完全フィクション
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「ああ、どうにも宇宙から見る地球なんて、感動するしかないじゃないか。」
私のパートナー、クルーである彼が言った。
「うん。確かにこの光景は、見たこと無い人にはわからない感動があるのかもしれない。」
思ったよりも鳥肌が立つほどに感動してない自分は、出来る限りそれを悟られないように、それでいて彼の感動を邪魔する事の無い様、努めて自分の感情を押し殺して、出来るだけ優しい笑顔を作りながら言った。
私たちは選ばれた。もちろん、その為の努力も長年惜しまなかった。専門的な知識をつけて、数々の実績を積んで、信用を得て、宇宙に送り出すに足ると判断されて、今まさにこの瞬間、宇宙空間を漂う宇宙船の中にいる。
Gのかかった地球脱出は、思ったよりも辛くなくて、『重いなあ』と思うだけで、それほど辛いと感じるものでもなかったし、宇宙空間の無重力は、思ったよりも自分に心地良く、フワフワと漂う事に快感すら感じていたのであった。
だから、宇宙から見る地球に感動するという事よりも、帰りたくないなあのと思う気持ちが本音で、またあの当たり前のように全人類に課せられている重力と言う重石をまた味わうのかと思うと、憂鬱な気持ちが頭をもたげてくるのであった。
「このまま、ここにいたいなあ。」
私がつぶやくと、
「それは僕だって同じさ。だけど、地球にいるみんなに伝えたい気持ちの方がはるかに勝ってるよ。」
興奮する彼の言葉に、私は笑顔で返した。それはもちろん、彼とは同じ考えではない事を悟られない為であり、今現在何とか帰らないでいられないかと非現実的な方法に思いを巡らせている事を悟られないようにする為でもあった。
私たちはみんな、宇宙人であり、地球人だ。
日々の戦争や争いごと、宗教や思想、主張の違いなど実にくだらない。どうあがいたって同じ生命体である事は逃れようの無い事実なのだから、黙ってそれを受け入れればいいと思う。
ましてや、傷付けあうなんてもってのほかだ。私たちは同じ仲間なのだから、共存してしかるべきだ。自分のエゴで他人を傷つけるなんて事は迷惑行為もいいところ、低レベルな愚考に過ぎない。だからといって、みんな滅んでしまえばいいとは、欠片も思わないけれど。
権力や財力、名声や暴力に捉われないこの空間が私は大好きだ。もしも重力という重石を課せられた地球上でも、そうあることが出来るのならば、きっと私は重力も好きになる事が出来るのかもしれない。
人間なんてみんな同じ立場なんだ。有限の。それを人の上に立ちたいとか、特別扱いして欲しいとか、傲慢にも程がある。みんな仲良くすればいいじゃないか。
しかしながら宇宙まで行かせてもらった私には義務と責任がある。えばりたい、実績を積みたい偉い学者や政治家のみなさんにも、興味のある仲間たち全員に恩返しをしなければならない。
繰り返すようだけど、私たちは同じ宇宙人で、地球人なのだから。
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