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完全フィクション
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ぬめりとした空気が部屋の中を満たし、まるで沼の底にでもいるかのような気分にさせる。なんて書き出しの漫画だか小説があったような気がしたが、そんな事は別にどうでも良かった。

自分自身は動いていないのに、正気のままぐるぐると部屋を回っているような感覚に、

「あ、眩暈でも起こしているのだろうか」と

自分自身の頭の中を心配しているような、そうでも無いような。

録音したばかりの新曲を再生すれば、あっと言う間に異空間出来上がりだ。胃に来る重低音と、眠気を誘う繰り返しが心地良くすら感じる。

持ち上げられるのは好きじゃ無いが、目立たず、わかる奴にだけわかれば良いと開き直って自分自身の好きな音楽だけを突き詰めて行くと、いつの間にか宣伝もしていないのに、二酸化炭素が何もしなくても存在しているかのようにファンやフォロワーが湧いて出て来ていた。

まだ一度も音源を出した事も無ければLIVEをしたことも無い。どこから漏れたのかを考えるとうすら寒い気分になるが、生と死すらもどうでも良くなった自分にとっては他人なんて虫けらのようにどうでもいい存在だった。

ただ、自分が良いと思う物だけを創り続ければいいだけなのだ。他人なんて関係も無く、評価もいらない。だけれども、共感出来る者たちが、何かしらの感動を経て、辿り着いてしまったようなのだ。

気が付けばうるさい何かが多数まとわりつくようになったが、俺の人生には関係無かった。思いがけない頭痛に何もする気が起きなくなったりもしたけれど、この部屋の空気はいつだって変わらない。私の領域は何者にも侵される事は無かった。

毎日毎日、同じことの繰り返し。それは私の音楽の嗜好を現しているかのごとく…それはもしかしたら人によっては退屈な時間なのかもしれないが…心地良い絶妙なバランスを私の人生に創り出していたのだ。

それだけで私の空虚な心は満たされる。もっと言えばたったそれだけで私は幸せなのだ。こんな安くて簡単な人生があろうか。誰に迷惑を掛ける訳でも無い、ただの自己満足で完結出来る人生だ。

他人にとっては本当に屑ほどの欠片も意味を見出せないだろう。それもそのはず。私にとっても私以外の、もっと言えば私が生み出す音楽以外は何の意味も持たず、それ以外は生き延びる事しか考えていないのだから。

最近はそれすらも億劫になって来た。全てを終わらせても良いぐらいだと考えている。

私の、私自身による、私の為だけの空間で。
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ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

たまに転んでみたり、水たまりに脚を踏み入れてしまったり。

見た目はとても美味しそうな林檎。時には一緒に転がり落ちる。

坂道はどこまでも続いていて、でもその先に地獄が待ち受けていると言う危険も無く。

この先には車道なんてものもなかったはずだ。

もしそういったものがあったとしても、追いかけるのを止めただろうか。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

