完全フィクション
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IT業界と言えば聞こえが良いが、要は私はデスマーチの続く牢獄のような部署…ブラック企業に勤めていた。
私の唯一の支えだったのは何でもそつなくこなせる後輩。後輩がいなかったら乗り越えられなかったプロジェクトはいくつもあるだろう。
後輩はいつも笑顔で、楽しそうに仕事をする。上司の無理難題にも全力で応える。都合の良い部下として扱われてはいたが、誰にでも好かれる後輩は仕事を誇りに思っているようだった。
そんな折、いくつもの修羅場を潜り抜けて来て、それは起こった。こともあろうか例の私たちの直属の上司が、その後輩に失敗の責任をなすり付けたのだ。
失敗したのがその上司なのは一目瞭然。大きなわかりやすい判断ミス。しかしながら現場のことなどどうでも良い上層部は、上司の失敗を上司自身が後輩のものとして報告する言葉を鵜呑みにしたのだ。
その日から後輩は変わった。いや、大筋はほとんど変わっていない。ように見える。仕事はこなし続けているし、無理難題は次々とその手腕でみるみるうちに解決して片付けて行く。しかし、合間を見つけては小刀で木材を削っているのが気になった。
気になった…が、あまりにも鬼気迫るいつもの後輩とは違う表情なので、こちらとしても何と声を掛けたら良いのか、もしかしたら私がここで後輩に勇気を出して声を掛けるべきだったのかもしれないが、とてもじゃないが恐ろしくてそんなことは聴けない程に、仕事の合間を縫っては手のひらに収まるぐらいの大きさの木材を削り続けた。
そんなある日のこと。後輩は一仕事片付けて、多分その時溜まりに溜まって積み重なっていた仕事はその時点で全て片付けていたはずだ。その辺は後輩らしいな、と後になって思うのだが、後輩は私に向かって真剣な眼差しでまっすぐこちらを見据えて言った。
「先輩、お世話になりました。私、先輩と仕事が出来てとても楽しかったです。」
ぽかん。
と言う言葉はこういう時に使うのだろう。あまりの突然の申し出に、私は目を丸くして何と答えて良いのかわからず固まっていると、にこっと満面の笑みを浮かべて、今度はツカツカツカと上司の元に歩み寄った。
「もうやってられません。お世話になりました。」
ビタン!
振りかぶって第一球、投げましたとばかりに上司の顔に叩きつけられたのは、例の木材で彫られたスプーン。
木の匙。
匙を投げる。
「あ。なるほど。」
場違いな感心を口にすると、今度はドカンと上司の机に辞表を叩きつけて、後輩はそれはそれは美しく颯爽と去って行った。
職場の全てが凍りついたように時間が止まっていたが、しばらくして自分が犯したもっと大きな失敗と損失に気付いたのか、時遅しとは言えど必死になって職場を飛び出して、きっと後輩を追い掛けに行ったのだろう。でも後悔してももう遅い。
それから後を追うように私もその仕事を辞めた。
私の唯一の支えだったのは何でもそつなくこなせる後輩。後輩がいなかったら乗り越えられなかったプロジェクトはいくつもあるだろう。
後輩はいつも笑顔で、楽しそうに仕事をする。上司の無理難題にも全力で応える。都合の良い部下として扱われてはいたが、誰にでも好かれる後輩は仕事を誇りに思っているようだった。
そんな折、いくつもの修羅場を潜り抜けて来て、それは起こった。こともあろうか例の私たちの直属の上司が、その後輩に失敗の責任をなすり付けたのだ。
失敗したのがその上司なのは一目瞭然。大きなわかりやすい判断ミス。しかしながら現場のことなどどうでも良い上層部は、上司の失敗を上司自身が後輩のものとして報告する言葉を鵜呑みにしたのだ。
その日から後輩は変わった。いや、大筋はほとんど変わっていない。ように見える。仕事はこなし続けているし、無理難題は次々とその手腕でみるみるうちに解決して片付けて行く。しかし、合間を見つけては小刀で木材を削っているのが気になった。
気になった…が、あまりにも鬼気迫るいつもの後輩とは違う表情なので、こちらとしても何と声を掛けたら良いのか、もしかしたら私がここで後輩に勇気を出して声を掛けるべきだったのかもしれないが、とてもじゃないが恐ろしくてそんなことは聴けない程に、仕事の合間を縫っては手のひらに収まるぐらいの大きさの木材を削り続けた。
そんなある日のこと。後輩は一仕事片付けて、多分その時溜まりに溜まって積み重なっていた仕事はその時点で全て片付けていたはずだ。その辺は後輩らしいな、と後になって思うのだが、後輩は私に向かって真剣な眼差しでまっすぐこちらを見据えて言った。
「先輩、お世話になりました。私、先輩と仕事が出来てとても楽しかったです。」
ぽかん。
と言う言葉はこういう時に使うのだろう。あまりの突然の申し出に、私は目を丸くして何と答えて良いのかわからず固まっていると、にこっと満面の笑みを浮かべて、今度はツカツカツカと上司の元に歩み寄った。
「もうやってられません。お世話になりました。」
ビタン!
振りかぶって第一球、投げましたとばかりに上司の顔に叩きつけられたのは、例の木材で彫られたスプーン。
木の匙。
匙を投げる。
「あ。なるほど。」
場違いな感心を口にすると、今度はドカンと上司の机に辞表を叩きつけて、後輩はそれはそれは美しく颯爽と去って行った。
職場の全てが凍りついたように時間が止まっていたが、しばらくして自分が犯したもっと大きな失敗と損失に気付いたのか、時遅しとは言えど必死になって職場を飛び出して、きっと後輩を追い掛けに行ったのだろう。でも後悔してももう遅い。
それから後を追うように私もその仕事を辞めた。
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