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完全フィクション
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暑い。

こう暑くては水を飲むなだのクーラーを使うと体力が失われるだのと体育会系で叩き込まれた私にも、どれだけ水分や冷暖房が大切か痛感するようになった。何より以前よりも実際にはるかに暑いのだから、こればかりはどうしようもない。ちっぽけな人間たちは自然様には勝てないのだ。

白旗を上げた私は周りに店の見当たらない郊外にいる事を後悔しながらも、どうにか自動販売機を見つけて、水をペットボトルで購入する。別に子供たちが遊んでいる水飲み場でも良かったのだが、どうせ飲むなら美味い水が良い。改善はされているだろうけど、公園の水はどうも実際に飲んでも不味い気がする。

日陰のベンチで一息ついて、水を飲みながら砂場に揺らめく蜃気楼を眺めていた。





運が良いのかどうか、目の前に好きな子が座る事になった。これだからみんなが席替えしたがるのがわかる。もちろん自分の目当てや仲良しの友達と一緒になれるとは限らない。それでも現状を打破する為の手段として、色めき立つのも仕方の無い事だった。

前を見れば彼女がいる。私にとって仲の良い友達でもあり、表には出さないものの憧れを抱いていた美しい彼女が毎日目の前にいると言うその事実が、毎日を楽しくさせてくれた。

真夏にもなれば皆当然夏服になって、思春期真っ盛りの私には、ブラウスから透けて見える下着も、無粋ながら楽しみの一つでもあった。

彼女の屈託のない笑顔と、明け透けな性格。毎日たくさん話をして、たくさん笑った。彼女との思い出はとても素敵だったと言える。



卒業してしばらくしてから彼女と出会う機会もあった。両想いだった事は他の友達から知らされていたが、お互い過ぎた事だと認識していたはずだ。酒の席で、明け透けな彼女らしいツッコミを入れられた。

「毎日下着透けてるの見てたでしょ?あなたの為に毎日考えるの大変だったわよ(笑)」

ここで盛り上がる男女もいるのだろうが、懐かしい思い出として、一言謝った。彼女も私も、素敵な思い出をいかがわしい肉欲で汚したいとは思わなかったのだと思う。愛情とは何か違う…。そうだな。思い出を共有した親友の様な、そんな心持ちだったのかもしれない。





おお。いかんいかん。目を開いたまま回想に耽るなんて、まるで白昼夢じゃないか。仕事をほったらかしにして妄想に耽っている場合じゃない。充分ではないが、涼も取れたし、体力も回復した。それでは日差し降り注ぐ仕事に戻るとしようか。いざ出陣。
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最近巷で噂の流行っているチョコレートがある。

何故か包装にはアルミと真っ黒い紙が使われているだけで、名前の無い、それでいて物凄く美味しくて中毒性のあるチョコレート。

移動式の屋台のようなトラックで販売されているらしく、お目にかかる事自体が難しい。それでいて中毒性が高いと言うのだから不思議だ。当然、一部で問題にもなり始めている。…のだが。

記者としてこれ以上無いネタだと思い、脚を使って地道に調べる事にした。



半年も経って実態が掴めない所に、信頼できる筋からそのチョコレートだけを入手する事が出来た。中毒性が高いと言う噂通り、ほんの少ししか分けてもらえなかったのだが、それでも実物があると無いとでは情報の数が違う。

万が一のことを考えて、食べるのはやめておくことにした。曰く、女性や子供の前に現れる事が多いと言われているその屋台。まるで怪談のようだが、実は今回分けてもらえたのも子持ちの話好きな主婦から分けてもらったのだった。

見た目、匂いなどは特に何の変哲も無い。聴けば、味は極々普通のチョコレートに近いそうなのだが、何かが違うらしい。

知り合いに頼んで成分分析をしてもらった。一つ分かったのは、どんな種類かはわからないが、動物性の脂肪が含まれているのでは無いか、との事。

ラードか牛脂を混ぜているのか…?それにしたって、臭くなりそうなものだが…。



また半年経ってからの事。全くの偶然だとは思うが、その移動式の販売トラックにで合う事が出来た。購入しようとすると、

「あんたはもう持っているだろう。それを食べれば良いじゃないか。」

と透かされてしまった。

「何故それを?」

「あんたからこのチョコレートから匂う独特な、ほのかな香りがしたからね。俺は鼻が良いんだ。悪いな。ヒッヒッヒ…。」

と気味の悪い笑みを浮かべ去って行った。



それから何年も経って。やっとの思いで工場を突きとめる事が出来た。いや、正確に言えば工場長と、工場を見せてもらえる約束を取り付けたのだ。時間通りに待ち合わせ場所に現れた工場長。見た目小奇麗な紳士だが、服装はコックそのものだ。

