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何もかもが信じられなくなってしまった。



長年行動を共にした友達に裏切られ、愛を誓った精神を病んだパートナーに
職を失いそうになりながらも、自分の限界以上のサポートを、
愛情を注いでもそれが届く事は叶わず、結局は何も変わらないまま
相手に対する愛情の一切を失う事になり、相手の要望で別れた。

ふらふらと死ぬ気が無いのに駅のホームで電車に引き込まれそうに
なった感覚を味わった事があるだろうか。死にたくなくても自殺しそうになる、
実はそのぐらい苦しくて悲しくて何ら手の打ちようの無い状態に成ることもあるのだ。

精神科医ってのは、少なくとも日本では適当な医者が多い。
治せないなら医師を名乗るな。免許を与える国もどうかしている。
薬によって何千万人もの人間が苦しみの連鎖に引きずり込まれている。

全てが終わった時、どうでも良くなってしまった。いつ死んでも良いと思ったし、
他人のことが考えられなくなった自分には誰かを思いやる事なんて出来るはずも無く、
去っていった友達もいた。自業自得と言えばそうだろう。だけどそんな事は
どうでも良かったのだ。何もかもが色褪せて、何の魅力も感じなくなってしまっていた。

良くある話だと思った諸君は、得てして幸せな人生を送れていると思う。
是非そのまま生きていって欲しいと願う。何故ならこれほどの思いを諸君らに
欠片も味わって欲しいとは思わないからだ。他人の不幸を願う人間は、
そういう思いをしたことが無いのだから、非常に幸せだと思う。
限界を超えてしまうと、他人の不幸なんて冗談でも願えなくなるのだ。





どうしようもない先輩が金を借りに来た。もう裏切られたくない自分は、
飯を奢り、金を渡した。それは何の解決にもならない少ない金だったが、
腹が立ちつつも、困っている人間が頼って来てくれたことが少しだけ嬉しかった。
こんな感情が自分にも残っていたのかと、少し自嘲した。笑えたのだ。

その先輩が転がり込んで来て居候する事になった。仕事を見つけない先輩を
本気で叱る事も何度もあった。実際最後は激怒して追い出すのだけれど。
後でちゃんと仕事を探して来た先輩と、今では仲良くやっている。

生涯愛するであろう女性にあった。これが最後なんじゃ無いかな、
と思うほどこんな素敵な人に巡り合えたのは奇跡でしか無かった。

週末になると、何時間も掛けて会いに行った。雪国なのに大雪で
何度も電車が止まっても、会いに行った。それだけ最高の相手だったのだ。

もしかしたら今までの事はこの人に会う為の練習だったんじゃないかと思った。
結婚を申し込んだ。しかし異国の空から届けられた夢である彼女は、
祖国に帰らなければならなかった。こちらに来てくれた彼女を送った
夜中の帰り道で泣いた。号泣した。自分にもまだ涙が残っていたのかと驚いた。

紆余曲折を経て彼女は共に同じ道を歩んでいる。私は本当に幸せだ。
最後に本当の幸せをくれた。辛い時期を支えてくれた家族にも、感謝したい。
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あめあめ ふれふれ かあさんが
じゃのめで おむかい うれしいな
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン



私が教えたわけでも無いのに嬉しそうに飛び回る子供たち。
とは言っても蛇の目傘なんて持っているわけも無く、
土砂降りの中でカッパを着て遊んでいるだけだが。

洗濯するのがやりがいを感じるぐらい、足元の水溜りに
踏み入れて跳ね回り、見事に泥だらけだ。

しかしながらいつもは口うるさく注意する私も、
水溜りに関しては怒る事が出来ない。
それはそれは遠い昔の話。
憧れのあの人と出会ったきっかけになった話。





その日私は新しい傘を買ってもらった。
物心がつく前から何故か雨が大好きだった私は、
それを教えてくれたはずの両親が不思議がるぐらいに
本当に雨が降れば降るほど上機嫌になるのだった。

今でも雨が降ると嬉しくなる。あまり風が吹いてないほうが嬉しい。
純粋に雨だけが降りしきる一日は、家でじっとしてなんていられない。
長靴を履いてショッピングに出かけるほどの筋金入りの雨フリーク。
しかも雨の日は意外とセールやら割引やらで得な買い物が出来る。

そんな私もその日は、新しい真っ赤なワンピースを着て
同じく赤い長靴でオシャレして、楽しく雨の中を散歩していた。

その辺がまだ子供だった。はしゃぎ過ぎた私は、
せっかく雨の日の為に買ってもらった赤いワンピースを、
滑って転んで泥だらけにしてしまったのだ。

脚を伸ばしてべったりと水溜りに座ってしまった私はとても悲しくなった。



「なにやってんだおまえ。」



後ろから声を上げたのはクラスメイト。あまり話をしたことが無いけど、
どこかかっこいいとみんなに言われていた。でもいつも一人だった。
声を掛けられた私は、知っている顔に安心したのか、声を上げて泣いた。



