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静かに。ただ静かに。あなたは呼吸を繰り返していた。

私はただそれを見守るだけで、かと言って何が出来ると言う訳でも無く、そのある種の美しいとも言える様を眺めている事しか出来なかった。

あなたに出会ってからどれぐらいの月日が経っただろう。人は死ぬまで人生はどんなものだったかと、答えを出す事が出来ないと思ってはいるものの、私にとってあなたと過ごした人生は間違いなく幸せだったと言えるだろう。

それは今だからこそ言えるのでは無く、いつ何時どちらかが途中で挫折したとしても、私自身は幸せだったと、胸を張って言える、そんな毎日をあなたと過ごして来たのだった。

こんな日が来ることはわかっていたし、特に悲しいとも思わない、ただただ、あなたともう話が出来なくなってしまうであろう事が寂しく感じられるだけだった。それすらもただの自己満足なのだと、自分を納得させるためだったとしても、心から思える。

出来る事なら最後に聴いて見たかった事があったのだが、こうしてあなたが自然でいられる事に、そして最後を迎えられる事自体、幸せだと思わなければならないだろう。あなたは痛みも苦しみも無く、専門家である医者に言わせれば眠っているようだと繰り返し感心するばかりであった。





ある日の事。

あなたは突然目を覚ました。

「どのくらい眠っていたのかな?」

「もうずいぶんと…何か月かは眠っていたんじゃないか?」

「そう。…でも目を覚ませばこうしてあなたがそばにいてくれる。私の人生は振り返れば幸せだったのかもしれないね。」

「それは私も、今までの人生を振り返れば、とても幸せだったと、つい先ほども考えていた所だよ」

「同じ事を考えているって言うのも、夫婦だからかしら。」

「そうだとしたら、実に光栄だね。私は素晴らしいパートナーを持った。」

「おだてても何も出ないよ?(笑)」

そうひとしきり微笑んだ後、あなたはこちらにしっかりとそのまなざしを向けて、確かにこう言った。

「ありがとう。本当に幸せ。」

「こちらこそありがとう。」

そして手を繋いで目を閉じたかと思うと、あなたはまた眠りに落ちたようだ。まるでそれは夢であったのでは無いかと思えるぐらい自然な出来事で、誰にも信じてもらえないであろう体験かも知れなかった。何故ならその体験は私しか味わっていないのだから。

心電図が直線となって、『ピー』と言う音をしばらく聴いた後、我に返り、ナースコールを押した。



あなたは眠るように息を引き取った。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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