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ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

たまに転んでみたり、水たまりに脚を踏み入れてしまったり。

見た目はとても美味しそうな林檎。時には一緒に転がり落ちる。

坂道はどこまでも続いていて、でもその先に地獄が待ち受けていると言う危険も無く。

この先には車道なんてものもなかったはずだ。

もしそういったものがあったとしても、追いかけるのを止めただろうか。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

酸いか甘いか。食べてみなければわからないのに。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

ああ、もう少しで平地が見える。あそこで拾って食べてしまおう。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

平地で止まり、拾い上げる。

迷わず拭いて、ひとかじり。

甘い。でも美味い。甘すぎると言う事も無く、自分にとって絶妙の味だった。

ふと空を見上げれば、それはこれ以上無く晴れていて。

確か昨日は大雨だったような気がするが、口の中に広がった林檎の味と

雲一つ無いその空の青さに、そんなことは忘れてしまった。

そういえば、随分下まで来てしまったのだな。

元の場所まで戻らねばならない。

今度は坂道をしっかりと踏みしめて、一歩一歩歩き始める。





しばらく歩いて、ふと下ばかり見ていたことに気付く。

元いた場所のさらに向こうに、大きな林檎の樹が生えていた事に気が付いた。

その堂々たる佇まい。何のことは無い。自分が口にした林檎は一部でしかなく、

その素晴らしい全容は圧倒されるほどの魅力を持ちながらも、

押し付ける事も無くそこにただ存在しているだけで笑みを禁じ得なかった。





触れている部分はいつだってたった一部で、全てを見るには時間が掛かったり

深く踏み入れたり、自分から知ろうとしなければわからない事も多い。

誰にだってあの林檎の樹の様な魅力を携えている可能性があるのだ。

もちろんそれが誰しもに危害を加えるような危険性を持ち合わせている

可能性も否めないのだけれど。

判断するには、自分の感性を信じるしか無い。

それが見誤ったとしても、自分の五感で感じたものの答えなら、

誰に責任を押し付ける術も無く納得するしか無い。

その結果どうなるかも、その後の判断と自分の行動に任せればいいだけの事。




風にざわめく葉の歌声を聴きながら、温かい気持ちで林檎の樹を眺め続けた。

林檎の芯を手に。
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