が認識で来ていなかった色んなものが脳内を駆け巡って、
感情があふれ出し、崩れ落ちるように私は泣いた。声を上げて号泣した。
「玄関を開けると、そこは辺り一面銀世界でした。」

そう呟いては見たものの、この大雪。スマホからは繰り返しJRの運休状況が鳴り響いている。

一応職場に電話を掛けてみた所、来れない人間も多いのでとりあえずは実質休業状態。
車も混雑して進まないこの状況、上司の許可をもらって有給を取る事にした。

とりあえず食い物でも買出しに行くかと思ってコンビニ、スーパーを回ってみるも
大雪の影響でどうやら野菜が足りなくなっている模様。肉魚ばかりを
食べるような若さは持ち合わせていないので、申し訳ない程度の
キャベツを買って、千切り炒めにでもして食べるかと妥協案を巡らせる。

家に帰って来て早速腹ごしらえ。

皿洗いを済ませて、なかなか平日昼間に家に居ることなんて無いから、
何をしていいのかもわからない。テレビをつけて、退屈に任せてチャンネル
回して番組表を眺めるも、興味がありそうなものはやってない。

仕方無いので雪の景色でも眺めることにした。

窓を開けると日差しと冷たい風が入って来るが、腹ごしらえしたせいか
暖房で眠くなるほど身体が暖まり過ぎていたせいか、心地良く感じる。



その時。



目の前にカボチャランタンが現れた。

いや、それは正確な表現じゃないな・・・。ドラクエみたいだなと思いつつも、
あまりにも非現実的な光景に、ガラにも無く目を擦り、ほっぺたをつねってみる。

「・・・うむ。どうやら夢では無いらしい。」

カボチャで作られた被り物を被って、マントを着けた姿は、正にジャックそのもの。
しかしどうやら身体つきからして、中の人は女性のようだ。何故、今その格好?
歳も明けて立春とは名ばかりの寒さが続いておりますがと挨拶したくなる時節。

すると近所のおばさんが羽交い絞めにするかのように彼女を引き止める。

「止めないかい!気持ちはわかるけど、目を覚ましておくれ。」

そういえば、聴いた事がある。(テリーマンみたいだな。)

とても幸せな家庭を築いていた主婦が、自分の運転で事故を起こし、
家族全員が天に召されてしまった事。自分だけ助かった主婦は
罪悪感と後悔の波に押し潰され、頭がおかしくなってしまった事。
事故前に、家族全員が楽しみにしていたハロウィンパーティーの約束をしていた事。

彼女を止めているおばさんの口から直接聞いたんだっけな。
他人事ながら、自分そんな状況になったら同じようになるかもしれないなと、
見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と共に窓を閉めた。
目が覚めたらマヨネーズになっていた。(容器込み、包装袋無し、ほぼ人間大。)

2ちゃんのコピペのようなセリフを思いついて言ってみようとしたが、口が無い。
じゃあしゃべれないじゃないかと思ったのだが

「あ・・・あー。あー。」

どういう仕組みになっているのかはたまたこれは夢なのか声は出る模様。
よくよく考えてみると2ちゃんの言葉を現実で言うとイタイと言われているのを
何となく思い出してやめておく。

「げ・・・現実?これが?はっ・・・。」

苦笑するも、自分で鏡で見ても、プラスティック容器に入ったクリーム色のゲルしか見えない。

なんだろうな。これってなんかの病気で、幻覚でも見ているのだろうか。

手は無いのでどうやら物は持てない。飛び跳ねれば歩く事は出来る。

「さて、どうしたものか・・・。」

幸い、齢25のひとりやもめで一人暮らしなので、考える時間を得た。

電話も掛けられないので仕事は無断欠勤と言う事になる。

何よりもこの姿で出歩いたら(飛び跳ね回ったら?)パニックを引き起こしかねない。

元々トラブルや人に迷惑を掛ける事が嫌いだったので
このまま外に出ると言う選択肢は有り得ない。

「大体この状態で生きてると言えるかどうかも怪しいもんだが・・・。」

中身が出たらどうなる?このままだと腐っちまうんじゃないか?
自分の身体が腐ると言うのは気持ちの良いものではない。
幸い、大雪が降るほどの寒さなので、当分は暖房さえ入れなければ
大丈夫そうではあるが・・・。大体リモコン使えないし・・・。

