完全フィクション
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殿方の視線が、私の肢体に降り注ぐ。
嫌だわ、私ったら少し興奮してしまっているのかも。
上気づいた表情を見せれば、場内も興奮の坩堝と化しているような幻想・・・?に捉われる。
私、渦の中心になってるんだわ。
「彼女の色っぽさは芸術的だね。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」
「マスター、彼女にチップを渡したいんだが。」
「それならばお客様のお近くへお呼び致しますので、彼女の衣裳の間に挿入下さい。」
マスターに呼ばれて殿方の元へ。衣裳と胸の間に札束が挟まれる。
「ダメです。感じてしまいます・・・。」
「あっはっは!それじゃあもう一束やろう。」
私への賞賛が札束になって降って来る。だけど本当に欲しいものはこれじゃないわ。
私たちは脱がない。あくまで美しさで勝負。オンナですもの。オンナを捨てたらオンナじゃなくなっちゃうから。
歌に踊りに、殿方を魅了する。色恋沙汰で失敗するのは二流の仕事。私は流されない。殿方の心を、歌と踊りと動きだけで満足させて見せるわ。
もっと、もっと拍手を頂戴。私にたくさんの賞賛の雨を降らせて。
私が恋してるのは、誰でも無く舞台の上の私にだけだから。
「彼女は本当に楽しそうに踊るわね。」
「仕事だと思ってないんじゃないかしら?」
「私たち嫌々ながらを隠しながらの二流とは違うのよ。」
「段違いよね。同じオンナでも見惚れちゃう。」
「あらダメよ。あの娘、色恋沙汰はしないって言ってたわ。」
「そんな事言って抜け駆けしようったってそうはいかないわよこの泥棒猫。」
そんな同性の言葉も、快感に一味。
それに私の仲間だもの。家族みたいなものだから、褒められたら素直に嬉しいと思うじゃない。
「ずっと、この場所にいたい。」
メイクを落としながら、一人呟いてみる。だけどわかってる。いつかは年齢も重ねて、肉体だって外見だって衰えて行くもの。永遠にこの場所になんていられるはずが無い。
だけど、どんなに見苦しくても、這いつくばっても、この場所にこだわり続けてやるわ。しがみついて妖怪のようだと言われても。プロ意識で少しでも長く居座ってやるんだから。
「私ったら居直り強盗みたいね。」
図々しい事この上無い自分の考えに苦笑する。
ああそうか。私、本当にこの場所が好きなんだ。
だから死んでもこの場所を離れたくない。
みんなと一緒に、歌って踊って上達していくの。
世界一のバーレスクを世界中に見せてやりたい。
誰に笑われても良いの。それが私の夢だから。
嫌だわ、私ったら少し興奮してしまっているのかも。
上気づいた表情を見せれば、場内も興奮の坩堝と化しているような幻想・・・?に捉われる。
私、渦の中心になってるんだわ。
「彼女の色っぽさは芸術的だね。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」
「マスター、彼女にチップを渡したいんだが。」
「それならばお客様のお近くへお呼び致しますので、彼女の衣裳の間に挿入下さい。」
マスターに呼ばれて殿方の元へ。衣裳と胸の間に札束が挟まれる。
「ダメです。感じてしまいます・・・。」
「あっはっは!それじゃあもう一束やろう。」
私への賞賛が札束になって降って来る。だけど本当に欲しいものはこれじゃないわ。
私たちは脱がない。あくまで美しさで勝負。オンナですもの。オンナを捨てたらオンナじゃなくなっちゃうから。
歌に踊りに、殿方を魅了する。色恋沙汰で失敗するのは二流の仕事。私は流されない。殿方の心を、歌と踊りと動きだけで満足させて見せるわ。
もっと、もっと拍手を頂戴。私にたくさんの賞賛の雨を降らせて。
私が恋してるのは、誰でも無く舞台の上の私にだけだから。
「彼女は本当に楽しそうに踊るわね。」
「仕事だと思ってないんじゃないかしら?」
「私たち嫌々ながらを隠しながらの二流とは違うのよ。」
「段違いよね。同じオンナでも見惚れちゃう。」
「あらダメよ。あの娘、色恋沙汰はしないって言ってたわ。」
「そんな事言って抜け駆けしようったってそうはいかないわよこの泥棒猫。」
そんな同性の言葉も、快感に一味。
それに私の仲間だもの。家族みたいなものだから、褒められたら素直に嬉しいと思うじゃない。
「ずっと、この場所にいたい。」
メイクを落としながら、一人呟いてみる。だけどわかってる。いつかは年齢も重ねて、肉体だって外見だって衰えて行くもの。永遠にこの場所になんていられるはずが無い。
だけど、どんなに見苦しくても、這いつくばっても、この場所にこだわり続けてやるわ。しがみついて妖怪のようだと言われても。プロ意識で少しでも長く居座ってやるんだから。
「私ったら居直り強盗みたいね。」
