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最近では外国からの観光客も多く見受けられるようになった。花見をする時の場所は大体候補があって、今日来た巨大な池のある公園も、その候補のうちのひとつだった。

この場所に来たのも、何度目か忘れてしまったし、様々な人間たちとここに訪れ、今でも付き合いがあるものもいれば、もう会わなくなった者たちもいる。

花見と言えば酒を思い浮かべる人間も多いだろう。実際こうして歩いていると、桜の雨の中、大騒ぎしている若者から静かに酒を楽しんでいるご老人までいらっしゃる。しかしながらもっぱら毎年自分が楽しみにしているのは屋台の食べ物だった。不衛生なんて野暮な事は言わないで欲しい。これこそ、夏の祭りと並ぶ食の風流であるのだから。

池に浮かび泳ぐ鴨たちは実に気持ち良さそうだ。

烏龍茶で一息入れていると、横の顔を赤くしたオヤジが、おちょこに浮かんだ花びらに喜んでいる。

「オツだねえ!なあ?」

見知らぬ自分に話しかけるオヤジに、笑顔で相槌を打つ。何とも幸せな気分の人間が、これだけひとつの場所に集まっているなんて、めでたい事じゃないか。普段はうざったいと思うであろう酔っ払いの絡み酒も、それこそオツに感じる。

桜の枝がトンネルを作って、その中を歩いて行く。ボートを漕ぐ恋人たちの群れ。桜の花びらの中を漕いでいるかのように見える。ピンクの湖面に浮かぶ人工白鳥は、実にファンタジーだが、目に映る光景は夢ではなく、間違いなく現実の美しさだ。

しばらく歩いて行くと、おなかがいっぱいになったせいか眠くなって来た。酒なんて一滴も飲んで無いのに、きっと春の陽気と、陽気な気持ちに酔っ払ってしまったのだろう。私も立派な酔っ払いだ。地面が汚いなんて野暮な事は思わないが、なかなかどうして、この眠気を解消する為の寝心地の良い自然の敷布団を探すのは意外に苦労した。

やっとのことで落ち着く場所を見つける。ここなら鬱憤を晴らすべく楽しく騒いでいる連中の邪魔をすることにもなるまい。自分の腕を枕に、しばらく眠ることにした。遠くに聞こえる雑音が、昼寝をする為の子守唄になる。



しばらくして、意識が戻った。が、なんだか目を開けるのはもったいない気がしてしまう。が、寒い。堪え切れない震えを感じて目を開けると、空は赤く染まり、桜の色とのグラデーションが美しく感じられた。

起き上がると、私は積もった桜の花びらに埋もれていたらしい。桜の海に溺れていた様だ。

さて、帰るとしよう。
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「もう会うのやめにしない?」

突然、彼女は言った。物凄く仲が良くて、淡い恋心を抱いていたのでショックだった。何よりも、あまりの突然さに怒りさえ覚えたが、当たって砕けろ、交際を申し込んでみた。

「初めて会った時からずっと好きだったんだ。付き合って欲しい。」



結果はOKだった。腰が砕けて、肩透かしを喰らったような何とも言えないモヤモヤがあったが、前進出来た自分を褒める事の方が先に立った。



付き合い始めてしばらくして。本当に幸せだった。毎日が幸せだったし、彼女といつ結婚出来ても良いように、良く働いて金を貯めた。本当に好きだった。空いた時間があれば必ず彼女との時間に費やした。しかし突然、彼女の口からとんでもない提案が飛び出した。

「私たち、別れた方が良いと思う。」

今度は本当に怒った。俺に飽きたのか、だったらハッキリ言ってくれと詰め寄った。しかしそうでは無いと言う。業を煮やして彼女に結婚を申し込んだ。いつでも渡せるように指輪は買ってあったし、貯めた貯金も充分過ぎる位になった。



彼女は先ほどまでの態度とは打って変わって、快く受け入れてくれた。頭の片隅に何か確信めいた信頼のようなものが掠めたが、まずは二人の生活を始める為に準備しなければならない事がたくさんあった。

こうして彼女との生活が始まった。余裕はあるのだが、彼女は主婦でいることを拒んだ。

「何かあったらどうするの。お金はあればあるほど安心出来るものよ。」

この言葉を盾に、彼女は良く働いた。自分だって負けるわけには行かない。風邪を引いても働き続けて、二人の時間もなるべく作るようにして本当に充実した幸せな毎日を送っていた。彼女も満足していて幸せだと言ってくれたし、もっともっと、今度は『突然』なんて事が無いように、出来るだけ思いやりと愛情を持って彼女と暮らした。



