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「玄関を開けると、そこは辺り一面銀世界でした。」

そう呟いては見たものの、この大雪。スマホからは繰り返しJRの運休状況が鳴り響いている。

一応職場に電話を掛けてみた所、来れない人間も多いのでとりあえずは実質休業状態。
車も混雑して進まないこの状況、上司の許可をもらって有給を取る事にした。

とりあえず食い物でも買出しに行くかと思ってコンビニ、スーパーを回ってみるも
大雪の影響でどうやら野菜が足りなくなっている模様。肉魚ばかりを
食べるような若さは持ち合わせていないので、申し訳ない程度の
キャベツを買って、千切り炒めにでもして食べるかと妥協案を巡らせる。

家に帰って来て早速腹ごしらえ。

皿洗いを済ませて、なかなか平日昼間に家に居ることなんて無いから、
何をしていいのかもわからない。テレビをつけて、退屈に任せてチャンネル
回して番組表を眺めるも、興味がありそうなものはやってない。

仕方無いので雪の景色でも眺めることにした。

窓を開けると日差しと冷たい風が入って来るが、腹ごしらえしたせいか
暖房で眠くなるほど身体が暖まり過ぎていたせいか、心地良く感じる。



その時。



目の前にカボチャランタンが現れた。

いや、それは正確な表現じゃないな・・・。ドラクエみたいだなと思いつつも、
あまりにも非現実的な光景に、ガラにも無く目を擦り、ほっぺたをつねってみる。

「・・・うむ。どうやら夢では無いらしい。」

カボチャで作られた被り物を被って、マントを着けた姿は、正にジャックそのもの。
しかしどうやら身体つきからして、中の人は女性のようだ。何故、今その格好?
歳も明けて立春とは名ばかりの寒さが続いておりますがと挨拶したくなる時節。

すると近所のおばさんが羽交い絞めにするかのように彼女を引き止める。

「止めないかい!気持ちはわかるけど、目を覚ましておくれ。」

そういえば、聴いた事がある。(テリーマンみたいだな。)

とても幸せな家庭を築いていた主婦が、自分の運転で事故を起こし、
家族全員が天に召されてしまった事。自分だけ助かった主婦は
罪悪感と後悔の波に押し潰され、頭がおかしくなってしまった事。
事故前に、家族全員が楽しみにしていたハロウィンパーティーの約束をしていた事。

彼女を止めているおばさんの口から直接聞いたんだっけな。
他人事ながら、自分そんな状況になったら同じようになるかもしれないなと、
見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と共に窓を閉めた。
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目が覚めたらマヨネーズになっていた。(容器込み、包装袋無し、ほぼ人間大。)

2ちゃんのコピペのようなセリフを思いついて言ってみようとしたが、口が無い。
じゃあしゃべれないじゃないかと思ったのだが

「あ・・・あー。あー。」

どういう仕組みになっているのかはたまたこれは夢なのか声は出る模様。
よくよく考えてみると2ちゃんの言葉を現実で言うとイタイと言われているのを
何となく思い出してやめておく。

「げ・・・現実?これが?はっ・・・。」

苦笑するも、自分で鏡で見ても、プラスティック容器に入ったクリーム色のゲルしか見えない。

なんだろうな。これってなんかの病気で、幻覚でも見ているのだろうか。

手は無いのでどうやら物は持てない。飛び跳ねれば歩く事は出来る。

「さて、どうしたものか・・・。」

幸い、齢25のひとりやもめで一人暮らしなので、考える時間を得た。

電話も掛けられないので仕事は無断欠勤と言う事になる。

何よりもこの姿で出歩いたら(飛び跳ね回ったら?)パニックを引き起こしかねない。

元々トラブルや人に迷惑を掛ける事が嫌いだったので
このまま外に出ると言う選択肢は有り得ない。

「大体この状態で生きてると言えるかどうかも怪しいもんだが・・・。」

中身が出たらどうなる?このままだと腐っちまうんじゃないか?
自分の身体が腐ると言うのは気持ちの良いものではない。
幸い、大雪が降るほどの寒さなので、当分は暖房さえ入れなければ
大丈夫そうではあるが・・・。大体リモコン使えないし・・・。

まともな人間らしい事がほとんど出来ないので思考だけは良く回る。
意外とちょっと動ける入院患者なんてこんな気持ちなんだろうか。
大体特に思い入れも好き嫌いも無いのに何でよりによってマヨネーズなんだ・・・。