図々しい事この上無い自分の考えに苦笑する。
ああそうか。私、本当にこの場所が好きなんだ。
だから死んでもこの場所を離れたくない。
みんなと一緒に、歌って踊って上達していくの。
世界一のバーレスクを世界中に見せてやりたい。
誰に笑われても良いの。それが私の夢だから。
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いつも、居場所を探していた。
「私の本当の才能とか、向いてる、向いてないとか、そんなの自分じゃわかんないよ。
本当はね、私、自分に正直に。欲望も、欲求も、全て曝け出して生きていたい。
だけどそれはここじゃ出来ないみたい。
でもね、それってさ、制限がある中で工夫して新しい自分を生み出すチャンスかもしれないって思ったの。
だからね、いつもの自分とは違う、新しい道を歩く事にしたの。
着飾っても、媚びてでもいい。多少背伸びしても無理してても、それは新しく生み出された自分なんだって考える事にしたんだ。
それはもしかしたら、すごくカッコ悪くて、どうしようもないつまらない事かもしれない。
だけどね、私、失敗は成功の元だって、昔好きだった先生に教えてもらったの。
本当はね、全てを曝け出した私の裸をみんなに見て欲しいんだけど。
それはここではダメみたいだから。私、着飾って踊ってみる事にする。
滑稽でもいい。暇つぶしにでもしてよ。私の事なんて。
それでもあなたの何かを動かせたのなら、きっと私の勝ちなんだと思う。
負け続けるかもしれないけど・・・準備はいいかな。
私、これから風呂敷を広げるから。眺めても踏みつけても構わないよ。
あなたの好きにして。私の一部を視姦して。
あなたが外で遊び歩いて、気が向いたときにここに来てくれればいいから。
都合のいい女でいいから。私は、あなたが来てくれた時にいつでもここにいるわ。
あなたは忘れていても、私はここで待ってるから。
お願い。
一生に一度でいいから、ここで私の一部を抱いて欲しいの。」
『さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。夢見るウェンディ、時を追い掛けるアリス。
そんなものとは比べ物にならないただの売女の独り語りだよ!
お題は結構、いつでも無料。24時間営業と来たもんだ。
いつでも見に来て良いよ、チラシは街中にばら撒いた!
さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。』
「もしかしたら、私が女だからって馬鹿にしてる?
いいわ、せっかくだから、私、自分を偽ってあげる。
あなたに純粋に見て欲しいから、男の名前にしておくわ。
いえ、決して腐女子ってワケじゃあないのよ。
あなたの見えない所で、私だってわからない形で。
私が女だって気付いたら視姦して欲しいだけなんだから。
これは火遊び。私のワガママ。
さあ、私と言う名の物語が始まるわ。
時間と気持ちの許す限り、ごゆるりと楽しんで行ってね。
それじゃちょっと幕外に失礼。」
「私の本当の才能とか、向いてる、向いてないとか、そんなの自分じゃわかんないよ。
本当はね、私、自分に正直に。欲望も、欲求も、全て曝け出して生きていたい。
だけどそれはここじゃ出来ないみたい。
でもね、それってさ、制限がある中で工夫して新しい自分を生み出すチャンスかもしれないって思ったの。
だからね、いつもの自分とは違う、新しい道を歩く事にしたの。
着飾っても、媚びてでもいい。多少背伸びしても無理してても、それは新しく生み出された自分なんだって考える事にしたんだ。
それはもしかしたら、すごくカッコ悪くて、どうしようもないつまらない事かもしれない。
だけどね、私、失敗は成功の元だって、昔好きだった先生に教えてもらったの。
本当はね、全てを曝け出した私の裸をみんなに見て欲しいんだけど。
それはここではダメみたいだから。私、着飾って踊ってみる事にする。
滑稽でもいい。暇つぶしにでもしてよ。私の事なんて。
それでもあなたの何かを動かせたのなら、きっと私の勝ちなんだと思う。
負け続けるかもしれないけど・・・準備はいいかな。
私、これから風呂敷を広げるから。眺めても踏みつけても構わないよ。
あなたの好きにして。私の一部を視姦して。
あなたが外で遊び歩いて、気が向いたときにここに来てくれればいいから。
都合のいい女でいいから。私は、あなたが来てくれた時にいつでもここにいるわ。
あなたは忘れていても、私はここで待ってるから。
お願い。
一生に一度でいいから、ここで私の一部を抱いて欲しいの。」
『さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。夢見るウェンディ、時を追い掛けるアリス。
そんなものとは比べ物にならないただの売女の独り語りだよ!