「製造過程を知りたいのか?」

「問題にも上がっている。調べたくなるのも無理は無い。」

「それでは、こちらにどうぞ。」





彼が工場の中で見たものを世間に発表する事は無かった。彼は工場から二度と出る事は無かったからだ。そして、彼もまたチョコレートの

「おっと!これ以上は企業秘密ですよ。ふふ。」
絶望と言うものは、生きる力さえも失ってしまうものだ。

しかしながらそこから這い上がれば積んで来た経験が幸せへと誘う材料にだって成り得る。ドン底まで転がり落ちたさらに底の底から、やっとの事で辿り着いたスタートラインは明るかった。

負の感情、負の遺産が溜まってゼロでは無いにしても、マイナスからのスタートでも前に進む事が出来る。

例えさらなる纏わり付くような乞食がいたとしても意に介さない。適当にあしらって自分の道を突き進むだけだ。

その道を歩くのも走るのも、そして景色を眺め存分に楽しみながら進むのも自分次第。そこに他人の入る余地なんて無い。これは俺の人生だから。誰が変わりに生きてくれる訳でも無い。

本当に大切なものは、人間の心にある。断じて地位や名誉や名声などでは無く。金は生きる為の最優先の手段であって、大事ではあるけれど、一番大切なものでは無い。一つを守れば他を捨てなければいけないと言う訳でも無い。そう言う意味では強欲に全てを抱えて歩いて行って良いんだ。もちろん捨てるべきどうでも良いものもたくさん存在するけれど。

とかくこの世はつまらないなんて想いは、楽しむ心が無いからそう思うようになるのだ。状態が悪ければ楽しめるものも楽しめなくなる。少しづつ積み重ねて見た同じ景色は、違った風に見える。





何もかもを捨て去って、どうでも良くなったとある誕生日の日の夜。実家で御馳走になった後、誰もいないホームで、音楽を聴きながら冬の寒さに包まれて心地良さを感じていた。

「これから先、俺の人生には何も無いのだろうな。」

ポツリと呟いた。

本当にそう思っていた。もういつ死んでもいいんだな、と。充分楽しんだ。これ以上の奇跡は無いじゃないか。

かといって自殺がしたい訳でも無く。ただ淡々と。自分の人生を諦めていた。

家族と少しでも多くの時間が過ごせればいいかと。そう思っていた。

死んで行く事に後悔なんて無かった。怖くも無かった。俺の人生はここまでなんだと痛感していた。





はずだった。





色々あって今はまたスタートラインに立っている。

かかとのすぐ後ろにはいつだってボーダーライン。

絶望を超えて来たと言う事は、そういう事なのだ。

もう後ろは、振り返って眺めたとしても、後ずさりはしない。

もし万が一後ずさりしたとしても、また前を向いて歩いて行ける。

永遠なんて無いけど、やっとのことで辿り着いた、掴んだこの状態は、自分の意思で手放す事は無いだろう。
日常と言う言葉がなんなのか、私は知らない。





毎日毎日。

数え切れないほどの銃声と血、死体の山、山、山。

普通と言う言葉も、私にはわからない。毎日が異常だと思うけれど、ここではこれが通常で日常と呼ばれる光景だ。

私は子供だから戦わなくて済む。だけど大人はどんどん天に召されて行く。人が死んで本当に天に召されるのかは、死んだ事が無いからわからないけれど。いつか私も大人になる。私が大人になるのと、大人がいなくなって子供の私が戦わなければならなくなるのと、どっちが早いかな。

