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完全フィクション
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僕が歌うと、彼女はピアノを奏でた。

彼女のピアノの音は青く透き通っていて・・・・。
『限りなく透明に近いブルー』なんて作品があったな。

ピアノの鍵盤を滑らかに滑る彼女の指がとても美しく。
見ているだけで呆けてしまう僕を見て彼女が微笑む。
そうだ、歌うのを忘れてた。歌を再び歌い始める。

ピアノと歌でもセッションなんて出来るのかなぁ。
そんな彼女の一言でセッションを始めた。

前にバンド組んでいたギタリストや
デスメタルをやっていたドラマーの先輩と
セッションをかましたこともあったので
比較的スムーズに楽しむことが出来た。

前は良く20歳も上のおじさん達とベロンベロンに
なりながらスタジオセッションしたものだ。

でも今回はそんな酒臭いものでもなくて
ごくごく自然に音を通わせている。
彼女とは心を通わせてないからと
自嘲しながら歌声を虚空へ解き放つ。

なんだろうね。これはSEXより気持ちいいかもしれない。
あまり笑うことない彼女が楽しいそうだ。

セッションこそ本当のSEXなのかもしれないな。
不謹慎ながらもそう思った。
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なんでこんなことしているんだろう。

無免許で何故か単車を走らせている。
Zepherの乗り心地は思っていたより良かった。

アスファルトをタイヤで切り裂きながら夜の街を走る。
メットをかぶるのももどかしく、当て所もなく走り続けた。
身体にぶち当たってくる冷たい風が心地いい。
嫌なことを全て忘れさせてくれるような感覚。
このまま吹っ飛んでしまえばどんなに楽だろう。

曲がり角で出会い頭にトラックと衝突した。
宙に舞う。景色がスローモーションになる。
身体に衝撃が走る。方向がわからない。
こすれた部分が熱い。肉まで削ぎ取られたか。
どこかへ転がり落ちていく。崖か?

ー大きな樹に後頭部をぶつけて、意識を失った。

気がついたら敗れたガードレールの前にいた。
アスファルトには明らかにタイヤのこすれた跡や
血痕があちこちに残っていた。そして・・・・・

ガードレールの前に供えられた花。

そうか。思い通りになったんだな。
いや、本当に思い通りだったかどうかもわからない。
俺の命が消えた。ただ、それだけが事実。
誰にも俺の考えなんてわからないだろう。

もちろん、俺自身にも。
虚空を見つめて、今日も彼は黙っていた。
彼の世界はきっとものすごく狭く、内面的にものすごく広い。
そんな彼を毎日通勤時に見て、帰路に着く時には姿はない。

いつもマルメンライトの匂いを振りまいて。
特に何を訴えるわけでもなく、ただそこにいる。

服装は特に汚れてるわけでもなく、
同じものを着ているわけでもない。

いつか見た彼の昔の世界を見つめているのか。
普段味わえない幸せを夢見ているのか。
腐りゆく世界情勢を嘆いているのか。
恋する女を思い、その姿を思い浮かべているのか。

言葉を交わさない俺にはわからない。
何か声をかけようかと思ったときもあったが、
いつも目の前を歩いていても目が合うことすらない。

いや、一度だけ目が合ったことがあったが
彼はかぶりを振って、目を閉じて微笑むだけだった。

彼と人生が交わることはないだろうが、
彼が立ち去らない限り、この街で毎朝
煙草をふかす彼の姿を見かけるだろう。

ビルの谷間の、汚れきったこの街で。
 この森を進んでいくと、大きく開ける場所があって。
その奥にある木陰で今日も彼女は読書をしている。

「こんにちは」

「こんにちは」

「今日は暑いですね」

「そうですね」

彼女は無表情に、こちらを向くこともなく本を読みながら言葉を交わす。
彼女の横顔は、物静かで、美しい。だけど彼女にとってはどうでもいいことのようだ。

「その本面白いですか」

「普通ですね」

「どこかに行きたくないですか?」

「海外に行きたいですね」

「いや、今」

「ああ、別に」

もちろんこちらとしては彼女と同じ空間にいるだけで嬉しいし、話をしているだけでも楽しい。しかし彼女の心の動きが見たいが為に、言葉を駆使して動揺を誘う。しかしながらいつも動揺しているのは自分の方で、彼女は全く動じない。

「君に触れたくなる」

素直な言葉を口にする。

「だめです」

空気が少し強張った。

何を考えているのかもわからないし、たまによくわからない言動をちらつかせて、見事にこちらの方が悩まされる羽目になる。しかしながら頑なな彼女の態度や、素っ気無い対応、口数少ない返事がまた心地良い。

彼女はまるで森の妖精のように見えるのだが、本人は腹黒いつもりのようだ。実際どうなのかは俺には想像もつかないが。

仕事の電話が入る。彼女との話を中断されたくはないのだが、仕方がない。彼女を待たせる。

申し訳ないのだけれど、なかなかこの場を立ち去ることも出来ず、彼女と空間を共有したいというワガママで、長い時間ここにいてしまう。

「さて、もう帰らないと。」

彼女が家路に着く。

「またお会いしましょう。」

愛を伝えたくても、あまり言葉で表して欲しくない彼女に釘を刺されてしまったため、ただ一言、別れの挨拶を告げた。
誰も本当の僕の底を見ることはない。
いつも箱庭で育てている。たくさんの自分を。
だけど誰もそれを見ることはないだろう。
俺の内面で育つものなんて興味がないから。

だけど毎日健やかにすくすく育つ。
それを自己満足で一生懸命育てる。
趣味や能力や公私共に大きくなる。

もし僕の箱庭を覗いてひとつひとつ
愛でるように興味深く見つめる人がいたなら
その人とはうまくやっていけるのかもしれない。

受け入れる作業を中心にしてきたせいで
たくさんの自分が外に出ることはなくなってしまった。
でもそれでもいいじゃないか。日々たくさんの自分が
箱庭の中で確立していく。自己の存在証明。
そこに本当の自分がいるのだから。

また居場所を探して増やそう。居心地のいい世界。
無防備に眠ることの出来るような、甘美な日常を。
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耕助
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37
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男性
誕生日:
1987/01/14
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フリーター
趣味:
音楽鑑賞
自己紹介:
夢人に付き合わされた哀れな若輩者
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