ある日突然、彼女が深刻な顔で

「話があるの。」

と言って来た。

ファーストフードのハンバーガーショップをご存知だろうか?昼飯が決まらない時に、共通すると思われる妥協案を放り込むと、それよりも良い所に行こうと、次々皆から競うように代案を引き出せると言う話。

愛する妻が言った。

「離婚しようと思ってるの。」

私は彼女を一生許さない。一生懸けて、この罪は償ってもらおうと思う。

底意地の悪い彼女に提案する、私からの罰はもう決めてある。罰する為の刃を、彼女に振り下ろした。

「そんなことより・・・子供、作らないか?」
「わしの仕事か?サンタクロースだよ。
一応フィンランドに住んどる。

家族も300人ぐらいいてな。さすがに世界中を一晩、光の速さを使って
トナカイだちを急きたてても、わしひとりではおっつかんのじゃ。

何しろ移動は早くても良く眠る良い子供たちを起こしちゃいかんからな。
そーっと・・・そうじゃな・・・あんたの国に忍者っておったじゃろ。昔。
抜き足差し足忍び足・・・だったかな?
子供達の枕元にプレゼントを置いて来なきゃならん。

まさにMission:Impossibleじゃな。
それも1人や2人なんてもんじゃない。億単位じゃ。
終わるとさすがに足腰立たなくなるわい。
それでも、子供達の笑顔を見ればそれもすっ飛ぶ。