お題は結構、いつでも無料。24時間営業と来たもんだ。
いつでも見に来て良いよ、チラシは街中にばら撒いた!
さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。』
「もしかしたら、私が女だからって馬鹿にしてる?
いいわ、せっかくだから、私、自分を偽ってあげる。
あなたに純粋に見て欲しいから、男の名前にしておくわ。
いえ、決して腐女子ってワケじゃあないのよ。
あなたの見えない所で、私だってわからない形で。
私が女だって気付いたら視姦して欲しいだけなんだから。
これは火遊び。私のワガママ。
さあ、私と言う名の物語が始まるわ。
時間と気持ちの許す限り、ごゆるりと楽しんで行ってね。
それじゃちょっと幕外に失礼。」
それは壮大な裏切りであり、実験である事には間違いが無かった。
誰もが羨むその人間を、憧れる人間だけで実行しなければならない。
理由なんてどうでも良かったのかもしれない。小さな事が積み重なって、
皆が裏切られたと感じる頃には、私は少しづつ話を進めていくことにした。
希望者を募る・・・と言っても途方も無い時間が掛かると思われた。
しかしながら人の興味というものはどうやら予想以上に力を
持っていたようで、噂を流すだけで自然と集まる動きが、
そしてひとつのプロジェクトとしての流れが出来上がって行った。
発案者は私であったが、自己顕示欲の強い者たちが自分が自分がと
名乗り出てくれたおかげで、少なくとも主犯格にならずに済みそうだった。
もしかしたら・・・いや、成功する可能性は少ないかも知れないと思っていた。
しかしながら復讐するにあたって、殺すことよりも苦しませる方が、より長く
悔恨と、理不尽さを彼自身が思い知る結果になるであろうことにほくそ笑む。
会場に集まるのは希望者のみでなければならない。
被害者が増える可能性があるからだ。しかし彼以外の人間には
情報が万遍なく伝わるはずである。スタッフも裏切られたと
感じていることを何度も確かめ、良く精査した上で確信を得た。
彼の知名度は高いが、人間的には褒められたものでは無かったのかもしれない。
それでも皆が憧れるだけのカリスマ性があったが、それに応えるだけの
誠意が足りなかったのだろう。可愛さ余って憎さ100倍。そんな言葉が
頭を掠め、これ以上無い状況を表す語句だなと苦笑した。
当日のチケットはSOLD OUT。至極当然の事だっただろう。
それだけの人数が皆、復讐をしたいと思っていたのだ。
事前に用意された耳栓は、それぞれの耳に嵌められた。
これ以上無いほどにそれぞれが正確に時計を合わせて来た事だろう。
成功しないにしても、息がピッタリと合わなければ実行すら出来ない。
それにしても耳栓をしても、大きな音は聞こえるものだなと、
身体で感じながら、精一杯会場全体が楽しむフリをしていた。
彼は自分が復讐されるなどと思ってもいないだろう。
誰か彼に伝えるような裏切り者がいなければ、の話だ。
中には半信半疑の興味本位で参加しているものもいるかもしれない。
成功すれば確実に、一生残る傷を与えられるというのにだ。
アンコールを迎え、シンと静まり返った。
時間だ。
全く同時にたった一度の拍手。楽器の音が彼の鼓膜を。
誰もが羨むその人間を、憧れる人間だけで実行しなければならない。
理由なんてどうでも良かったのかもしれない。小さな事が積み重なって、
皆が裏切られたと感じる頃には、私は少しづつ話を進めていくことにした。
希望者を募る・・・と言っても途方も無い時間が掛かると思われた。
しかしながら人の興味というものはどうやら予想以上に力を
持っていたようで、噂を流すだけで自然と集まる動きが、
そしてひとつのプロジェクトとしての流れが出来上がって行った。
発案者は私であったが、自己顕示欲の強い者たちが自分が自分がと
名乗り出てくれたおかげで、少なくとも主犯格にならずに済みそうだった。
もしかしたら・・・いや、成功する可能性は少ないかも知れないと思っていた。
しかしながら復讐するにあたって、殺すことよりも苦しませる方が、より長く
悔恨と、理不尽さを彼自身が思い知る結果になるであろうことにほくそ笑む。
会場に集まるのは希望者のみでなければならない。
被害者が増える可能性があるからだ。しかし彼以外の人間には
情報が万遍なく伝わるはずである。スタッフも裏切られたと
感じていることを何度も確かめ、良く精査した上で確信を得た。
彼の知名度は高いが、人間的には褒められたものでは無かったのかもしれない。
それでも皆が憧れるだけのカリスマ性があったが、それに応えるだけの
誠意が足りなかったのだろう。可愛さ余って憎さ100倍。そんな言葉が
頭を掠め、これ以上無い状況を表す語句だなと苦笑した。
当日のチケットはSOLD OUT。至極当然の事だっただろう。
