忍者ブログ
完全フィクション
[42]  [41]  [40]  [39]  [38]  [37]  [36]  [35]  [34]  [33]  [32
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

社長が突然亡くなった。

そこそこの規模である、ウチの会社を引っ張ってきた社長の経営手腕は、
同業者の別会社の社長からも評価されていた。
それだけに、突然の訃報でありながらも、葬儀にはたくさんの人たちが訪れた。

僕はただの平社員だったが、下っ端から見ても社長は凄いヤリ手だな、と思っていた。
当然僕も葬儀に参加した。皆口々に「惜しい人を亡くした」とつぶやき、
それが嘘でないことは一様にして読み取れた。

・・・しかし、ちょっとした違和感に気付いた。

訪れている人は、皆悲しんではいるのだが、泣いていない。
もちろん、僕もだ。家族ですら涙を浮かべはしているものの、
何だか冷静ですらあった。奥さんも同様だ。

「おじさんの会社の人ですか?」

1人の青年が話しかけてきた。・・・知らない顔だ。おじさん?社長の甥なのか?

「あ、いきなりビックリしますよね。すいません。
僕はおじさん・・・亡くなった社長の息子のいとこです。」

「ああ・・・このたびはどうも、惜しい方を亡くされて・・・。」

「会社の方ですか?」

「ええ。」

「不思議に思っていたでしょう?今。葬儀にしては皆が悲しんでいないな、と。」

・・・なんだ?心でも読めるのか?
驚いて呆気に取られていると、青年は言葉を続けた。

「伯父は、誰に対しても自分を優位に持っていこうとする人でした。
ここに参列している人の半分以上は・・・いや、もっとかな。
伯父を尊敬していながらも、常に自分を優位に持っていこうとし、
人を見下したような態度に嫌悪を示していたと思います・・・。」

青年は、葬儀を見つめながら言葉を続ける。

「その蓄積が、この葬儀の違和感の答えだと思いますよ。」

反論するつもりはなかった。家族のほうがはるかに僕よりも身近に接しているだろうし、
社長であるからには、そういった威厳と言うのも必要になってくるだろう。
事実、その社長の態度を疎んでいた人間は少なくはないはずだ・・・それが、家族であっても。

「別に伯父が間違っていたというつもりではありません。
ただ、伯父の態度からこういった状況を生み出しているとしたら、
本人が原因とはいえ、寂しいですね。誰に対しても優位に立とうとしていましたから・・・
それが自分の会社をここまで大きくしたんでしょうけど。」

言葉がなかった。僕も別に社長が嫌いなわけではない。
かといって、甥である彼の言葉を遮ったり、否定したりする理由が見つからなかった。

「そんなことを考えると、天はそう簡単に二物を与えないんだなぁと思いましたよ。」

そう、誰ともなく苦笑する彼の言葉は、葬儀中の夜空に消えていった。
PR
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
リンク
最新コメント
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
耕助
年齢:
37
性別:
男性
誕生日:
1987/01/14
職業:
フリーター
趣味:
音楽鑑賞
自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]