「しょうがねーな。ほら。」



子供ながらにドキッとしたのを覚えている。ひょいっとお姫様抱っこで
抱え上げられた私は、一度立たされてからおんぶしてもらった。



「おまえのいえ、しらないから。」



ぶっきらぼうにそう言われて、彼の家に連れて行ってもらった。
彼のお母さんに冷やかされながらも事情を淡々と説明して、
私の洋服を洗濯してもらい、お風呂も借りて、無言で彼とプリンを食べた。

後で両親とお礼に言ったりしたけど、
翌日からの彼は何事も無かったように無言。
でも私は彼を目で追うようになった。黙っているけど、
誰かが困ると黙って手を差し伸べてくれる。
そんな彼にぞっこんになった。





結婚した今でも、彼は黙って一生懸命働いて、甘えれば甘やかしてくれる。
辛い時には頭を撫でて慰めてくれる。放っておいて欲しい時には
距離を置いて傍にいてくれる。言葉を交わさなくても、彼の優しさは
私を何度惚れ直させた事だろう。そしてこれからも、子供たちが
育っていく今でも、毎日私は彼を惚れ直している。
私は今日、小旅行に出かける事にした。
憧れの文豪の足跡を辿るためだ。
もちろん既にその文豪はこの世にはいらっしゃらないし、
文献からしか彼の人生を窺い知る事は出来ない。

だけどね、恋は盲目。好きになってしまったのだから仕方が無い。
私は彼の人生を辿るべく、支度を済ませて、家を飛び出した。

彼が生まれたのは田舎も田舎、大自然にぽつんと家があるような所。
文豪と言うと貧乏かセレブか・・・両極端にあるイメージが個人的に
偏見として脳内にあるのだけれど、平々凡々とした彼に
(下世話ではあるけれど)好感を持てた。

彼の通った学校は廃校になっていた。彼はどんな夢を描き、
どんな恋をして、青春時代を過ごしたのだろうか。想いを馳せる。

彼の修行・・・と言うか文章の鍛錬をしていたアパートにも訪れた。
働きながら書き続けていたらしく、人並みの生活は出来ていたようだ。

彼は二度結婚して、離婚している。彼の著作にもその辺の所は
書いてあるのでここでは詳しい説明を省くけれど、恋をしている私にとって、
彼と別の女(ひと)が暮らしていた家を訪れるのは少し辛かった。

だけど、どうしても、彼の人生を辿りたくなったのだ。
私は彼と同じ人生を歩めなかった。だからこそ、後を辿り
同じ道を歩く事で、自己満足を満たそうとした。我ながら
それはストーカーにも似た異常な執着愛でもあったのだと思う。

晩年、彼は一人で過ごした。彼が住んでいた一軒家に訪れた。

彼は、寂しかったのだろうか。辛かったのだろうか。
それとも、一人で悠々と作品に没頭できる事が幸せだったのだろうか。
彼を想い、涙を流した。それが、どういう感情だったか、その時はわからなかった。

そして、今。彼に会いに行く。何故か鼓動が早くなる。嬉しい気持ちと
悲しい気持ちが入り混じる、自分でも説明出来ない気持ちに、いらだちを覚えた。

バスが目的の停留所に着く。はやる気持ちを抑える。もうすぐ彼に会える。
彼の為に花束と線香を買って、住職さんに彼の居場所を教えてもらった。



線香を上げる。彼の好物だった和菓子と、先ほど買った
花束を供えて、彼に手を合わせて挨拶をした。

「今日、あなたの人生を追体験して来ました。気持ち悪いと
思われるかもしれません。けれど、私はあなたへの恋慕を
止めることが出来なかったのです。お許し下さい。」



返事は返って来ない。



彼とはもう、永遠に会えないのだと思い知った。





こうして、私の初恋は失恋として終わりを告げた。
子供たちが見ている前で、行商の親父が舞台を用意。
指人形での会議が始まる。

「ああでもない、こうでもない。」

「それならこれはどうだ。」

「いやいやこんなのどうだ。」

「それは問題点が・・・。」

「それならこうしよう。」

クルクル変わる声色に子供たちは翻弄されて目を輝かせている。
どの指がしゃべるのも親父の口だ。テンポ良く掛け合うも、結局の所
コントのようで脳内を具現化しているに過ぎない。テンポが良くて当たり前なのだ。