それだけの人数が皆、復讐をしたいと思っていたのだ。
事前に用意された耳栓は、それぞれの耳に嵌められた。
これ以上無いほどにそれぞれが正確に時計を合わせて来た事だろう。
成功しないにしても、息がピッタリと合わなければ実行すら出来ない。
それにしても耳栓をしても、大きな音は聞こえるものだなと、
身体で感じながら、精一杯会場全体が楽しむフリをしていた。
彼は自分が復讐されるなどと思ってもいないだろう。
誰か彼に伝えるような裏切り者がいなければ、の話だ。
中には半信半疑の興味本位で参加しているものもいるかもしれない。
成功すれば確実に、一生残る傷を与えられるというのにだ。
アンコールを迎え、シンと静まり返った。
時間だ。
全く同時にたった一度の拍手。楽器の音が彼の鼓膜を。
最初から情報は得ることが出来た。わかっていてどうすればそれを防ぐことが出来るのかと言う問いに、まず不可能であろう事は最初からわかっていた。
何しろ相手にその動作を許して、何をされるのかがわかっているのに生き残らなければならない。与えられるのはまず致死量であろう。挑戦しようとしている人間がどうかしているのは素人考えでもわかることだった。
つまり、自分は本当に死にたかったのだ。だからこの実験なのか罠なのか淡々とした作業なのかはわからないが、そこかしこで少し深い所に潜れば見つかる怪しい募集に心惹かれるのは仕方の無い事だった。
圧倒的絶望。
マゾヒストとかそういうレベルをとうに超えてしまうほど、どうしようもない価値観に捉われていた。多分自分は自殺志願者ではなく、死にたくないのに死ぬ恐怖を味わいたいだけなのだ。
募集要項には、実験内容は書いてあっても、提供される情報以外の質問には答えられないとの事。きっと自分には最高の最期を迎えられるであろう想像をするだけで、喜びに身を震わせることが出来た。
自分には全く以って何も無かった。手に入れようとも思わなかったし、いつ死んでも良いと思っていたから、俗に言う一人、そう世間で言えば孤独と言う状態だったと思う。
しかしながら誰といても退屈なのは変わらなかったし、何一つ不満なことなど無かった。だけど死んでみたいなとは常々思っていたので、確実な『死』を与えられる機会を待っていたのだ。
期日がやって来て、待ち合わせ場所に佇む。後ろから声をかけられ、目隠しをされてどこかに運ばれる。車に乗せられたようだった。そして車から降りる。外の空気からどこか室内の空気に変わるのがわかった。椅子に座らせられる。目隠しを解かれると、黒尽くめの男が目の前に座っていた。
「これから、握手をしてもらう。チクリとした後、君には死が訪れるであろう。しかしもし生き残れば多大な報酬を得ることが出来る。ただ、君が手のひらから摂取する毒は、致死量の数百倍だ。体力に自信があるとか、その程度なら楽勝・・・いや、楽ではないな。天に召されるであろう。やめるなら今のうちだ。」
問い掛けだと受け取って、首を横に振る。
「それでは、準備はいいかな?」
思ったよりも怖くない。どこか、冗談めいた淡々とした語り口調が、無駄に恐怖を煽ら無いせいだろう。もう少し怖がらせてくれてもいいものだが。
相手の手が伸びて来た。迷わず握り返した。背筋が凍ることも無い。拍子抜けだ。もしかしたら死ぬ前に生まれて初めてガッカリしたのかもしれない。そうだ、自分は期待していたのだ。苦しいのか、痛いのかはわからないが、相当な苦痛を経て死を迎えられるはずだ。
チクリとした後、しばらく握手していた。しかし、いつまで経っても死ねなかった。
そう、死ねなかった。
それこそが自分にとっての本当の絶望だった。
毒など塗られていなかったのだ。
家に帰された後、首を吊った。
何しろ相手にその動作を許して、何をされるのかがわかっているのに生き残らなければならない。与えられるのはまず致死量であろう。挑戦しようとしている人間がどうかしているのは素人考えでもわかることだった。
つまり、自分は本当に死にたかったのだ。だからこの実験なのか罠なのか淡々とした作業なのかはわからないが、そこかしこで少し深い所に潜れば見つかる怪しい募集に心惹かれるのは仕方の無い事だった。
圧倒的絶望。
マゾヒストとかそういうレベルをとうに超えてしまうほど、どうしようもない価値観に捉われていた。多分自分は自殺志願者ではなく、死にたくないのに死ぬ恐怖を味わいたいだけなのだ。
募集要項には、実験内容は書いてあっても、提供される情報以外の質問には答えられないとの事。きっと自分には最高の最期を迎えられるであろう想像をするだけで、喜びに身を震わせることが出来た。
自分には全く以って何も無かった。手に入れようとも思わなかったし、いつ死んでも良いと思っていたから、俗に言う一人、そう世間で言えば孤独と言う状態だったと思う。