凄惨とか言う言葉で表現すればいいのだろうか。毎日見れるその光景は私は見たく無いから毎日隠れていた。いつか殺されるかもしれない。その恐怖でいっぱいだった。

昨日まで話していた人が、次の日には死んでいる。そんな事を繰り返していたら、人と話す事もしなくなった。仲良くならなければ悲しむ必要も無い。悲しんでいる余裕なんて本当は無いのだけれど、人間は良く出来ているのか、やっぱり知っている人が死ぬと少しは悲しいらしい。ちゃんと涙が出た。

家族はもうどこにいるのかわからない。私とはバラバラになって、生きているのか死んでいるのかさえわからなくなった。幸い、誰も住まなくなった家を見つけては、食べ物を見つける事は出来た。こんな状態でも自分が生きていたいと思っているのかはわからないが、死にたくは無い。死にたかったとしてもお腹は減る。食欲に逆らえるほど気力も無かったし、何が正しいのかもわからないこの世界で、とりあえず生き残っていられる私は、先人の残した恩恵を素直に受ける事にした。

一体いつまで続くのだろう。自分が望まないこの毎日を、他人である大人がいつまで続けるのだろう。もし終わる時まで生き残れたのだとしたら、平和な毎日を生きてみたい。何をするのかはわからないけれど、働いて、お金を稼いで。家族を探して、生きていたら一緒に仲良く暮らして行きたい。





しかしながら願いは叶わなかった。

私は何故自分が死んだのかさえもわからぬまま、何やら背中から胸に物凄い熱い何かを受けた後、ひどく止める事も出来ない赤い血が広がって行くのを見つめながら、倒れたまま立てず、動く力を失っていくのも感じていた。視界は白くなって行き、意識も薄れて行く。

私は何のために生まれたのだろう。

死ぬ間際に浮かんだのは、そんな疑問だった。

それを誰かが眺めていた気がするが、私には誰だかわからなかった。
私のクローゼットには、服が数点しかない。寂しい。この空虚な思いを埋める為に、少しずつ買い物をして行く事にした。それほど私は、金持ちなわけでは無いから。

買い物をするのは楽しかった。色々な服を見れたし、小物に至るまで自分に似合うと思われるもの、とにかく見て気に入ったもの、面白さを感じたものなどなど。少しづつ、少しずつ趣味の無い私は何か没頭する事柄を得た喜びに満ち溢れながら、嬉々として服を集めた。

長年かけて集めたコレクション。少額なれど、回数を重ねればかけた金額は結構な値段になったと思う。クローゼットはいっぱいになった。だけど心は満たされない。

今度はクローゼットを買い足す事にした。自分で買った服を自分で着るようになり、私はおしゃれを楽しんだ。それはもしかしたら似合って無かったかもしれないけれど、私自身は楽しかった。そして色々な格好をして、また買い物に出掛けた。それが楽しみに輪を掛けて、さらに私を夢中にさせた。

気が付けば一部屋がいっぱいになった。クローゼットと、洋服で。保管するのも質を保つのにも必要なものがある。クリーニングもめんどくさがらずに出していたし、比較的、私のコレクションは清潔さを保てていたと思う。

そして私はたくさんのコレクションを前にして、何故だろう。以前と変わらない空虚な思いを抱いていた。しかしそれとは別の種類と感じる、満足感があった。クローゼットを開け放って、服が並んでいるのを眺めるだけでも、私の違う部分を満たしてくれていたのだと思う。

これだけ長い時間かけてやっと気づいたんだ。私が欲しかったのはこれじゃない。





私は、私が本当に欲しかったものを探しに、今まで集めてきた服を着て外に探しに出掛けた。本当に欲しかったものはなかなか見つからない。色んな場所に顔を出して、色んな人と友達になった。似たような人は見つかったけれど、そのたびに私は、これじゃない、この人じゃないと、妥協も出来ずに、出会っては別れ、出会っては別れて探し続けた。どうしても欲しかったのだと思う。洋服とは違う、たった一人の大切な人を求めて。

もちろんたくさんの嫌な目や耐えなければならない事もあった。だけど私にはそれが勉強になったし、たった一人の大切な人を探す為の手段を学ぶ事が出来たと思う。





そして、ついに見つけた。

もしかしたら添い遂げる事は出来ないかもしれない。

でも私は、長い時間を掛けて、育んで行こうと思う。
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