酸いか甘いか。食べてみなければわからないのに。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

ああ、もう少しで平地が見える。あそこで拾って食べてしまおう。

ころころころころ。林檎が転がって行く。坂道を下り、走って追いかける。

平地で止まり、拾い上げる。

迷わず拭いて、ひとかじり。

甘い。でも美味い。甘すぎると言う事も無く、自分にとって絶妙の味だった。

ふと空を見上げれば、それはこれ以上無く晴れていて。

確か昨日は大雨だったような気がするが、口の中に広がった林檎の味と

雲一つ無いその空の青さに、そんなことは忘れてしまった。

そういえば、随分下まで来てしまったのだな。

元の場所まで戻らねばならない。

今度は坂道をしっかりと踏みしめて、一歩一歩歩き始める。





しばらく歩いて、ふと下ばかり見ていたことに気付く。

元いた場所のさらに向こうに、大きな林檎の樹が生えていた事に気が付いた。

その堂々たる佇まい。何のことは無い。自分が口にした林檎は一部でしかなく、

その素晴らしい全容は圧倒されるほどの魅力を持ちながらも、

押し付ける事も無くそこにただ存在しているだけで笑みを禁じ得なかった。





触れている部分はいつだってたった一部で、全てを見るには時間が掛かったり

深く踏み入れたり、自分から知ろうとしなければわからない事も多い。

誰にだってあの林檎の樹の様な魅力を携えている可能性があるのだ。

もちろんそれが誰しもに危害を加えるような危険性を持ち合わせている

可能性も否めないのだけれど。

判断するには、自分の感性を信じるしか無い。

それが見誤ったとしても、自分の五感で感じたものの答えなら、

誰に責任を押し付ける術も無く納得するしか無い。

その結果どうなるかも、その後の判断と自分の行動に任せればいいだけの事。




風にざわめく葉の歌声を聴きながら、温かい気持ちで林檎の樹を眺め続けた。

林檎の芯を手に。
「夢か現か幻か。よってらっしゃい見てらっしゃい。妖怪たちの大行進だ。」

普段車や人が通る大通りに、見た事の無い…いや、もしかしたら人々が古から見ていたかもしれない異形の群れが列を為していた。

見物人は次々と増えて行く。たったひとつの目的地へと赴く異形の群れに、人々は何を思っただろうか。

実は人間も、同じようなパレードの中にいる事にお気付きだろうか。『死』と言うたった一つのゴールに向かって、十人十色、様々な手段、方法、道筋を辿ってただゴールへと突き進む。人類が誕生してから例外は無い。その百鬼夜行の群れから外れる事などまずありえないのだ。

妖怪どもと一緒にするなと憤慨される方もいらっしゃるかもしれないが、同じ種族と言うだけで、肌の色も違えば血の種類も違う。姿形など統一性は無い。中身を見ても趣味趣向それぞれがてんでバラバラ、お互いを見れば異形そのものでは無いだろうか。

強い共通観念から、同種である事を認識してはいるものの、それでは何故人々は殺し合い、または憎み合い、いがみ合うのだろうか。同族嫌悪などと言う言葉はあるが、その芯は自分とは違う異形に対する嫌悪に過ぎないのだ。ちょっとした違いが許せないのだ。それは本来どうでも良い事であるはずなのに。

地球全体、そして自然を蝕む人間こそが異形と認識されても仕方が無い事なのだ。それは人間の中からも

「一度人間は全て滅びた方が良い。」

なんて意見が出る事からも、それを物語っている。

しかしながら平和に暮らす凡人の大半は、滅びるわけにはいかない。地球上の百鬼夜行と成り果てても、種を残す為に、大事な人々を守るために、それぞれが働き、戦い、少しづつでも、這ってでも前へと進む。それは既に異形では無く、理解出来るものからすれば美しくもあり、はかなくもある。

そう考えれば妖怪だからなんだと言うのだ。人々に驚きを与えてくれる百鬼夜行は、決して異形などでは無い。むしろ人生そのものを鏡のように写しているのでは無いか。

しかしながら、それはまるで生き急ぐ事を選択した人間のように、魂を奪われて天に召されても、自分の選択、自己責任である。他力本願、責任転嫁などとんでもない。あなたの人生は、あなたしか生きられないのだから。

今日も今日とて進めや進め、百鬼夜行。魂奪うか、好奇の目に晒され喜んでいるのか。笑い声すらこだまする。諸行無常は承知の上。いざ進まん、生まれながらの死出の旅。南無。
「力尽きるまで走り続けますよ、俺は。」

そう言った彼は、何故か今回私と同じ車、同じ装備でこの砂漠のカーレースに参加していた。私も彼も常連ではあるが、イマイチ彼の選択は不可解だった。私にとって最良なものでも、彼にとって最良とは限らないのに。

そして彼の発言も不可解だった。もちろん走り続ける事でトップに躍り出る事は可能だろう。一時的に。しかしまずマイペースを崩さない事がこのレースの定石だし、何よりも彼は誰と戦っているのかが理解出来ない。

例えば彼が私を敵視しての事と仮説を立てたとしよう。私は何も感じない。それはただの愚行であり、トレースであり…何よりも何の意味も持たない事は誰の目から見ても火を見るよりも明らかだった。

