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若くして親父が死んでしまい、墓に手を合わせた。

桐箱に入った代物。親父が遺言と共に遺した物だ。

俺には見知らぬ誰かの思い入れのある物に触ると、
付喪神化させてしまう能力が備わっている為、
むやみやたらに触れないのでこうしてある。

普段なら何かしらの依頼を受けて、
落し物や忘れ物を届けに行くのだが。

親父は孤児院で育ったそうだ。クラスメイトだった友達が、
両親に買ってもらったプレゼントを学校で自慢していたらしい。
桐箱に入った代物を見た俺は、何でそんな物を学校に持って
行ったのか、理解に苦しんだのだが。

天涯孤独の身だった親父は、嫉妬からその代物を
盗んでしまったと言う。しかも悪い事に翌日、
その友達は突然転校してしまったそうだ。

何でも両親の不仲が原因だったと後で知る事になる。
親父は死ぬまでそれを後悔していて、息子である
俺に、最期のワガママだと尻拭いをさせる魂胆だった。

罪悪感もあるだろうが、生きてる内に自分で返しに
行って謝るなりすればいいものを。今更こんなものが
戻って来ても、相手は大の大人だ。喜びもしないだろう。

小学生の自分は、能力のせいでニヒリストになってしまったせいか、
どうにもランドセルなる物を背負うのは恥ずかしかった。

親父の都合で巻き込まれた代物に、直接尋ねてみる事にする。
桐箱から代物を取り出し、手に取って付喪神を呼び出す。

「こんにちは!」

「…こんにちは。」

「僕の新しい持ち主?」

「残念ながら違う。訳あって君を元の持ち主へと届けに行こうと思ってる。」

「人間達の時間では、もう随分経ってるよね?僕の事覚えてるかな?」

「俺は本人じゃないからわからないけど。」

「もし差し支えなければ、案内するから僕を倉庫にでも戻してくれないかな?」

「君が望むのであれば、そうしようと思ってる。」

それから戻す家に行くまで、色々な話を聴かせてもらった。
前の持ち主の話だ。転校する前から、どうやら辛い思いを
していたらしく、祖父母の家に預けられたりもしたのだと言う。

親父もわざわざそんな友達を選ぶ事も無かろうに。
もしかしたら、元の持ち主にとって、両親との
確かな繋がりだったのかもしれないな。それを
買ってもらって、学校に持って来てしまうほど
嬉しかったのかもしれない。それが当時の親父には
眩し過ぎて許せない対象に見えてしまったのだろう。

目的地に着くと、付喪神は代物に戻った。
音を殺して鍵を開け忍び込んで、
倉庫にそっと戻しておいた。

古ぼけた黄色いシャンプーハット。
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キミの瞳は一万ボルト・・・いや、死ぬから。なんて考えてたのも若かりし頃か。