頭・・・に当たる赤いフタだって、自分では取れそうに無い。
そういえば目は見えるけど目そのものは無いみたいだな。
せめて生き物だったら良かったな・・・とか思ったが
得意先の魚・・・なんだったかな・・・のスーツ姿を
思い出して、彼の悩みからやはり人間で無いとと頭で否定する。

「卵黄・・・と酢だったっけ。マヨネーズって。あと塩とか胡椒とか?
全く持って意味がわからん・・・。根拠が無さ過ぎる。」

自分が納得出来る理由を用意された所で、何も解決しないのだが。
改めて、人間である事の素晴らしさを痛感しながら、
身動きの取れない自分に呆然と立ち尽くすばかりだった。

残念無念もうごめん。
「ねえ、いつまでこんな関係続けるの?」

彼女は言った。

「嫌だったらやめれば良い。」

俺は応えた。

「お互い、特定の相手がいるわけじゃないから、寂しさを埋める為に肌を重ね合わせたんだろう?俺だっていつまでも続くと思っちゃいないさ。」

「・・・・・・。」

「特定の相手を俺にしたいってのかい?」

「・・・・・・まさか。」

お互い、微妙な空気の中、何かを確かめるように言葉を紡ぎ出す。それはまるで、離れてしまうかもしれない曖昧な関係を、このままの姿で続けられる事を望んでいるかのように。

「・・・・・・あなたの事、好きだけどね。」

「嬉しい事言ってくれるじゃないか。」

「・・・・・・こんな形じゃなければ、もしかしたら・・・・・・。」

「・・・・・・やめよう!辛気臭い話は。気持ち良いから、お互いが必要だから側にいる。それでいいじゃないか。」

わかってる。お互いがお互いにズルいと感じているのは。だけど、確かなものにしてしまった瞬間、それは脆くも崩れ去りそうな気がして・・・。

「・・・・・・そうね。私たちらしくないわ。」

まるで自分に言い聞かせるように。

お互いの本心を、隠すか納得させたいのかはわからない。

だけどそこには水のようにあやふやな、それでいて確かな絆があった。

いつ終わるかなんてわからない。どちらかに良い人が出来れば、終わってしまう関係。

いつもの行為を終えてから、お互いの顔を何度も見ながら。その視線が交わる事も無く。

意識的に逸らしていたのかもしれないが、タイミングが合う事は無い。

情事の際には、お互いをあんなにもまっすぐ、見つめる事が出来ると言うのに。

「・・・・・・また、したくなったら連絡をくれよ。」

「・・・・・・わかったわ。」

一度も振り返る事無く、俺は部屋を後にする。




「本当に・・・。」

こんな形じゃなければ。もっと形にこだわらずに。

「本当に・・・。」

私の涙がポタポタと落ちる。みっともない。でも溢れ出る涙を止める事が出来ない。

あなたの側にいるのに、心はうんと離れてる。

「・・・・・・それでもあなたの事、・・・・・・あい・・・・・・してるのよ・・・・・・。」

零れる涙は嗚咽となり、言葉さえも遮って私は泣いた。泣き叫んだ。

どうしたらいいのかわからないの。近づいたらあなたとの関係が壊れてしまいそうで。

もうダメなのかもしれない。耐えられない。私。我慢出来ない。

溢れ出す感情が、次にあなたに会う時に告白させる事を決意させた。
何を思ったか、砂漠横断なんて旅行を選んじまったせいで、ただいま、絶賛遭難中。
頼りの車は壊れるわ、水は尽きるわでとりあえず冷静ではいられない。

喉が渇く・・・。呼吸をするたびに喉が焼けるような暑さなのはどうにかならぬものか。
布で覆えば何とかなるとも思ったが、それでも気休め程度にしかならない気がする。
ボクサーが体重を絞る時は、最初に食べ物、次に飲み物、最後に水しか考えられなく
なると言う話があるが、まさに今それを実感していた。

「み・・・ず・・・。」

正直言って思考は良く回るけど、歩くのも寝るのも億劫だ。
これで夜は凍るような寒さになるのだからタチが悪い。
丁度良いと言う加減を知らんのかこのバカ砂漠は。

まあいいよ。暑くても寒くても。どちらにしろ何とか布で我慢できるぐらいにはなるから。
問題は水だよ。水!喉の渇きだけはどうにも耐えられない。かと言って
地団駄踏んで転げまわっても、暑くなるだけ、喉が渇くだけ。