彼が無味乾燥な無意味な時間を、労力を費やしてまで浪費しない事を祈るのみだ。何かしらの意味を見出しての事なら、まだ説明が付くのかもしれないが。

このレースは『暗闇のラリー』と呼ばれている。夜になれば灯りひとつ無い氷点下の中で眠らなければならないからか?いや、それは違う。日中炎天下の中走り続けて進む事の方が多いだろう。ならば、何故そう言われているのか。

それは、全て自分との戦いだからだ。車には、ガソリンの消費も計算に入れつつ、燃料も少量も飲料も積みながら、スタート地点では皆同じ場所から顔を合わせて出発するものの、それぞれのルートで、下手をすればどこにゴールがあるのかわからなくなるような、相手の見えない持久戦だからだ。

体力の消耗や限界を感じて中断する選択も重要になってくる。ともすればゴールをどこにするかも、自分自身の決断によって変わって来るのだ。

プランを立てる時に、何を目指すのかが重要になってくる。まず人真似なんて自殺行為はしない。そこに意味を見出す場合以外は。それぞれの目的も違えば手段ももちろん違う。千差万別のレース。だがそれは一人で走っているのと変わりない。

もう既に私の目には当然の如く彼は見えない。彼からも、誰一人見えないだろう。いつ休んで、いつ走っているかすらわからないのだ。

このレースに参加するものは、早く着く事や、勝ち負けを目的にするようなチープな戦いを求めているのではない。それが目的なら舗装された道路で、安全に守られたルールの中で純粋に競うべきだろう。本来、参加すること自体が馬鹿馬鹿しいのだから、それなりの基本を守らなければ、自滅するだけだ。

私は彼の無事を祈った。
「大丈夫?最近眠れてないんじゃない?」

「ん?いやあ、ちゃんと眠れてるよ。寝過ぎなぐらい。」

ぼーっと考え事をしていたせいか、同僚の女の子に心配されてしまった。

「そうなの?…何か悩み事でも?」

「いやいや、至って元気だよ。」

「そう…ならいいんだけど。あなた、少しやつれてる気がするから。…もし良かったら、気晴らしに今晩どう?」

「遠慮しとく。これでも下戸なんだ。すぐに眠ってしまうよ。」

それが狙いだったんだけど…同僚はその言葉を飲み込んだ。

「無理しないでね。あなた、仕事はきちんとこなしてるんだから。」

「ご忠告ありがとう。」

僕は嘘を吐いていない。最近自分でも驚くほどに良く眠れている。ただ…ずっと気になってる女の子がいる。どこの誰かもわからない、記憶の片隅にふとよぎる女の子。理想よりも化粧が厚い気がするが、体型も、顔も。いつかどこかで会ったような親近感を覚える。ただ、記憶によぎるだけでいつどこでお会いしたか覚えていない。もしかしたら夢かもしれない。

同僚の彼女が言う通り、自分で思ってるよりも疲れてるのかもしれないな。特に趣味も無く、家と職場の往復だから。中性的な体型と見た目のせいか、同性異性問わず心配してくれる仲間がいるのはありがたい事だ。心配掛けないようにちゃんと休まなきゃな。

ひと欠伸をして、仕事に戻った。





「ちょっとアンタ、最近疲れてるんじゃないの?」

いつも通りBarに出勤して来ると、ママに心配されてしまった。

「そんな事無いよ。昼間ずっと寝てるし。」

「そう?なら良いんだけど。良い男でも出来たのかと思った。アンタなかなかだから。」

「冗談w仕事だけで精いっぱいよw婿でも欲しいぐらい。」

「あんまり無理しないでね。身体が資本。休みが欲しければあげるわよ?」

「戦力外通告受ける程、サボっちゃいないつもりだけど?」

「馬鹿。心配してんのよ。」

「…わかってる。ありがと。大丈夫。」

実は最近頭によぎるあの人。誰だかは思い出せないけど…どこかで見たような親近感がある。もしかしたら…あたしの妄想かも知れない。だけど最近あの人が頭から離れない。正直に言うと、私はあの人に恋している。会いたい。でもどこの誰だかわからない。フッと、自嘲気味に苦笑すると

「なんか馬鹿みたいね、私。」

夜勤が続いているのが祟っているのかな。水商売、天職だと思うんだけど。今日も帰ってぐっすり寝る事にしよう。





オセロの石のような、表裏一体の恋。
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