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六畳一間のアパートで、一人、男がウイスキーを置いてアコースティックギターを弾いている。
そこに『ドンドンドン!』とけたたましく、ドアを叩く音が入ってきた。
「良輔か?入っていいぞ」
『ガチャリ』
「おーお前のギター聴くのも久しぶりだな。」
嬉しそうにもう一人男が入ってくる。
「仕事うまくいってるか?」
ギターを置いて問いかける。
「ああ?まだまだだよ(笑)雇われはツラいぜ。」
「そうか・・・まだ音楽やってんのか?」
「最近はもっぱら聴くほうだな。努力嫌いの俺じゃ無理だよ。」
「良輔のセンスは悪くないと思うんだがなぁ。」
「浩嗣(ひろつぐ)、お前みたいにギター弾けりゃまだ続けてたかもな。」
言われて笑いながらウイスキーを側にあったグラスに注ぐ。
「おいおいストレートかよ。俺そんな強くないぞ。」
「しがないギター弾きのたまの楽しみぐらい付き合ってくれよ。」
ギターの側にあったグラスに、自分の分を注ぐ。
「そういや前から聞きたかったんだけど、浩嗣はなんでギター始めたんだ?」
「ああ・・・ありがちな話だよ。小さい頃、親父が見てたジミヘンのビデオ、横で見ててカッコいいなって思ってたからな。」
「それにしちゃ全然スタイル違うな。」
「アーティストは真似してちゃダメだろ。」
「まあな。」
「そういう良輔は何で音楽始めたんだ?」
「・・・うーん。俺のは浩嗣とは違うんだよ。」
一口ちびりと、ウイスキーを飲む。
「幼稚園の頃、夢を見たんだ。」
「ほう?」
浩嗣は一気に一杯飲み干す。新しく注ぎなおす。
「その時、この世のものとは思えない音楽を聴いたんだ。あれは凄かったんだろうな・・・朝になったら忘れちゃったけど、印象だけがものすごく残ってる。海底から太陽を天に仰ぐイメージで・・・クラシックのようで、ロックのような・・・それでいてとてつもなく綺麗なメロディだったような・・・。」
「なんか某メタルバンドみたいだな。」
「もっと神聖で救われる感じがしたよ。夢の中で号泣した覚えがある。」
「幼稚園で号泣ってスゲーな。」
「ああ。・・・今でも未練たらしく音楽聴いてるのは、無意識のうちにその完璧な音楽を求めてるのかもしれないな。」
遠い眼で、良輔はグイっと飲み干した。・・・弱いのに(笑)
「俺もいつかそんな音楽が作れるようになれたらなぁ・・・。」
2人は何とはなしにうつむき加減になり、夜は更けていくのだった。