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最初から情報は得ることが出来た。わかっていてどうすればそれを防ぐことが出来るのかと言う問いに、まず不可能であろう事は最初からわかっていた。

何しろ相手にその動作を許して、何をされるのかがわかっているのに生き残らなければならない。与えられるのはまず致死量であろう。挑戦しようとしている人間がどうかしているのは素人考えでもわかることだった。

つまり、自分は本当に死にたかったのだ。だからこの実験なのか罠なのか淡々とした作業なのかはわからないが、そこかしこで少し深い所に潜れば見つかる怪しい募集に心惹かれるのは仕方の無い事だった。

圧倒的絶望。

マゾヒストとかそういうレベルをとうに超えてしまうほど、どうしようもない価値観に捉われていた。多分自分は自殺志願者ではなく、死にたくないのに死ぬ恐怖を味わいたいだけなのだ。

募集要項には、実験内容は書いてあっても、提供される情報以外の質問には答えられないとの事。きっと自分には最高の最期を迎えられるであろう想像をするだけで、喜びに身を震わせることが出来た。

自分には全く以って何も無かった。手に入れようとも思わなかったし、いつ死んでも良いと思っていたから、俗に言う一人、そう世間で言えば孤独と言う状態だったと思う。

しかしながら誰といても退屈なのは変わらなかったし、何一つ不満なことなど無かった。だけど死んでみたいなとは常々思っていたので、確実な『死』を与えられる機会を待っていたのだ。



期日がやって来て、待ち合わせ場所に佇む。後ろから声をかけられ、目隠しをされてどこかに運ばれる。車に乗せられたようだった。そして車から降りる。外の空気からどこか室内の空気に変わるのがわかった。椅子に座らせられる。目隠しを解かれると、黒尽くめの男が目の前に座っていた。

「これから、握手をしてもらう。チクリとした後、君には死が訪れるであろう。しかしもし生き残れば多大な報酬を得ることが出来る。ただ、君が手のひらから摂取する毒は、致死量の数百倍だ。体力に自信があるとか、その程度なら楽勝・・・いや、楽ではないな。天に召されるであろう。やめるなら今のうちだ。」

問い掛けだと受け取って、首を横に振る。

「それでは、準備はいいかな?」

思ったよりも怖くない。どこか、冗談めいた淡々とした語り口調が、無駄に恐怖を煽ら無いせいだろう。もう少し怖がらせてくれてもいいものだが。

相手の手が伸びて来た。迷わず握り返した。背筋が凍ることも無い。拍子抜けだ。もしかしたら死ぬ前に生まれて初めてガッカリしたのかもしれない。そうだ、自分は期待していたのだ。苦しいのか、痛いのかはわからないが、相当な苦痛を経て死を迎えられるはずだ。

チクリとした後、しばらく握手していた。しかし、いつまで経っても死ねなかった。

そう、死ねなかった。

それこそが自分にとっての本当の絶望だった。

毒など塗られていなかったのだ。

家に帰された後、首を吊った。
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