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完全フィクション
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私は、ただ、逃げていた。

何に追われているのか?そんなことどうでもいい。壁にぶち当たれば横に交わし、時には後ろへ下がり突破口を探す。その突破口はもちろん前に進む突破口ではないことは、自分自身が一番痛感していた。

ある日、逃げ道はなくなった。いや、自分から行き止まりを目指していたのかもしれない。それから少しづつ元の道を辿り、今は前に進んでいる。

迷ったり悩んだり落ち込んだりしながらも、壁を越えるときはぶち壊すか飛び越えるか。どんなに少しづつでも確実に前に進むことを覚えた。

だからそれでいい。自信だけは持っていながらも、無駄に力を誇示しながらもただ逃げ続けていた昔の自分に比べれば。弱くったって、能力がなくったって、それが自分自身。それさえしっかりと心に留めておけば、前に進むことが出来る。

振り返ることはあっても、もう後ろに進むことはないだろう。

立ち止まっても足踏みしても、逃げたりしない。

自分の納得出来るゴールまで生きていかなければならない。いや、生きていきたい。そう想い続ける様な旅路であるように願いたいものだ。それすらも自分次第なのだけれど。
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 いつものように滴り落ちる点滴を眺めて、私はぼーっとしていた。

もう何年もこの場所にいる。毎日のようにお見舞いに来てくれる彼と、日常の話をして、笑い、優しさに触れる。私はこの場所にいるのだから病院の話しか出来ないのだけれど、彼は嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。

私はもういっそのこと殺してくれればいいのにと思っているけれど、彼が私と同じ状態になったら、私は死んで欲しくないと思う。だから私は彼のために生きている。

多分私は良くも悪くもならず、それでもこの場所で、彼が見舞いに来るのを待ち続けているのだろう。寿命が来て天寿を全うするまで。そんな予感も医師や看護士の態度を見れば、あながち間違いではないだろう。

この場所にいる分には、私は特に普通の人とは変わらない。だから笑顔で彼を迎える。私のために来てくれる彼を。

本当は私の事など忘れて、新しい人を見つけて下さいと言わなければならないのかもしれないが、私は彼を繋ぎ止めて置きたいのだ。その気持ちは偽れない。

だから私は、この何の変哲もない日常の中で、唯一変化を与えてくれる彼が来るのを、とびっきりの笑顔が出来るように準備しながら、待ち続ける。それが私が今生きているということだから。

あと一時間もすれば彼は見舞いに来てくれるだろう。もしかしたら仕事で忙しくて遅れるかもしれない。でもたった1分でもいい。彼が来てくれて、私の笑顔を見せることが出来るなら。
彼女と距離を置かなければ。そう考えることがよくある。

なぜなら彼女は高嶺の花。あまりにも知りうる情報が素敵過ぎて冷静ではいられなくなりそうで恐い。

それ以上に見込みのなさそうな恋愛に嵌りそうで恐いのだ。彼女に不快な思いをさせたり、迷惑をかけそうで。

しかしながら彼女はあまりにも魅力的過ぎて、見かければ必ず声をかけてしまう。

彼女が忙しそうであれば待ち続ける。なんたる自分の行動の青いことか。

最早約束事のように、彼女と距離を置こうという考えは、守れないことを前提として頭に浮かぶようになった。

自分に嘘はつけないもんだな。と心の中で自分の姿を苦笑しながらも、今日も彼女と言葉を交わす。

それは何物にも変えがたい至福の時間。近づき過ぎないように許される限りの時間、彼女といたい。彼女に飽きられることのない程度に。
「お酒弱いって言ってなかった?」

「言ったよ」

「それにしちゃ度の高いアルコールを飲んでるじゃない」

「うん。洋酒の方が好きだし、何より身体に合うんだ」

文句言われながら飲む酒と、彼女を肴にするのは心地良い。

「いいかげんなのね」

「いつだって俺はいいかげんだよ」

「知ってるけど」

彼女の言葉が終わると同時に口づける。

元の位置に戻ってのんびりと彼女を肴に酒を煽る。

「んー最高に幸せだ」

「のんきな人・・・・」

そう言いながら微笑んだ彼女は何よりも美しく。

美人でなくても自分にとって最高の美女であることは語るべくもなかった。月の明かりに照らされて一層美しさを際立たせている。

「キミがね、好きだよ」

彼女は何も答えない。その代わりにちょっとした動揺を見せてくれる。それがまたいとおしい。

「やっぱり俺は幸せだよ」

「そう?よかったわね」

このまま眠りにつけば気持ちいいだろうな。彼女にこっぴどく叱られるかもしれないけど。だけど本当は知ってるんだ。優しい笑顔で毛布をかけてくれてるって。
もうやめよう。

何度そう思ったことか。

世界はあまりにも残酷で、生きていくには嫌なことが多すぎる。

そのひとつひとつが俺の心を蝕んで、そのたびに不意な光に回復されてしまうのだ。いっそのこと一思いに俺の心を喰らい尽くしてくれないか?俺の人生よ。

しかし悲しいかな光に照らされるたびに俺の心は温かくなってしまうのだ。『生きてて良かった』と思ってしまうのだ。こんなにも死にたがっているというのに。

『あなたの十字架は重すぎるわ』

以前付き合っていた女性の一人に言われた。仕方ないじゃないか。俺だって好きで背負ってるわけじゃない。

そしてまた不意な光に照らされた。また生きていたいと思ってしまった。痛いけれどその痛みが心地良い。

まだまだお前と戦い続けろと神は言っているのかなぁ?俺の人生よ。神様なんて信じちゃいないけどね。 
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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