絶望に近い諦観溢れる脳内は、段々と考える事すら億劫になって来た。
もう随分長くオアシスらしきものが見えていて、そちらを頼りに歩いているけど、
まさに神のいたずらか、あれが話に聞いた蜃気楼なのだろうな。

まるで夢でも見ているかのようにフラフラと水を夢見ながら、ひたすら歩く。
めんどくさくなって手荷物も全て捨てて来た。いつか同じように遭難する
人間や、通りすがった同士の誰かが役にでも立ててくれれば良い。

今は水だ。とにかく水が欲しい。他には何もいらない。水!水!水!

「み・・・ずぅ・・・。」

遂にバッタリ倒れてしまった。目もかすんでまともに見えない。
暑いけれどもうこのまま目を閉じてしまった方が楽になれる。
頭も痛くなっていたが、段々ぼーっとして来て良くわからなくなった。
もう、どうでも良いよ。こんな事をした自分がバカだった。最後に水が飲みたかった・・・。



おやすみなさい・・・。



ん?



何かが視界の端を横切った。



「な・・・んだ鳥・・・か・・・。」



あれ喰ったら美味いだろうな・・・それより水が欲しいけど。
生き物が見れただけでもよしとするか・・・。




・・・生き物?




「ま・・・さか!」




心なしか、オアシスが近く見える!

そこからは、全精力を振り絞って歩いた。
夢じゃない。オアシスだ!水!水!水!

どのぐらい時間が経ったのかわからない。
欲望のままに水をたらふく飲んで、吐いて、また飲んだ。
これからどうなるかわからないけど、とりあえず眠ろう。
ったく・・・どうしようもねーな。

なんだこれ。くだらねー。

馬鹿じゃねーの。見てらんない。

うわー良くこんなの公開して恥ずかしく無いね。

はははっワロス。

毎日毎日、キーボードを叩きながら、罵詈雑言を書き込むのが楽しかった。
自分では何も出来ないくせに、悪口を書く手間だけは怠らず、
まるで自分が批評家にでもなったような、そんな気分で。

もっと言えば、この誰もいない空間で人の反応がどんな形にせよ
返ってくるのが本当に嬉しかったから。もう何年も家族とすら話していない。
飯を喰い、排泄するだけの毎日。シャワーを浴びる事もあるが、湯船には入らない。

鏡も見ていないけれど、きっと病的な顔が映る事だろう。
ごくつぶしやにーと、引きこもりなんて言葉が頭を掠めるたびに、
自分でも抑えきれないぐらいの奇声を、ベッドの中で上げる。

俺は来るってしまったのかもしれない。何も生み出さず、消費していくだけ。
俺には才能も無い。根性も無い。努力が嫌い。最低の人間だ。
もしかしたら人間ですらない。ただのゴミだ。自分がそんな人間だから、
他人を貶すのに何の躊躇もしない。普通の人間なら思い留まるだろう。

ありがたい事に巨大掲示板では俺の同類が、どれだけいるのかはわからないが
同じ時間を過ごしてくれている。画面や電気信号を通してもそれが俺の唯一の
ぬくもり。人間だって脳からの電気信号で動いているんだ。機械と何ら変わらない。

たまにどうしようもなく虚しくなって、涙がボロボロと零れる事もある。
本当は生産的な人生を少しでも送ってる人達が本当に羨ましい。
俺もそんな風に生きてみたい。外に出る事すらなくなった俺は、
後はこの場所で死んでいくしか無いのか。嫌だ。もっと幸せになりたい。

何をトチ狂ったのか、暇だけはいくらでもある。何の気無しに片っ端から登録、
文章に、音楽に、画像に、動画に、色々なものを投稿し始めた。

最初は反応なんて無かった。こんなものかと舌打ちをして、
何も続かない俺はたったそれだけで全てを諦めてしまった。

同じ生活を続けて、数ヶ月が経ったある日。いつものように罵詈雑言を
掲示板に書き込んで、満足してから、ふと色々と登録していたのを思い出した。

どうせ感想なんて書いて無いだろと、半ば冷やかし気分でIDとパスワードを入力。
するとどうだろう。一件だけ、感想が書いてあった。

『面白かったです。』

面白かった?人を否定する事しか出来ない俺の作品が?










笑いながら泣いた。
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