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「この場所から抜け出して、飛び出せたら・・・どんな世界が待っているのかな。」

ふとそんな事を考えながら、目の前の鉄格子越しの窓・・・。
そう、それはこの部屋を司る唯一の素材に囲まれて、私は思った。

物心付いた時にはこの場所にいたから、どうやってこの場所に来たのかも
そしてどうしてここにいるのかの理由さえも私にはわからない。
ただ、毎日外を眺めては、遠くに見える青空に思いを馳せるばかり。

この場所はたまに少しだけ外に近づく事がある。
それは見えざる神の手・・・ではなく、ご主人様の気まぐれか、
私への思いやりかわからないけれど、少しだけ新鮮な空気を
気分転換とでも呟きながら私に与えてくれるのだ。

私は気まぐれでもいい。その時を心待ちにしながら毎日を過ごす。
ここにいれば食べることには困らないし、たまにご主人様が
私とお話をしてくれる。私の話す言葉はご主人様にはわからないけれど。

そんな贅沢な私が外の世界を夢見るのは、
もしかしたら罰当たりだったのかもしれない。
ある日突然、私の目の前にご主人様が現れなくなった。

私はとても心配した。ご主人様が好きだったからだ。
喩えご主人様がこの場所に私を閉じ込めたのだとしても、
私は今の時間も空間も幸せに感じていたのだ。

「神様。一生この場所にいても構わない。ご主人様が無事でありますように。」

しかし私の願いは神様の元へは届かなかったようだ。
私が身分もわきまえず、あの頭上に広がる空を夢見た罰なのかもしれない。

ご主人様が来なければ、私は食事にありつけることも無い。
半ば空腹にも耐えかねて生きるのを諦め始めた頃、
見知らぬ人間がやって来て、私の場所に手をかけた。

「私とご主人様の唯一の繋がりに、気安く手を触れないで!」

けたたましく私は抗議の声を上げたのだが、どうやら声は届かなかったようだ。
見知らぬ人間に扉は開かれ、私は思いがけずあの青空の下へと出る機会を得た。

最早私に喜びは無く、それでももしかしたらご主人様は
私に飽きてしまって、せめて私を自由にしようと思ったのかもしれない。

むしろ、ご主人様が無事ならそれで良い。幸せなこの場所と引き換えに、
ご主人様が無事でいてくれるなら、私はそれでも良い。

切望、哀願とも言える願いを込めて、私は鉄格子に囲まれた
ご主人様との唯一の繋がりを捨て、旅立つことにした。

「ご主人様。私はとても幸せでした。ありがとう。さようなら。」

自由とは、自己責任を伴うものである。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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