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「さて、我々はあらゆる手段を使って、我こそは成功者だと思う人間を今回集めました。当然、私の今目の前に座ってらっしゃる皆様方も、その一人なわけです。」

大きな球場の中に、たくさんの人間が詰め込まれている。満員御礼だ。リポーターなのか、真ん中に一人、男がマイクを持って客席全員に語りかけている。

「いろんな方がいらっしゃるでしょう。夢を叶えた方、お金持ちでいらっしゃる方、仕事を大きくした方、有名になられた方、権力を手に入れた方。様々な成功者でいらっしゃるでしょう。」

ここで、男は少しだけだが、意地悪な笑みを浮かべた。客席からはみえないかもしれないぐらいの、ほんの小さな笑みだが。

「さて、ここに来てみなさんに振り返っていただきたい。今までの苦労や、努力。並々ならぬものがあるでしょう。」

一息ついて、男は言った。

「みなさんの心は、満たされていますか?」

球場内はざわざわとしていたのだが、シーンと静まり返った。

「たとえば、望んだ地点に辿り着いて、たとえば、欲しいものを手に入れたとして。あなたの心は満たされていますか?」

誰も声を発しない。

「満たされているのなら、我々は素直におめでとうございますと、賞賛と祝福の言葉を贈りたいと思います。しかし、満たされていない方々は、本当の意味での成功者ではない。」

男は、この球場にいる全員に大きく語りかける。

「満たされていないあなたがたは、失敗者だ。・・・悔しいですか?悔しいでしょう。あなたがたが必死で成功しようと願っても、もしかしたら凡人にも劣るのかもしれないのですから。」

続けて男は言った。

「いろんな意味での力の強さや、勝利など、その程度のものなのですよ。人間である以上、たとえこの場で満たされていないみなさんが腹いせに私を殺したとしても、あなたがたが無駄な努力を重ねてきたことに何も変わりはありません。」

満面の笑みをこらえきれず、男は言った。

「中には凡人の妄言だと片付ける方もいらっしゃるでしょう。しかし、自分の心にだけは嘘はつけません。満たされていないと感じたら、きっとごまかすことは出来ない。」

深呼吸をして、たたきつけるように言った。

「満たされていないあなたがたは、失敗者。無駄な努力をしてきた。そこに本当の意味での人間の成功や幸せなんてこれっぽっちもないのです。これは事実です。受け入れたくなくても、気付いてしまえばそれまで。・・・本当の意味での成功者は、こんな場所に名乗り出てきたりはしないと思いますしね。ささやかな幸せと、周りの人々に静かに感謝していることでしょう。」

両手を挙げ、くるりと見渡すと、男は最後にこう言った。

「良かったじゃないですか。今日はみなさん、真実を知ることが出来たんですから。わざわざご足労戴き、ありがとうございました。-ご苦労様でした。」

そして、呆然とする「自称成功者」を尻目に、男は去っていった。
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1987/01/14
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自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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