まともな人間らしい事がほとんど出来ないので思考だけは良く回る。
意外とちょっと動ける入院患者なんてこんな気持ちなんだろうか。
大体特に思い入れも好き嫌いも無いのに何でよりによってマヨネーズなんだ・・・。

頭・・・に当たる赤いフタだって、自分では取れそうに無い。
そういえば目は見えるけど目そのものは無いみたいだな。
せめて生き物だったら良かったな・・・とか思ったが
得意先の魚・・・なんだったかな・・・のスーツ姿を
思い出して、彼の悩みからやはり人間で無いとと頭で否定する。

「卵黄・・・と酢だったっけ。マヨネーズって。あと塩とか胡椒とか?
全く持って意味がわからん・・・。根拠が無さ過ぎる。」

自分が納得出来る理由を用意された所で、何も解決しないのだが。
改めて、人間である事の素晴らしさを痛感しながら、
身動きの取れない自分に呆然と立ち尽くすばかりだった。

残念無念もうごめん。
「ねえ、いつまでこんな関係続けるの?」

彼女は言った。

「嫌だったらやめれば良い。」

俺は応えた。

「お互い、特定の相手がいるわけじゃないから、寂しさを埋める為に肌を重ね合わせたんだろう?俺だっていつまでも続くと思っちゃいないさ。」

「・・・・・・。」

「特定の相手を俺にしたいってのかい?」

「・・・・・・まさか。」

お互い、微妙な空気の中、何かを確かめるように言葉を紡ぎ出す。それはまるで、離れてしまうかもしれない曖昧な関係を、このままの姿で続けられる事を望んでいるかのように。

「・・・・・・あなたの事、好きだけどね。」

「嬉しい事言ってくれるじゃないか。」

「・・・・・・こんな形じゃなければ、もしかしたら・・・・・・。」

「・・・・・・やめよう!辛気臭い話は。気持ち良いから、お互いが必要だから側にいる。それでいいじゃないか。」

わかってる。お互いがお互いにズルいと感じているのは。だけど、確かなものにしてしまった瞬間、それは脆くも崩れ去りそうな気がして・・・。

「・・・・・・そうね。私たちらしくないわ。」

まるで自分に言い聞かせるように。

お互いの本心を、隠すか納得させたいのかはわからない。

だけどそこには水のようにあやふやな、それでいて確かな絆があった。

いつ終わるかなんてわからない。どちらかに良い人が出来れば、終わってしまう関係。

いつもの行為を終えてから、お互いの顔を何度も見ながら。その視線が交わる事も無く。

意識的に逸らしていたのかもしれないが、タイミングが合う事は無い。

情事の際には、お互いをあんなにもまっすぐ、見つめる事が出来ると言うのに。

「・・・・・・また、したくなったら連絡をくれよ。」

「・・・・・・わかったわ。」

一度も振り返る事無く、俺は部屋を後にする。




「本当に・・・。」

こんな形じゃなければ。もっと形にこだわらずに。

「本当に・・・。」

私の涙がポタポタと落ちる。みっともない。でも溢れ出る涙を止める事が出来ない。

あなたの側にいるのに、心はうんと離れてる。

「・・・・・・それでもあなたの事、・・・・・・あい・・・・・・してるのよ・・・・・・。」

零れる涙は嗚咽となり、言葉さえも遮って私は泣いた。泣き叫んだ。

どうしたらいいのかわからないの。近づいたらあなたとの関係が壊れてしまいそうで。

もうダメなのかもしれない。耐えられない。私。我慢出来ない。

溢れ出す感情が、次にあなたに会う時に告白させる事を決意させた。
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