しかしながら子供たちが存分に一緒に笑い転げたり、悩んだり。
感情移入する経験を得る事は無意味な事じゃない。
物語は全て一人芝居に近いものがあるが、別人格として
成り立たせるのはある意味職人芸とも言えるだろう。

そんな事を考えているうちに、指人形劇は終わった。
子供たちは満足したのか、笑顔で行商の親父に拍手を送る。
親父の表情はさながらコンサートを終えた指揮者のようだ。



ネット上での匿名自作自演のあまりにも見え透いた言動は、
同一人物であることを自分から暴露しているようなものだが、
それを利用して成りすます輩もいるからたちが悪い。

しかしながら突然の隠す気も無いようなバレバレのそれは、
見ていて爆笑を誘う。わざわざ私を笑わせる為に長い時間を
掛けて、もしくは激情の脊髄反射的に生み出された愚行なのだろうか。

人は何が欲しいのか。それはきっと賞賛なのだろう。
発表する以上何かしらの同意や共感や賛美を得たいのだと思う。

きっと自分の為に書いている私にも何処か、そういう所があるのだと思う。
しかしながらせっかくの自作自演がその全てを台無しにしているのを見ると、
これは自分の尊厳を掛けた壮大なギャグなのではないかと嘲笑する。

言い回しがどうしても我慢出来ないようなキャラクターは、愛すべきものがある。
物語の登場人物よりも何よりも、その人間自身が魅力的なのだ。

無知とは恥ではない。むしろひけらかすように自分を良く見せようと
する行為こそが愚行であり、ありのままを曝け出す姿にはどうしても勝てない。

名前を変えても中身は変わらないのだよと、切々と語ってやりたいぐらいだ。
カラン、とウイスキーに溶かされた氷が同意の泣き声を上げる。

しかしながらそれでもこの退屈を癒す酒の肴は存在するだけでいとおしい。
金もいくらあってもいいものだが、物語も文章も、いくらあってもいいものだと
昼間の指人形劇の行商の親父を思い出しながら感慨に耽るのだった。



春来。
「意味を考えても仕方が無い。自分の為生きているわけだし。」

何となく買ったペットボトルの烏龍茶を買って、一息つく。

この場所にやって来てずいぶん楽しませてもらった。
わけのわからないこだわりを持つものや変わり者もいて、楽しかった。

そろそろ旅立ちの時なのかもしれない。
所詮は井の中の蛙、一喜一憂する人たちには申し訳無いが、
この狭い場所でどうこう騒いだ所で自己満足、たかが知れている。

またこの場所にもどって来る事もあるだろうけど、
誰にも知らせず、たまにマイペースでいい。

どう足掻いた所で、私も、この場所に住む人々も凡人なのだ。
とても居心地の良い毎日を過ごさせてもらった。執着する必要は無い。
廃れてしまえばそこはそれ、運命と言うものなのだろう。

いつか戻って来た時に、栄えているか、廃れているかはわからない。
故郷がひとつ増えたのだと、特に感傷的になる事も無く振り返る。

出来る限り楽しんで、それでやりたい事はやって来た。
外野がうるさかったりもしたのかもしれないが、知らぬが花。
自分の為に動いているのに他人の評価を気にしても仕方が無い。

予定調和になってしまって、色々自分で試してみたけれど。
決して満足したわけでも、ここを見下している訳でもない。

ただ、ただ飽きた。同じ事の繰り返しをしても何の意味も持たないから。
あくまでも個人的主観ぶっちぎりの意見ではあるけどね。

また新しいものを求めて、流れさすらう。自分の血となり肉となり、
掛け合わせて、新しいものへと昇華していく。こだわるのもいいけれど
今はもう少し外の世界が見たくなったのだ。ただただ、自分の為だけに。

旅立ちは誰に断るでもなく一人でいい。別に馴れ合いでも無ければ
孤独でも無かった。そこにすれ違う人々がいただけだ。

「ありがとう。さようなら。」

何度この言葉を口にしただろう。消滅してしまった場所もあった。
今も残っていて、帰郷するかのように覗きに戻る事もある。
初めての場所は、とっくの昔に無くなってしまったな。

時代は移り変わり、人々の好みや流行りも移り変わっていく。
永遠なんてものが無いのだから、気まぐれに流れて行こう。

さらばこの地よ。願わくばくだらない快感に捉われず、
好きだからと言う一点のみで賑わう人々であることを願おう。

島国だからこその、区切りを見つけて。
さあ、帆を立てて新しい海原へと突き進もう。
また会おう親愛なる住民たちよ。
いつの日も変わらず元気でいる事を願う。
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