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「かゆい。」

ボリボリと痒い場所を掻く。それは一種の快感とも言えるが、痛みを伴う事もある、紙一重の挙動。

爪とは、不思議な身体の部位だ。気が付けば伸びていて、ちょうど良く無ければ、不快だったり邪魔だったりする。

時に、女性にとってはファッションの一部となって、艶やかに彩られたりもする。それは受け取る側の感性によってはそれこそ邪魔にしかなり得ないものではあるが、どうだろう。昨今に於いては市民権を勝ち取り始めているような気もする。中にはペディキュアなんて、サンダルだかミュールでも履かない事には見えそうもない場所にまで塗りたくって飾る方法だってある。

「見えない所のおしゃれだなんて、メーカーの策略じゃ無かろうか。」

言ってはみたもののそうでしかないとしたら下着メーカーは商売あがったりだろうし、私が思うにそのどれもがニーズがあってこそのジャンルであるのだろうと一人、納得をする。





雨が降って来た。

どうにも朝から雨の匂いがするなと思えばすぐこれだ。通り雨で済んでくれればいいのだが…。とシャッターの閉まった商店街の辺りで軒先を貸してもらい雨宿り。

すると、いかにもな派手に着飾った、それでいて嫌味の無い女性が駆け込んで来た。言うなれば美人であるし、化粧映えのする顔なのだと思う。私の主観から見ても、目の保養にはなりそうな女性であった。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

「良く降りますね。」

「そうですね。」

「あっ!かたつむり!」

突然の話題転換に驚く間もなく、横にあった自動販売機に駆け寄る彼女。おいおい気を付けておくれ。そのかがみ方だと『見えないおしゃれ』が『見えるおしゃれ』になってしまうよ。

目のやり場に困りながらも彼女の手招きに近付いて行くと、確かに自動販売機を縦横無尽に這い回るかたつむりがそこにあった。

「珍しい~♪子供時代以来かも。」

少女のように目を輝かせる彼女は、可愛さも兼ね備えていると言うのか。何やら自動販売機にしがみつくように手を添えながらかたつむりを凝視する彼女の横顔は、確かに可愛らしさがあった。

「角出せ槍出せ頭~出せ~♪ふふふ♪」

ついには鼻歌まで飛び出す始末。何処まで無邪気なんだろう。厚化粧とのギャップが何とも言えずシュールだ。

その気持ち良さそうに這い回るかたつむりと、彼女のゴッテリと彩られ飾られた長めの爪がサイケでポップ。芸術作品のようにも思えた。





「お邪魔しました~。」

私に言ったのか、軒先のシャッター店に言ったのか。どちらもかもしれない。

気が付けば、雨は上がっていた。

少女のように屈託のない笑顔で手を振りながら、彼女は去って行った。

さて、私も行くとするか。
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