しかしながら誰といても退屈なのは変わらなかったし、何一つ不満なことなど無かった。だけど死んでみたいなとは常々思っていたので、確実な『死』を与えられる機会を待っていたのだ。
期日がやって来て、待ち合わせ場所に佇む。後ろから声をかけられ、目隠しをされてどこかに運ばれる。車に乗せられたようだった。そして車から降りる。外の空気からどこか室内の空気に変わるのがわかった。椅子に座らせられる。目隠しを解かれると、黒尽くめの男が目の前に座っていた。
「これから、握手をしてもらう。チクリとした後、君には死が訪れるであろう。しかしもし生き残れば多大な報酬を得ることが出来る。ただ、君が手のひらから摂取する毒は、致死量の数百倍だ。体力に自信があるとか、その程度なら楽勝・・・いや、楽ではないな。天に召されるであろう。やめるなら今のうちだ。」
問い掛けだと受け取って、首を横に振る。
「それでは、準備はいいかな?」
思ったよりも怖くない。どこか、冗談めいた淡々とした語り口調が、無駄に恐怖を煽ら無いせいだろう。もう少し怖がらせてくれてもいいものだが。
相手の手が伸びて来た。迷わず握り返した。背筋が凍ることも無い。拍子抜けだ。もしかしたら死ぬ前に生まれて初めてガッカリしたのかもしれない。そうだ、自分は期待していたのだ。苦しいのか、痛いのかはわからないが、相当な苦痛を経て死を迎えられるはずだ。
チクリとした後、しばらく握手していた。しかし、いつまで経っても死ねなかった。
そう、死ねなかった。
それこそが自分にとっての本当の絶望だった。
毒など塗られていなかったのだ。
家に帰された後、首を吊った。
『じゃんけんぽん!』
「パー!」
「パー。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「グー!」
「グー。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「チョキ!」
「チョキ。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「ピストル!」
「ピストル。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「ダイナマイト!」
「ダイナマイト。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「パー!」
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「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「グチョパ!」
「グチョパ。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「パー!」
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「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
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「グー!」
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「チョキ!」
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「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「ピストル!」
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「グチョパ!」
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「チョキ!」
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『じゃんけんぽん!』
「グチョパ!」
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「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
あれから60年が経った。
0勝0敗21900引き分け。
無効試合も無くて。
何の意味も無い。
「パー!」
「パー。」
「あいこかー。また明日ね。」
「うん。またね。」
『じゃんけんぽん!』
「グー!」
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