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 この森を進んでいくと、大きく開ける場所があって。
その奥にある木陰で今日も彼女は読書をしている。

「こんにちは」

「こんにちは」

「今日は暑いですね」

「そうですね」

彼女は無表情に、こちらを向くこともなく本を読みながら言葉を交わす。
彼女の横顔は、物静かで、美しい。だけど彼女にとってはどうでもいいことのようだ。

「その本面白いですか」

「普通ですね」

「どこかに行きたくないですか?」

「海外に行きたいですね」

「いや、今」

「ああ、別に」

もちろんこちらとしては彼女と同じ空間にいるだけで嬉しいし、話をしているだけでも楽しい。しかし彼女の心の動きが見たいが為に、言葉を駆使して動揺を誘う。しかしながらいつも動揺しているのは自分の方で、彼女は全く動じない。

「君に触れたくなる」

素直な言葉を口にする。

「だめです」

空気が少し強張った。

何を考えているのかもわからないし、たまによくわからない言動をちらつかせて、見事にこちらの方が悩まされる羽目になる。しかしながら頑なな彼女の態度や、素っ気無い対応、口数少ない返事がまた心地良い。

彼女はまるで森の妖精のように見えるのだが、本人は腹黒いつもりのようだ。実際どうなのかは俺には想像もつかないが。

仕事の電話が入る。彼女との話を中断されたくはないのだが、仕方がない。彼女を待たせる。

申し訳ないのだけれど、なかなかこの場を立ち去ることも出来ず、彼女と空間を共有したいというワガママで、長い時間ここにいてしまう。

「さて、もう帰らないと。」

彼女が家路に着く。

「またお会いしましょう。」

愛を伝えたくても、あまり言葉で表して欲しくない彼女に釘を刺されてしまったため、ただ一言、別れの挨拶を告げた。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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