600年以上生きてられるのも、子供達の笑顔のおかげじゃな。」



「やーいやーい、コイツまだサンタクロース信じてるんだって~。」

「こっどもー!こっどもー!」

生徒達が騒いでいる。

「違うもん!お父さんとお母さんが言ってたもん!サンタクロースはいるもん!」

1人の子が泣きそうだ。昔見た光景だな・・・どれ、助けてやるか。

あらかじめ用意しておいた電報を手に、子供達の輪の中へ向かう。

「こらこら、ケンカはやめないか。」

「先生ー!コイツサンタクロースいるとか言ってるんだぜー!」

「いないよなー?w」

「違うもん!いるもん!」

「ああ、いるよ。」

『えっ!?』

「先生、サンタクロース信じてるの?」

「信じるも信じないも、いるんだから別におかしな事じゃないだろ。」

子供達の目の前で、電報を開く。

サンタクロースを中心に、サンタクロースの
家族達が並んで、雪の中集合写真を撮っている。

その下に英語と日本語で、私が子供の時に手紙を出した返事が書いてある。

しばし電報に目を奪われる子供達。

「先生、先生これ、どうしたの?」

「私が子供の時にサンタクロースに手紙を書いたんだよ。これはその返事。な、いるだろ?」

へー。と、目を輝かせる子供達。

「ね、いるでしょ!」

「本当だ。ごめんね。」

「まさかいるとは思わなかった。」

「毎年、Googleでもサンタクロースを追跡して、『今ここにいますよ!』って教えてくれるんだよ。先生の子供時代には無かった。便利な世の中になったね。」

すごーい、と声を揃えて子供達が目を輝かせる。

「ケンカせず、良い子にしてろよ。プレゼントもらえなくなるぞ。」

ハーイ、と元気に子供達は返事をした。

あんたのおかげで良い子に育つよ、サンタクロースさん。
白濁した液体を飲み込む。

私は甘酒が好きだ。
だけどそろそろ季節外れになろうとしているのかもしれない。
冷やし甘酒を夏に飲むなんてのも最近ではオツだと思っているけど。

「よっ。」

彼はいつも、約束無しでやってくる。とは言っても、恋人などでは無く、友達以上恋人未満とも程遠い、そうだな・・・飲み仲間みたいな関係。

「どうした今日は?なんか元気じゃねえか。」

「んー。ちょっとね。今日は特別な日だから。」

「なんだそれ。何か良い事あったのか?」

「それはこれから起こるかもね。」

「なんだそれw」

部屋に来た彼を招き入れずに、立ち上がる私。

「ちょっとさ・・・夜の桜でも見に行かない?」

「おっ。いいねー。」

賛同する彼に、まだ肌寒いであろう事を考慮して、ジャケットを羽織る。外に出て、家の鍵を閉める。

「じゃ、行こっか。」

川沿いの桜を眺めながら、色々な事を思い出す。ガラにも無く、美しい桜の花びらにしばし二人で無言のまま見上げて歩く。





私には親友がいる。もちろん同性の。

彼女に彼氏が出来た。

それからと言うもの、彼女にとっての一番は彼氏になり、私は二番になった。

親友の幸せは心から素直に嬉しいと思う。

例えば、約束が反古になったとしても、許してあげる。

だけどやっぱりストレスは溜まる。

だから彼を呼び出して、愚痴を聞いてもらった。

彼は黙ってうなづいてくれる。意見を求めれば応えてくれる。

その関係に居心地の良さを感じ、親友と過ごしていた時間のほとんどを彼と過ごすようになった。

思えば彼に、良くない顔ばかりを見せていた気がする。

だけど彼は笑って、話を聴いてくれた。

時には注意してくれる事もあったし、疎遠になっても親友を大事にしろと窘めてくれる事もあった。

そんな時間を長く過ごしているうちに、久しぶりに親友と会う機会があった。

会うなり、色々と謝られた。

「なんかさ、自分勝手な話なんだけど。心許せる人についつい甘えちゃうんだよね。」



「・・・!」

唐突に、彼の顔が浮かんで、笑ってしまった。

「ちょっと、笑うこと無いでしょ?」

怒る親友に一言。

「そうじゃなくてね?」

気持ちを整える。

「今なら・・・その気持ちわかるよ。」





「今日は愚痴らないのか?」

彼が笑う。

「たまにはそんな日があってもいいじゃない。」

「たまにはってw」

立ち止まり、見上げていた顔を彼に向けて深呼吸。



「好き。」



「へ?」



「大好き。」



「・・・。」



「あなたのことが、大好きです。」



桜舞い散る、春の宵。
「ええ。言ってしまえば公務員みたいなもので。
国から金が出ているわけですよ。
いやらしい話をするとね。

最初は、北極、南極、赤道直下の国々に出向いて、叫ぶわけです。
最初はそんな感じで、色々回っていたんですけどね。
日本の世界地図なんて海が真ん中だったりして。
大変でしたよ。海のど真ん中で叫ぶのは。

例の映画が公開された時なんてね。
それに合わせて行かなきゃいけないわけですよ。
余計な事してくれたもんだなと思いましたけどね。
これも職務ですから全うしますよ。

あれ?ここは明らかに中心じゃないだろうって所も行くんですけど。
後で気付いたんですけどね。それぞれの国の地図の中心なんて
様々なわけじゃないですか。だから中心・・・になる所は全部回るわけです。
そして、いつものように、叫ぶ。バカらしいですけど、それが仕事ですから。

観光?そんなものしてる暇無いですよ。基本直行直帰。
寄り道無しですよ。仕事ですから。怒られます。
動画で、自分のスマホと三脚とで撮影を残さなきゃならなくてね。
その動画を、出来るだけ早く依頼主に確認してもらわなきゃいけないわけです。

もし中心じゃなかったらどうするかって?おわかりでしょう。
やり直しですよ。徹夜で元来た航路を戻らなきゃいけない。
それでも失敗したのは最初の一回だけですよ。あれは辛かった。
報酬も当然減額になるんでね。みすみす命を削るよりは、
何度確認しても正確にこなした方が無難なんです。

出会いですか?色々な人に出会いますよ。道を聞いたりする時もあるんで。
そういう意味では出会い満載ですよね。でもどんなに好みの人に出会っても、
どんなに素敵な場所を見つけても、寄り道は厳禁ですからね。
辛い仕事ですよ。興味本位では出来ない。意地でも全うする
プロ意識が必要になってくる。冗談みたいな仕事ですけど、大変です。

まあでも、オフの時にまた出向いてみようかな・・・なんて気持ちにはなりますけどね。
強制的に世界中を回らなきゃいけないんで、オフの時ぐらい家でゆっくりしたい。
そんな気持ちの方がどうしても強くなってしまいまして。家でゴロゴロする事が
ほとんどですね。引きこもりですよ。身体を休めるのも大切ですからね。

叫ぶのも全力じゃなければいけないので、体調には万全を期して臨みます。
実はですね、今日もここに叫ぶ為に来たんですよ。丁度いいからって。
中心じゃない所なんて無いんじゃないですかね?

どうやって叫ぶのかお見せしましょうか?行きますよ。」

深呼吸。

「LO~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~VE!!」
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