「例えばね。街を歩いてるとするでしょ。」

「うん。」

「まあ、なんだろう。不良って死語かもしれないけどDQNとかそういう人とかが口笛吹いちゃうぐらいのイイ女がいたとするじゃない。」

「キミの表現がいちいち古いのは置いておくとして、それからどうした。」

「それで目を引くような素敵な・・・。この際露出が多くても良いけど、とにかく、誰もが目を奪われるような格好をしていたとしてね。」

「ファンタジーになって来たけど・・・うん。」

「その人の顔がもう笑っちゃうぐらい、自分の好みだったとするよね。」

「白馬の王子・・・いや、お姫様かっ!・・・それで?」

「で、目が合ったとして、それって一目惚れ・・・なのかな。」

「んー・・・。なんか私が言うのもなんだけど、純粋なソレとは何かが違う気がする。」

「だよね。」

「うん。」

「で、今のは例え話で。」

「・・・うん。」

「ウチの学校の制服が好きなわけ。結構それ着てるだけで五割り増しに見えるぐらいに。」

「それを着てる異性に対して堂々と性癖を暴露するキミは凄いな。・・・で?」

「まあ、会っちゃったわけですよ。自分の超好みの女の子。顔も好みならスタイルも好み。高嶺の花かなーなんて思ってたら結構フランクで、話し易くてね。」

「へー。おめでと。」

「ありがとう。で、もう毎日が楽しくてね。その人とばーっかりしゃべってるんだけどさ。もう本当に毎日が幸せなわけ。」

「・・・・・・・・・うん。」

「最初から好きだったんだけど、これって一目惚れだと思うんだ。」

「・・・・・・・・・。」

「でね。ついに最近気持ちが抑え切れなくなって来て。我慢出来なくなって来ちゃったw」

「・・・・・・・・・ちょっと待て。」

「何?」

「・・・・・・・・・それって・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいよ、続けて。」

「でもさ、さすがに本人目の前にすると、情けない事に勇気出無くってさ。」

「・・・・・・・・・がんばれ。」

「うん。もっと応援してくれる?」

「・・・・・・・・・男だろ!勇気出せよ!」

「キミのそういう所が好き。」

「・・・・・・・・・わかんなかった。」

「付き合ってください。」

「はい。て言うか先に言われた。」

「え?」

「先に言われた!くやしー!」

後で聴いて見ると、彼女も最初から好きでいてくれて、いつ言おうか、自分の勇気の無さを悩んでくれていたんだって。
森の中を歩いていた。

こうやって言うとまるで何か木漏れ日に溢れた・・・そういった美しい光景に清々しさを感じる輩も多いのだろうが、自分は逃げ込むようにハッパを吸いに来ていた。

色々な事が嫌になって、森の中に逃げ込んでみた。煙草を一服する所だが悪い事にデニムのポケットに紛れ込んでいたのはあろうことかハッパだった。この流れから言って、まずは貴兄の期待を裏切っているであろう事を謝らなければならない。

まあ、謝った所で何が変わるわけでもないのだが・・・。

すぐに逃げ出したくなる割に面倒事を背負い込んでしまうタチの自分には、この日課がストレス発散に随分と向いているらしく、依存するかの様に、それでいてバラバラな時間帯に森の中へと休憩を取りに来ているのだった。

気の利いた椅子や机なんぞが木漏れ日溢れる森の中に存在しているはずもなく、適当な老木を探しては根元に座り込んで、申し訳無い気分で寄りかからせてもらってハッパを一服。

するとどこからか笛の音が聞こえて来るのだ。ん~・・・この音はフルートかな。

深い緑に染まった音符が木漏れ日をあざ笑うかのように飛び交い、挨拶を交わす。その光景が非常に可笑しくて、笑いながら音符の母親を探しにゾンビのようにフラフラと彷徨う。

音が止まったな。

「・・・どちら様ですか。」

未だ見えぬ姿の主が声を上げた。母親発見。

「はじめまして。しがないスモーカーでございます。」

ピエロのように大仰に挨拶してみせる。そこにいたのは美しい・・・若い、もしかしたら子供と呼んでも差し支えの無いような・・・シフォンのワンピを身にまとった女の子が、フルートを片手に立ちすくんでいた。

「それ、煙草じゃないですよね?」

怪訝な顔で訪ねる彼女に、紫色の煙で応える。

「何もしやしない。あんたの生んだ綺麗な色の音に導かれてやって来ただけだよ。何だっけ?」

「・・・・・・?」

「さっきの曲。」

「J.M.ラヴェルの『ボレロ』です。」

「そうか。教えてくれてありがとう。差し支えなかったら、続きを聴かせてくれないかな。」

彼女は少し後ずさった。彼女の挙動に目もくれず、適当な老木に寄りかかって、ハッパをふかす。こちらを警戒しながらも、スイッチが入ったのか、目を閉じて続きを奏でる。

「深い緑に染まった子供達が楽しそうだ。」

こちらの言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、彼女は少し目を開けてこちらに一瞥をくれただけで、止める事無く演奏を続けた。
おとうさんとおかあさんがまたけんかしている。

ぼくがけがしないようにおばあちゃんにおじいちゃんのいえにつれていってもらう。

「あの二人はどうして仲良く出来ないのか。」

とおじいちゃんはためいきをつく。

おばあちゃんはただ、かなしそうなかおでぼくのあたまをなでてくれる。

ぼくはあまりおとうさんとおかあさんがなかよくしていたきおくがない。

だからいつかぼくがおとうさんになったときは、ぼくのおよめさんとたくさんななかよくしようとおもう。

おばあちゃんがふとんをしいてくれて、きょうもおじちゃんとおばあちゃんとねることになった。





わたしのおとうさんとおかあさんはいつもなかがいい。

「またいちゃいちゃしてるー。」

おとうとがからかうと、おとうさんはまじめなかおで

「家族が仲良くしているのは大事な事なんだぞ。」

とおとうとのあたまをなでながらニカッとわらう。

わたしはおとうさんのわらったかおがすき。

だからいつかおかあさんみたいなひとになって、おとうさんみたいなひととけっこんするんだ。

きょうもみんなでねる。おとうとはいつもたのしそうにしてる。わたしはしあわせ。

おやすみなさい。





「おにいちゃんがまたぼくのおもちゃとったー!」

泣きながら下の子が訴えてくる。すまなそうな顔で上の子がオモチャを下の子に返す。

「わるかったよ。ほら。」

罰の悪そうな顔して、悪い子には育ってないなと一安心。普段からとても仲が良いから、子供たちが喧嘩をすると、昔の両親の姿を思い出してドキッとする。

「だってお父さんが悲しそうな顔するんだもん。」

偉いわね、と頭を撫でる妻に、上の子がそう答えた。自分ではわからないが。

「お父さんと弟と。そしてお母さんの為にも、これからも仲良くしてね。」

妻はとても家族が仲が良い事に喜んでいる。幸せだとも言ってくれる。いつぞやの両親のようにはなりたくないと、自分なりに努力はしているつもりだが、今の所大丈夫なようだ。

これからもいろんな事があるだろう。もしかしたら子供達の反抗期に悩み、涙する時も来るのかもしれない。でも、今の時間が子供達の心の中に根付いてくれるなら、大丈夫じゃないだろうか。

湯船から出て、あの頃ひとりぼっちで風呂に入り使っていた、久しぶりに見つけて来たシャンプーハットを被ってみる。

洗髪しながら目に染みた振りをして、一緒に入る子供達にばれないように、あの頃の寂しい気持ちと、この幸せな時間に対する喜びから少し泣いた。
何事も無い、何の変哲も無い、平凡な、極々面白みの無い毎日。

絶望なんて枯れ果てるほどして来た自分は、最早絶望する事にすら飽きてしまった。

ただ淡々と毎日を繰り返し、自害を求める事すら億劫で、『死』と言う誰もが訪れるゴールに向かってヨタヨタと歩き続ける精神状況。

そんな中でヰンタアネットなる仮想空間は、自分にとって現実逃避であり、夢の国でもあり、絶望にすら飽きた人生にひと時の憩いを生み出してくれる場所だった。

別に失うものも無いのだから、危険を顧みず現実に他人と逢ってみたりもする。それは結局、「ああ、またか。」とつまらない人間との出会いを増やす為だけの作業だったけれども。

同属嫌悪と言うか、同じく現実逃避している人間は、何処か自分にとっての『ダメ人間』を投影しているような相手ばかりで、絶望にも飽きている自分には特に落胆も無く、先ほど記述したとおりに「ああ、またか。」と流れる景色を見つめているだけであった。

ある日突然、一年ほどヰンタアネットで仲良くしていた一人からお誘いがあった。音楽を演奏する『ラヰヴ』と言う名の舞台に行こうと言う。

紆余曲折あって、何処かどうなるかわからない部分もあったし、頭で色々な可能性を考えていたけれど、消極的な自分はスロウスタアトにチケットを買い、実現するかもわからない逢瀬に身を委ねる事にした。

写真を交換して、ガッカリしないようにと念を押した。写真を見てなかなかの好みではあったが、本人かどうかは会って見ないとわからないなと思った。

当日を迎えてもまだ現実感は無く、本当に来るのかな・・・なんて思いながらも、準備に時間がかかったり、普段間違えない道筋を間違えて右往左往してしまったりした。

待ち合わせ場所に立っていたキミを見て、驚いた。

何年も靄にかかっていた脳内が、一気に晴れていくのを感じた。

え?

目の前にいるのは、理想の女神。何かに騙されているかのような気分で、緊張してしまう。

美しい。

仮想空間越しに文章だけで連絡を取っていたキミよりも、可愛かったり、面白かったり。

コロコロと代わる表情を見ては、ニヤニヤしてしまいそうになる自分に気付く。

何年ぶりだろう。久しぶりに恋に落ちた。

今までの失敗や絶望がこの為の準備であったかのように。キミとの時間を本当に大事に、大切に過ごした。キミとの別れは決められていたけれど。

しばらくしてキミと新しい人生を始めるのだけれど、それはまた別のお話。
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